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「本のことども」by聖月

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2005年 12月 10日

◎◎「カリフォルニア・ガール」 T・ジェファーソン・パーカー 早川書房 1995円 2005/10


 静かに宣言するが、600冊目の書評である。思えば遠くへ来たもんだである。いや、600冊以上の書評や感想を並べている人も多いが、他人は関係ない。4年半前、最初で4冊の書評を載せたときに、こんなに遠くまで来ることは想像できなかったわけで、でも半永久的に重ねていくんだという結果の途中が今である。何も考えず、積み重ねて、たまに来た道を振り返る、そういうところに、他人にはわからない自分だけの満足感がある。それでいいのである。

 ということで、100冊目はなんだったかな、200冊目は、300冊目はで“書評一覧”を先ほど眺めてみた。いつもそうなのだが、特に記念碑的な作品を読もうとしていない。たまたまの本が節目に来ている。でも、100冊前は、200冊前はこんな本を読んでいたのかで、懐かしさはあるぞ。

 ところで、評者の場合、ブログに移行したのが、2004年10月4日。それまでは、あるサイトのコンテンツとして書き続けていたのだが、単に場所移動だけじゃ物足らず、いっそのこと全部移してしまえ!の作業を続けて今の「本のことども」by聖月の有り様がある。お蔭で、いつ何を読んだか、このブログ内でわかるので、自分でも便利なのだが・・・。

 実は前のサイトはもうない。以前の管理人が連絡も寄越さず、勝手に消してしまった。もし、移行作業をしてこなければ、いつ何を読んだのか、自分でもわからない状態になっていたのか?・・・で、ちょっと調べてみた。「Internet Archive: Wayback Machine」というものが世の中にはあって、この中には世界中のサイトのアーカイブラブラリーが所蔵されているのである。旧サイトのアドレスを入れて調べてみると・・・なんとこんな風にアーカイブが所蔵されているじゃないか。おまけに最終のバージョンまで・・・ブログに移行する直前の405冊までのサイトがそのままに所蔵されておる。映像関係は失われているが、形式的にはそのまま。ウレピイ。さすが、伝説のサイト「本のことども」である(^^)vえ?行き着かない?教えろって?・・・『本のことども』じゃっど!!!永遠のアーカイブ、ここにありである。書評によっては、移行される前の、前サイトのほうが色つきで見やすい場合もあるので、是非ご覧くださいませ。あと、普通のキャッシュと違って、サイト内のリンクがほとんど生きているので、書評というコンテンツだけ考えるならば、ほぼすべてそのまま残されている・・・化石だ、奇跡だ!!!

 まあ、600冊大記念の枕はこれくらいにして・・・100冊毎の節目に特に目論見を持たずに読んできた評者だが、本書『カリフォルニア・ガール』は、600冊という節目を飾るに相応しい素晴らしい作品である。本邦初紹介作品であった著者の『サイレント・ジョー』より、作風も物語性もこちらのほうがずっと好みの評者なのである。どちらの作品でもアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を受賞しているのだが・・・っていうか、この賞を二回も受賞すること自体が稀有なのである。なのに敢えて2回目を与えられたということは、他の作家の作品ではなく、この作家に再び与えたということは、それだけ素晴らしい作品だからなのである。藤原イオリンにもう一度直木賞を与えるようなものである。綿矢りさ姫にもう一度芥川賞を与えるようなものである。芥川賞を受賞した町田康に、『告白』で直木賞もあげちゃうからみたいなものである。そういうつもりで、是非、手にとって読んでみてほしい佳作でなのである。

 一応ミステリーなのだが、このミステリー部分がなくとも、充分に物語性があるし、その紡がれる物語の中に、この作家の天性の語り部としての技量が伺える。どうしてたったこれだけの事件を、こういう深い鮮やかな彩で描けるんだろう。凄いなあ。流石だなあ。印象的なシーンもいっぱいで、とにかくミステリーというよりは、小説という広いジャンルに置いたほうが相応しい作品である。

