「本のことども」by聖月

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2005年 11月 23日

〇「悪党たちは千里を走る」 貫井徳郎 光文社 1785円 2005/9


 評者にはヴィオラニストの知り合いがいる。交響楽団に所属する傍ら、奥様と音楽教室を開いているのだが・・・ある日、極上の焼肉をご馳走してくれるというので(評者の周囲の人間はご馳走してくれる奇特な方々が多い)、その方の車で極上焼肉屋へ向かう。車の中には奥様も同乗。二人の会話が色々聞こえてくる。“教室にもう一台ピアノがいるんだけど・・・”と奥様。その後色んなやりとりがあって、結局結論は旦那のほうから“じゃあ、俺の弓を売って買うしかないな”・・・???・・・“もしもし”と割って入る評者。そのヴィオラの弓なんてものは中古品でも売れるのでせうか?ナンボのものなんでせうか?楽器類というものは、安いものは使えば値が下がるが、いい物は使うほど音が上がり値があがるということらしい。弓を売れば、ピアノ一台買えるくらいの値段になるらしい。それも買ったときの値段より高く売れるらしい。名器を名人が使っていればだ。ちなみに、ヴィオラ本体はナンボでせうか?と下世話な話を続ける評者。高めの外車よりは高いとのこと。ただし、800万で買って、何年か使って売りに出せば、1000万くらいにはなるとのこと・・・うひゃひゃ~、評者の住む世界とレベルが違うわ。そりゃあ、極上焼肉を庶民に食わせる義務があるわ。富の再配分だわ。税金の主旨みたいだわ。評者からすればお金持ちだわ。でも、ピアノ買うのに現金なくて、弓を売るということは・・・レベルや世界が違うだけで、やはり庶民といえば庶民。トップレベルの庶民。では、本当の金持ちは?っていうと。

 評者がまだ学生時代。友人の姉貴が大金持ちとお付き合いしていた。大金持ちといっても、20歳過ぎてまだ私大医学部に入学できない浪人生だったんだけど。よくある話で、車買うなんていうと、親がわかった200万なんてポイと振り込んでくれる話なんかだと、現実感なくともよくありそうな話。評者が言いたいのは、そういうエピソードじゃないんだ。この方、沖縄から東京に出てきて浪人中。親が仕送りしてたんだけどさ。一年間仕送りしてもらったお金を全部は遣わずに、ある程度貯めて・・・マンション買ったの!!!一体、月いくら仕送りしてもらってたんだか。ちなみに当時の評者の仕送られ額が8万。塾のバイトを始めて6万稼ぐようになったら2万になったという話は先日紹介した話だけど・・・いやあ、こういうエピソード聞くと、本当の金持ちって凄えなあ。

 本書『悪党たちは千里を走る』は、そういう金持ちからお金を騙し取ろうという主人公たち小悪党のお話。クライムコメディ。結局は誘拐物に話が発展していくわけで、そういう意味では荻原浩『誘拐ラプソディー』とか、五十嵐貴久あたりが描くベタコメディータッチの物語と似たようなテイスト。出版社の紹介にも“『慟哭』の著者がユーモアとスピードたっぷりに贈る、誘拐ミステリの新境地”とあるように、貫井作品らしい緻密な描写から一歩踏み出したお気楽娯楽小説である。最初は、ちょっとベタ過ぎない?と思ったが、小悪党のトリオが結成されたあたりからは、中々の面白さ。

 でも、この出版社の紹介文も実は正確ではなくて、そこが本書の瑕かな。序盤は確かに“スピード”はあるのだが、中盤からその“スピード”が失速、ちょっと読んでいて飽きがくるのである。もっと、パッパと展開しなさいみたいな。そういう意味で、400頁超の本書は冗長感が否めないのが難点かな。無駄な描写も散見、ミステリとしてのパズルのピースの嵌まり具合にギクシャク勘もあるし。

 それでも、ユーモア小説としては楽しめる一冊。ただし、悪党たちは千里走らない。4000キロも移動しないという意味ではない。限定された地域をウロウロするだけ。少なくとも題名から受ける印象、ロードノベルではないのでジャンルをお間違いなく(^.^)(20051123)

※結局、未だに◎『慟哭』の作家と出版社から紹介されるのは可哀想。あの名作◎◎『追憶のかけら』が、大いにヒットしていればなあ。あれこそ、このミス1位作品に相応しい傑作だったのに。(書評No595)

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by kotodomo | 2005-11-23 14:24 | 書評 | Trackback(7) | Comments(4)
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Commented by ココ at 2005-11-25 12:07 x
私はその<無駄な描写>にかなり振り回されました。
『追憶のかけら』は、本当によい作品ですねぇ。どうして話題に上らないのでしょうか……。
Commented by 聖月 at 2005-11-25 12:26 x
ココさんの感想を見ると確かに(^.^)
あの刑事の連れなんかいらないですよね。
『追憶のかけら』本当に盛り上がらなかった・・・嘆息。
いい作品なのにい。
Commented by ゆうき at 2006-02-18 14:24 x
こんにちは。
新しい本を読むたびに、こちらをのぞきに来るのですが、
聖月さんと似たような事を自分も書いた、というのはたぶん初めてで、
なぜかちょっと嬉しくなってしまいました。
えーと「帯に慟哭のと書かれるのは可哀想」という部分です。
本当に・・・いまだにあれが、一番のヒット作なんですね。
「追憶のかけら」読んでみたいと思います。では。
Commented by 聖月 at 2006-02-18 14:35 x
ゆうきさん こんにちは(^.^)

初貫井が『追憶のかけら』・・・俺ってこんな凄い作家を読んでいなかったの?と衝撃。
で『慟哭』読んで、まあまあ。もう少し手法が目新しくなくなった自分の読書の積み重ねのせいでしょうか。
そいでもって本書。抽斗を広く見せる作品かと。

でも、真摯ないい作家のようですね。


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