2005年 10月 10日
評者にとっては、リンカーン・ライムシリーズ以外のジェフリー・ディーヴァーノンシリーズ初読の作品。いや『悪魔の涙』だとか『静寂の叫び』だとか色々積んではいるんだけど(^^ゞしかし、やはりディーヴァー、読ませるし、一筋縄ではいかないストーリー・・・でも、文庫で650ページは厚かった。いや、文庫でこんなにエンタメ、お買い得ということかな(^.^) 時は1936年、ベルリンオリンピック開催に紛れて、一人の殺し屋がアメリカからドイツへ入っていく話。この殺し屋っていうのが主人公なんだけど、こいつがいい。いいやつである。殺し屋に対していいやつなんて変かもしれないが、ゴルゴ13より人情味もあるし、平凡な夢もあるし・・・ということで、読者の多くはこの主人公を応援しながら読むこととなる。 もう一人、注目株が、ベルリンの地でこの殺し屋の動きに早くから気付き捜査を開始する警視。これがまたいいやつで、捜査の基本は間違いないし、家庭においては父として素晴らしいし・・・ということで、読者の多くはこの警視も応援しながら読み進めることとなる。 ついでに、もう一人。狙われるナチの大物なのだが、まだ若き息子を亡くし、孫息子にその面影を感じる初老の男。こいつもなんだかいいやつそうで、結局読者はそういういいやつばっかり登場してくる話に、誰に軍配あがるの?最大多数の最大幸福で大団円?なんて考えながら読み進めることになるのである。 でもディーヴァーなのだ。読みどころの中心はそれだけじゃなく、いつものディーヴァー節健在なのだ。まずもって、いつものリンカーンシリーズと一緒で、語られる物語の期間が短い。読み誤るほどに短い。一週間くらいの話にも思えるのだが、実質は1泊2日。小学校低学年の宿泊学習並だ。その間に、友情は深まるし、恋愛もちゃんとあるし、事件も度重なるし、そして最後にはすべてが収斂していくんだから、相変わらずのディーヴァー節、ジェットコースターストーリー。そいでもって、期待のどんでん返しなのだが・・・これは秘密。欺かれないように読むか、普通の冒険物として読むかは、おまかせします。 ところで、ここに描かれる時代背景なのだが、物語の本筋を取り巻くこういう描写に面白さを感じるかどうかも、本書に対する評価に影響してくるのかもしれない。ヒットラーも登場人物の一人。諸外国の目をオリンピックという目隠しで謀りながら、今からナチが軍備増強をしようと目論む時期。これまで色んな小説の中でユダヤ人に対する迫害は読んできた評者だが、一方のアーリア人、要するに普通のドイツ人たちの生活と時代背景が評者には面白く読めた本書。ゲシュタボ、SSなどが、背後を闊歩する時代。とにかく一般の人々は、目をつけられないように戦々恐々の生活なのである。悪事を働かなくとも、目をつけられたらその先には恐怖が待ち受けている。いいがかり+糾弾+拷問+収容所送り。 結局は、大戦の終了、ナチの終焉となって平和なドイツが再び・・・とはならなかったよね、ね、ね。ベルリンの壁が無くなったのは、評者が20代半ばの頃。今でこそ、脱北者、独裁、人道とは、なんて一人世界の注目を集めている国もあるが、東と西のドイツの壁は高くいつまでも残っていた。あの壁を越えようとして、何人の人が銃殺されたことか・・・評者にとっては、つい最近の出来事なのである。中国の天安門事件しかり、東欧諸国の独裁政治しかり。 そういう意味で、本書は歴史小説なのである。帯にも(って、評者が読んだ本は図書館本で帯なし。あとがきに書いてあったので)“著者が初めて挑む歴史小説”のような惹句が書いてあるらしい。何をもって歴史小説と位置づけるべきなのかは評者にはわからないが、少なくとも歴史の色んな側面を考えさせられた評者にとっては、歴史小説であり、優れた冒険小説であったことども。(20051010) ※休みの日、丸一日かかって読みました。冒険映画を観たような読後感。(書評No579) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-10-10 13:25
| 書評
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