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「本のことども」by聖月

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2005年 09月 25日

◎「さよならバースディ」 荻原浩 集英社 1680円 2005/7


 評者は結婚と同時に、嫁さんの実家の隣に住み、今も住んでるし(自分は東京単身赴任中だが)、これからも住む(いずれ帰る)。で、娘たちが生まれたときも、それ以外の観点から見ても、ずっと隣に義母が住んでいるわけで、嫁さんと娘たちが不在の時間(人形劇鑑賞とか、福岡のいとこの家までお泊りとか)も大抵隣の家で義母が家事なんかしているわけで、ご飯の面倒はいいですと断っても洗い物しに来てくれるわけで、逆にいうと毎日実家の義母は我が家に来るわけで、毎日嫁さんは実家に帰っているわけで・・・何を言いたかったんだっけ・・・女を連れ込む暇もない?・・・ちゃうちゃう違う、お蔭様で薩摩男児な評者は、娘たちの成長の過程でお風呂にいれたこともないし、おしめも換えたことがないのである。

 普通だったら、自分が風呂にいれなくても、一緒に入っていた嫁さんが“パパ~”なんて呼んで“はいは~い”なんていって旦那が風呂上りの赤ちゃんの世話をしたりしちゃったりするのだが、あらかじめ呼んでおいた義母がその辺のことしてくれるわけで、薩摩隼人たる自分は、茶の間で晩酌したりしながら“おお、風呂上りのホカホカ感漂う娘も可愛いのう”なんて眺めていればいいわけである。

 でも、いくらなんでも父親なので、一緒に遊ぶこともあって、特にまだ小さいときなんか娘の頭の中を覗き込みながらゲームしたことなんかもあったわけで、頭の中を覗くとは、つまり例えば赤ちゃんたる娘と10ピースくらいしかないパズル(はめ絵)を一緒にすると、パパの真似をしてピースを置こうとするのだが、まだ上下とか左右の認識、形の認識が朧気なわけで上手くいかなくて、それがだんだんと出来てきたりすると、そこらへんの頭の構造が覗けて認識できるわけで、それまで“こいつボケ?”と思っていたのが“天才かもしれん!”と感ずるわけで、今度知育玩具買ったろかいと思うのだけど、知育玩具屋覗くとアホな玩具しかなかったりして、普通のおもちゃ屋に行って、結局“ミッキーのあいうえお”みたいなビニールパネルを押すと言葉を発するような玩具を買ってみるわけで、そんなのなくとも普通言葉を喋るようになるのだが、ただこの手のおもちゃを幼児期に買わなかった家庭はゴビ砂漠で共産党員を捜すより難しいだろう。

 実はそういう幼児期の発育状況に驚いたことがある評者なのである。なんかの拍子で嫁さんも義母もいない30分間お預かりというシチュエーションになって、当時下の娘はまだ生まれてなくて、上の娘と二人っきり留守番。上の娘の状況は、歩けるけど喋れない、けど発声(ナンゴって言うんだっけ)で、ある程度の意思表示はできるって感じだったかな。しばらくすると“パパ、チッチ”という言うわけで、“え、チッチしたの?”と訊くとウンウン頷く娘なわけで“じゃあ、紙おむつ換えなきゃね。そのくらいパパもできるぞ・・・さて、紙オムツどこにしまってあるのかなあ、そこが大問題・・・”というと、自分で押入れを開けようとする幼い娘がいるわけで、開けてみるとそこにオムツが買い置きしてあって、“天才かも!”とは思わなかったけど、娘の内部の成長を全然把握していなかったことに気付かされた評者のことであったことども。

 本書の題名にあるバースディというのはボノボ、いわゆるお猿さんなのだが、動物の場合、その個体内部の人間になぞらえた知識吸収っていうのは、本物かどうなのか難しい部分が多いようだ。“うちの娘、こんなに小さいのにもう右と左の区別がわかるのよ♪”なんて親馬鹿認識で断定したとしても、いずれそれは成長とともに認識されるものであることは間違いないのだけど、“うちのアイフル(犬のチワワ)、男の人と女の人の区別しっかりしてて、男の人見ると吠えるのよ♪”なんて言って、表面上それが事実のように見えるが、見ると吠えるという認識は間違いかもしれないわけで、単に成人男性のチンポの臭いが嫌いなだけかもしれないし、男女って言ったときの男女が果たして何歳から何歳くらいまで区別できるのか、男が女装、女が男装したらどういう反応を示すのか、そういう実験を繰り返して初めてその認識がどこから来るものかわかるわけで、チンポのついた綺麗なオカマに騙される人間様よりは偉いのかもしれん、というような下世話なことは本書には例示されていないが、まあそこらへんの話が中心なわけで、類人猿の言語学習能力を研究する主人公とバースディ(お猿さん)の物語である。

