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「本のことども」by聖月

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2006年 01月 18日

◎「エデンの命題」 島田荘司 光文社カッパ・ノベルス 980円 2005/12


 副題に“推理中編集”とあるように、表題の「エデンの命題」と「ヘルター・スケルター」の二題が収められた中編集である。『摩天楼の怪人』では、トリック島田荘司はもうこりごりと思った評者なのだが、この2編は大変によろしい。ミステリーではあるのだが、トリックに軸足を置いていないので、物語が紡がれて流れていく。読む者は、その展開に心地良く面白く身を委ねているだけでいいのである。楽しい小説である。そういう小説を読みたい方は・・・読むべし。

 まずは「エデンの命題」。これは題名のとおり、旧約聖書が下敷きになっている。旧約聖書については、評者は紙芝居程度の知識しかなかったわけで、そういう理由で結構楽しめたのかもしれない。アダムの骨からイブが作られ、蛇がリンゴを食いたまえ、善悪の知恵がつき、まあ恥ずかしいと葉っぱで身体を隠す、そのくらいにしか知らなかったので、果たして男性の身体の一部分から女性を作り出すことはできるのか、そういう過去からの論争には疎かった評者なのである。これが、最近ではクローン技術によって可能か不可能かという論争に発展しているようで、科学的な読み物としても結構楽しんで読んだ評者なのである。

 そういう下地の上に、実際のミステリーは展開していく。ある学園空間に生活する青年主人公。実は、その学園の生徒たちは、ある特殊性を持って集められている。唯一仲良くしていた女の子が突然いなくなり、彼女から秘密の連絡がきたところから物語は展開を見せるのだが・・・いやあ、単純に面白い。誰が味方か誰が敵か、真相はどこにあるのか?そんな面白さのよくできたミステリーである。ひとつだけ、この部分おかしいぞ、大いにおかしいぞ、というところもあったけれど、それも気にならない気軽な面白さがここにはある。

 そして「ヘルター・スケルター」。最近読んだドナルド・E・ウェストレイクの『聖なる怪物』と酷似した構造。ある男が気がついてみるとベッドの中。彼の前にはインタビュアーが・・・本書では女医である。男の過去について質問していく。男のほうも中々思い出せないのだが、インタビュアーのアシストにより段々と記憶が甦ってくる。その記憶が全部出揃ったときに・・・果たしてどういう結末が待っているのやら。『聖なる怪物』と似ているようで違うようで、でも独自の軽いノリの面白さがあるのは間違いない。

 いや、島田荘司見直しました。物語を紡ぐ能力は涸れていないのだと。正直言って、知識なしで、本書の二つの中編を読まされても、評者は島田作品だとは気付かない。とにかく、普通に単純に面白いのである。こういう島田荘司だったら、いくらでも読みたいなと感じた良品集である。(20060117)

※「エデンの命題」のほうに、自閉症の話が出てくるのだが、評者の嫁さんは、結婚前は養護学校の先生。自閉症児には“こだわり”という症状があるという本書の記述に、そういえば嫁さんもそんな話をしていたなあと思い出した評者。M君は通学路にこだわりを持っていて、通園バスが誰かをいつもと違う場所で乗っけようと既定のコースを外れたりすれば、もう大パニック。あと、お休みの子がいて、いつもの場所に停車しないと、もう大パニック。そんなお話。(書評No619)

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by kotodomo | 2006-01-18 14:33 | 書評 | Trackback(2) | Comments(4)
Tracked from ひなたでゆるり at 2006-01-18 22:34
タイトル : 『エデンの命題』島田荘司
エデンの命題 The Proposition of Eden島田 荘司 カッパノベルス2005-11-22by G-Tools アスペルガー症候群の子供たちを集めた施設から、1人の少女が消えた。残されたぼく、ザッカリ・カハネの元に届いた文書に記されていた恐るべき真実とは? ほかに、「21世紀本格」の嚆矢「ヘルター・スケルター」を収録。 帯の「旧約聖書の謎を最先端の科学が解く、21世紀本格の白眉」の言葉通り、旧約聖書のアダムとイブの話しを科学的に解明した科学ミステリ(と勝手に解釈)。アスペルガー症候...... more
Tracked from のぽねこミステリ館 at 2006-02-16 13:12
タイトル : 島田荘司『エデンの命題』
島田荘司『エデンの命題』〜カッパノベルス〜「エデンの命題」アスペルガー症候群のぼく−ザッカリ・カハネは、アスピー・エデンという教育施設に入れられていた。ここは、アスペルガー症候群と診断された中でも、学力が高い人々を集めた施設である。多くは、ここに入るま...... more
Commented by リサ at 2006-01-18 22:37 x
聖月さん、こんばんは!
ご無沙汰しておりましたが、あれからもこっそりひっそり伺っておりました。
島田さんのスケールの大きさにはいつも圧倒されます。
今回も楽しめました~。
またちょくちょくこうしてコメントさせていただきますね(*^-^*)
TBさせていただきました。
Commented by 聖月 at 2006-01-19 05:03 x
リサさん おはござ(^.^)
こういう島田荘司は好きですね。
いつもは、トリックのための説明に終始していますが、今回は知識系の理論が下地。お勉強もできて◎。

TBもコメントもガンガンしてくんなまし(^.^)
ああ、早起きしてもうた。
Commented by のぽねこ at 2006-02-16 13:17 x
こんにちは。
風邪をこじらせてしまいまして…。今日はゆっくり読書です。
私も、本書を楽しく読みました。いろいろ考えさせられる部分もあり、勉強にもなりました。
聖月さんも、風邪に気をつけてくださいね。こんなに風邪でしんどいのは、かなり久々です…。
ほとんど『エデンの命題』とは無関係の話になってしまいました…。
では、このあたりで、失礼します。
Commented by 聖月 at 2006-02-16 20:41 x
のぽねこさん こんにちは(^.^)
風邪はいけないですね。私は一回ひいて、咳がずっと治らないところです。

本書は島田的本格じゃなくって好きでした(笑)
ああ、普通の楽しい小説も書けるんだって。
私はあの島田より、こっちの島田のほうが・・・


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