2005年 12月 01日
評者が、ジェレミー・ドロンフィールドの初邦訳作品◎◎『飛蝗の農場』を読んだのが(書評記事の末尾に読了日付を書いてある)2002/9/22である。その書評の内容を見ると、非常に面白く読んだことも書いてある。だから、このとき、年末のこのミスで何位かに入るかなあくらいには思っていた記憶がある。ところが、いざ蓋を開けてみると、何位かなあなんてランクではなく、堂々の1位。そして、世の人々がこぞって読み始め・・・面白くない、どこがいいのかわからない、なんていうのはまだよくて、このミスというランキングに対してマニアック過ぎるという反省を求める声や、マニアックになってきているというこのミス内部からの自省の声まで出てくる始末・・・評者には、普通に面白かったぞ!意味の繋がらない挿話を楽しく読み、それの連続性がわかってきたときは、う~む、珍しい手法、なんて唸ったぞ。 当時、面白さがわからなかった書評には、こんなのもあった。途中に挿入される過去の話が、アトランダムな並びになっていて読みづらかったみたいな・・・それは読み間違いである。もう今更だから、構成のネタバレに気遣うことなく述べるが、あの物語は二つの話が並行して進行するというよくある構成。片方では、飛蝗農場の女性主人公の元へ、ある記憶喪失の男性が転がり込む話。島田荘司の傑作『異邦の騎士』を彷彿とさせる。で、もう一つの話が、男の過去を解き明かす(ような)物語。(ような)と書いたのは、読み始めて、そうかな?と思いながら、違うのか?と思わせてしまう技巧が施されているからである。実はこの男、場所を変えるたんびに名前も変える。それだけならまだしも、その名前を変えて違う場所で生きる男の話を、まるっきり時系列を遡る形で挿話しているからである。わからない?本編に交互に挟まれて出てくる、記憶喪失男の過去の話が、時系列的に逆さまなのである。だから、挿話を最後のほうから順番に読んでいくと、この男の来たりし道が明らかになるという技法なのである。挿話自体も読ませるし、その構成がだんだんとわかってきたときは面白く感じたけどなあ。駄目だった人が多いみたい。 まあ、かく言う評者も、当時、読みながら戸惑いがあったことは否定しない。一体全体、自分が読んでいる物は何?みたいな。話の行く末も、それどころか、どんな話を読んでいるのかもわからないような戸惑いである。だから、それがわかったとき、面白いはずなんだけどさ。 本書『サルバドールの復活』も、その戸惑いは一緒。本編として、ある古城に閉じ込められる二人の女性の話が書かれているんだけど、ところがこの話が一向に進まないのである。今回は、途中に挟まれるフラッシュバックな挿話が、Aの話だったり、Bの話だったり、Cの話かと思ったらAダッシュの話だったりと、戸惑いは前作以上。一体全体、自分はどんな話を読んでいるのやら感が、読み進めるにつれ募るばかりなのである。 結局、本編が動き始めるのは、最後の最後なので、前作以上に多くの人が読みづらさを感じることであろう。恋愛物であり、ゴシックであり、古城物であり、最後には狂気が・・・最終的に物語が前作並みに爆発するのかと思えば、パンドラの函的な結末を迎えるのも、ひとつのサプライズなのかな。他にもエンディングを迎えるにあたって、色々とサプライズが・・・でも読みにくいよ(^.^)(20051201) ※上下巻あわせて約2000円&800頁。興味のある方で前作未読の方は、まずは飛蝗から。(書評No596) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-12-01 06:15
| 書評
|
Trackback(2)
|
Comments(0)
Tracked
from 日々のちょろいも
at 2006-01-10 19:28
タイトル : 『サルバドールの復活』読了。
ジェレミー・ドロンフィールド『サルバドールの復活(上・下)』の感想をこちらに。めちゃめちゃ独特な物語。ゴシックホラーに青春小説に恋愛小説に実験小説、そしてユーモア小説がぜんぶごった煮になったような作品で、読み進めば読み進むほど読者は混迷の中にたた....... more
Tracked
from 個人的読書
at 2006-05-17 23:06
タイトル : サルバドールの復活
ジェレミー ドロンフィールド, Jeremy Dronfield, 越前 敏弥 サルバドールの復活〈上〉 ジェレミー ドロンフィールド, Jeremy Dronfield, 越前 敏弥 サルバドールの復活〈下〉 「サルバドールの復活」 ジェレミー・ドロンフィールド・著 東京創元社・出版/... more |
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||