 物語は1954年の、カリフォルニアの少年たちから始まる。自分たち4兄弟と、つまらない事件を背景に対立する3兄弟の果し合いのシーンから始まる。なんとか相手を追い払い、へたれながらも心の中で勝鬨をあげる兄弟の前に、二人の少女が現れる。対立3兄弟の決闘を覗いていた二人の幼い姉妹の登場である。逃げていく兄たちを追う前に、一人の少女は石を投げて、それから駆け出していく。もう一人の少女の行動は・・・このシーンが凄くいい。何気ないのだけど、あどけなさと生意気の入り混じった少女の行動の描写が、強く心に残ったシーンである。

 そして、そこからの未来で、この少女は惨殺されるのだけど、そこで描かれるものはミステリーに重心を傾けない。そこでは、青春期の兄弟愛、恋愛、将来に対する欲望、そういうものが素直に幾重にも描かれていく。惨殺の犯人も動機も置き去りにして、読者は兄弟の成長小説を読まされていくのである。読ませるぞ。

 そして、何よりもいいのが、必要充分な時代背景の描写。評者は1962年生まれだから、そこから数年前の話に始まり、評者の幼き時分のアメリカの文化を文明を物語の隙間に埋め込んでいく。反共、ベトナム、ビーチボーイズ、ドラッグ、イッピー・・・。上手いなあ。同じときを、全然違う環境で育ってきた評者にも、なんだかその時代が等身大で映ってくるのである。

 今年一番の翻訳物、万人向けの小説である。ミステリーとして読むよりは、小説として読むべし、読むべし、べし、べし、べし!(20051210)

※このミス2006年版の6位ランクイン作品であるが、実力はもっと上。(書評No600)

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by kotodomo | 2005-12-10 10:35 | 書評 | Trackback(1) | Comments(2)
Tracked from soramove at 2008-08-02 21:50
タイトル : 「カリフォルニア・ガール」ミステリー仕立ての年代記
「カリフォルニア・ガール」★★★★ T・ジェファーソン・パーカー著 ハヤカワ文庫、653ページ 本を手に取ったとき そのズシリとした感触に心が躍る、 前作「ラグナ・ヒート」はこの作家のデビュー作で この作品はワリと好きだったから このノー天気なタイ...... more
Commented by 七生子 at 2005-12-10 21:45 x
書評600冊達成、おめでとうございますー♪
「アーカイブラブラリー」なるものが存在しているんですね。
さっそく以前のサイトを拝見させていただきました。
ちょろいもさん経由で、何度かお邪魔したことがあったんですが、
わー!そっくりそのまま残ってる!(読み逃げしちゃってすみませんでした)
リンクまで生きてるなんてものすごすぎ!さっそくブックマークしました。

これから先も1000冊、2000冊、そしてもっともっと!
聖月さんの書評が今後もどんどん更新されますよう、楽しみにしてます。
オススメしまくってくださいませー♪
Commented by 聖月 at 2005-12-11 07:45 x
ありがとうございますm(__)m
単なる通過点なんですが、振り返ると、結構積んできたなあみたいな(^.^)

あのアーカイブライブラリー使えまっせ。「本のことども」だけがあるんじゃありませんから(笑)
そういえば昔「海外ミステリ百選」なんてのあったなあ。
アーカイブ調べようにも、もうサイトアドレスわからんし、キャッシュも出てこないし・・・そうだ、誰かリンク切れのまま、相互リンク貼ってるやつおらんけ?おったおった!・・・で、アドレス入れたら、部分的に出てきたり(^^)v
七生子さんも、気になる過去アーカイブ調べたら面白いですよ。

オホン!謙虚な発言をします・・・次は601冊を目指します。
一つ一つの積み重ねですから・・・って、スポーツ選手みたい。


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