 実は、前作〇『明日の記憶』がいまひとつだった評者。確かに身につまされる題材で興味を持って読んだのだけど、予想される展開だけが上手く描写されていただけで、意外性とかの欠如に、少し退屈した読書だったのである。本書の話をどこかで見聞きしたときも、また背骨一本の話で、例えば言語を解する猿とその前に立ちはだかる困難&別れみたいな一本調子な物語を読まされるのかなあと少し危惧していたのである。またノンフィクションみたいのかな、なんてね・・・あ、そういうジャンルの内容だったのね。まるで真保裕一の小役人シリーズみたいな。

 何を期待して読むかで評価が変わってくる作品である。前作『明日の記憶』みたいなのを期待した人にはイマイチだったんじゃないかな。『明日の記憶』みたいのだったら嫌だなあと思っていた評者には中々面白かったぞ、色んな作りこみが。(20050925)

※全体シリアスな文体ながら、バースディがサッカーワールドカップのビデオが好きで、中でもドイツチームのキーパーにシンパシーを感じているなんてところが、いとおかし。(書評No572)

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by kotodomo | 2005-09-25 18:19 | 書評 | Trackback(4) | Comments(0)
Tracked from 日々のちょろいも at 2005-09-25 21:48
タイトル : 『さよならバースディ』読了。
 荻原浩『さよならバースディ』の感想をこちらに。前作『明日の記憶』があまりにも好きだったのでちょっと期待しすぎたかしら…。  昨日録画していたドラマ「ドラゴン桜」を一気に夜中の2時まで観ていてすっかり寝不足(笑)。ずーーーっとテレビ観てなかったからな…....... more
Tracked from 猫は読書の邪魔をする at 2005-09-27 17:21
タイトル : 荻原浩 『さよならバースディ』
大学の霊長類研究センターで、助手の田中真はボノボ(ピグミーチンパンジー)のバースディに言語習得実験を行なっていた。しかし、元々周囲からはあまり歓迎されない研究であることや、一年前に起こった前責任者の安達助教授の自殺など、問題もあった。そんな時にまた起きた、スタディルームでの研究スタッフの死亡事故。自殺なのか人の手によるものなのか。目撃していたのはバースディだけだった―。  恋愛とミステリと動物との交流を絡ませたお話です。けれど、その一要素であるミステリの部分をかなり弱く感じてしまいま...... more
Tracked from 活字中毒日記! at 2006-01-18 02:25
タイトル : 『さよならバースディ』 荻原浩 (集英社)
さよならバースディ荻原 浩 / 集英社(2005/07)Amazonランキング:14,597位Amazonおすすめ度:お猿さんだけが知っているAmazonで詳細を見るBooklogでレビューを見る by Booklog 山本周五郎賞受賞第一作。受賞作『明日の記憶』と同じようにシリアス系の作品。 ただし本作はミステリーテイストも含まれている。 タイトルにもなっているボノボ(ピグミーチンパンジー)のバースディは東京霊長類研究センターで生まれた天才子ザル。 人と会話の出来る有能猿である。 ...... more
Tracked from ヾ(=ΘΘ=)ノ日記 at 2006-02-10 02:17
タイトル : [本:ア行の作家]荻原浩『さよならバースディ』
いつも萩原浩の『神様からひとこと』を探しても見つからずに、しかたなく別の萩原作品を借りる、というパターンを繰り返しております。今回もそう。 ちょこっとひとの書評をのぞいてみて、あまり評判がよろしいとは言えない本書でしたが、なかなか面白かったですね。少なくとも、『明日の記憶』よかはずっとずっと良かったです。まあ、ボノボの言語習得実験に関わるなんだかんだを読むのは、一般ウケしない話かもしれませんが、ま、学習の実験なんてそんなもんだからなあ。 まあ、なかなか凝ったつくりというのではないでしょうか。私は、...... more


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