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「本のことども」by聖月

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2005年 12月 01日

〇「サルバドールの復活」上下 ジェレミー・ドロンフィールド 創元推理文庫 各982円 2005/10

 評者が、ジェレミー・ドロンフィールドの初邦訳作品◎◎『飛蝗の農場』を読んだのが(書評記事の末尾に読了日付を書いてある)2002/9/22である。その書評の内容を見ると、非常に面白く読んだことも書いてある。だから、このとき、年末のこのミスで何位かに入るかなあくらいには思っていた記憶がある。ところが、いざ蓋を開けてみると、何位かなあなんてランクではなく、堂々の1位。そして、世の人々がこぞって読み始め・・・面白くない、どこがいいのかわからない、なんていうのはまだよくて、このミスというランキングに対してマニアック過ぎるという反省を求める声や、マニアックになってきているというこのミス内部からの自省の声まで出てくる始末・・・評者には、普通に面白かったぞ!意味の繋がらない挿話を楽しく読み、それの連続性がわかってきたときは、う~む、珍しい手法、なんて唸ったぞ。

 当時、面白さがわからなかった書評には、こんなのもあった。途中に挿入される過去の話が、アトランダムな並びになっていて読みづらかったみたいな・・・それは読み間違いである。もう今更だから、構成のネタバレに気遣うことなく述べるが、あの物語は二つの話が並行して進行するというよくある構成。片方では、飛蝗農場の女性主人公の元へ、ある記憶喪失の男性が転がり込む話。島田荘司の傑作『異邦の騎士』を彷彿とさせる。で、もう一つの話が、男の過去を解き明かす(ような)物語。(ような)と書いたのは、読み始めて、そうかな?と思いながら、違うのか?と思わせてしまう技巧が施されているからである。実はこの男、場所を変えるたんびに名前も変える。それだけならまだしも、その名前を変えて違う場所で生きる男の話を、まるっきり時系列を遡る形で挿話しているからである。わからない?本編に交互に挟まれて出てくる、記憶喪失男の過去の話が、時系列的に逆さまなのである。だから、挿話を最後のほうから順番に読んでいくと、この男の来たりし道が明らかになるという技法なのである。挿話自体も読ませるし、その構成がだんだんとわかってきたときは面白く感じたけどなあ。駄目だった人が多いみたい。

 まあ、かく言う評者も、当時、読みながら戸惑いがあったことは否定しない。一体全体、自分が読んでいる物は何?みたいな。話の行く末も、それどころか、どんな話を読んでいるのかもわからないような戸惑いである。だから、それがわかったとき、面白いはずなんだけどさ。

 本書『サルバドールの復活』も、その戸惑いは一緒。本編として、ある古城に閉じ込められる二人の女性の話が書かれているんだけど、ところがこの話が一向に進まないのである。今回は、途中に挟まれるフラッシュバックな挿話が、Aの話だったり、Bの話だったり、Cの話かと思ったらAダッシュの話だったりと、戸惑いは前作以上。一体全体、自分はどんな話を読んでいるのやら感が、読み進めるにつれ募るばかりなのである。

 結局、本編が動き始めるのは、最後の最後なので、前作以上に多くの人が読みづらさを感じることであろう。恋愛物であり、ゴシックであり、古城物であり、最後には狂気が・・・最終的に物語が前作並みに爆発するのかと思えば、パンドラの函的な結末を迎えるのも、ひとつのサプライズなのかな。他にもエンディングを迎えるにあたって、色々とサプライズが・・・でも読みにくいよ(^.^)(20051201)

※上下巻あわせて約2000円&800頁。興味のある方で前作未読の方は、まずは飛蝗から。(書評No596)

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by kotodomo | 2005-12-01 06:15 | 書評 | Trackback(2) | Comments(0)
Tracked from 日々のちょろいも at 2006-01-10 19:28
タイトル : 『サルバドールの復活』読了。
   ジェレミー・ドロンフィールド『サルバドールの復活(上・下)』の感想をこちらに。めちゃめちゃ独特な物語。ゴシックホラーに青春小説に恋愛小説に実験小説、そしてユーモア小説がぜんぶごった煮になったような作品で、読み進めば読み進むほど読者は混迷の中にたた....... more
Tracked from 個人的読書 at 2006-05-17 23:06
タイトル : サルバドールの復活
ジェレミー ドロンフィールド, Jeremy Dronfield, 越前 敏弥 サルバドールの復活〈上〉 ジェレミー ドロンフィールド, Jeremy Dronfield, 越前 敏弥 サルバドールの復活〈下〉 「サルバドールの復活」 ジェレミー・ドロンフィールド・著 東京創元社・出版/... more


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