2006年 02月 06日
実は鹿児島の会社を辞め、二年前東京に出てくることになったのは、前の会社で隣の部署の年下のやつが“こういう仕事を頼みたいんですが・・・”と言ってきたので“いいよ。明日の夕方までにやっといてやるよ”と気軽に引き受けたところ、そいつが“ふふふ、猪口才な。そうきたか。受けてたつぜ。この猿め”と、なにやらわけのわからん失礼なことを言ったことに評者が怒り、怒り怒り憤怒のあまりコザックダンスを踊って仕返ししようとしたら、痴れ者と呼ばれるようになり、居辛くなって辞めた・・・という話でもあったら、オモロなんて夢想して新幹線に乗っていたら、隣の相棒が“ほら、富士が見えてきた”と声をかける。思い出して“そういえば、この前三島に来たとき、富士山の写真撮ったじゃん。あれを娘たちにメールで送ったら、富士山って小さいね♪そんな返事が返ってきたよ”と言ったら、“子供ってアホやね。特にキミんちの子供はさ”と言いやがる。黙る、くさる、ふてる、僕は自分は俺様は。心の中でそっと呟く。“そういうことじゃないの、ほら僕んちの娘たちは毎日桜島を見てるでしょ。桜島のほうが富士山より小さいけど、えらい近くにそびえるから、視野に入ったとき、その面積は富士山より圧倒的に広いの。遠くにある大きくて小さい富士より、桜島のほうがでかく見えるという、なんちゅうのかなあ、新鮮な目?既成概念の捉われない純粋な心?そういう感覚的なものをキミに伝えようと話した話を、キミはそういう話にしちゃう話って・・・” というような、どうでもいいような話ばかりを町田康は本書『正直じゃいけん』の中に書いているのだが、上の評者のどうでもいい話のほうが、まだましである。上の話は、最終的に真実(遠くに見える大きなものより、近くの、より小さなもののほうが大きく見えることがある)に触れているが、本書の中の馬鹿話は真実も糞も嘘もない。ただただ、夢想があるのみ。普通、ああでもないこうでもないと夢想した話を文章にする場合、結局ああだったこうだったという真実がきたりするのだが、本書の中の話たちはああでもなくこうでもないまま終了し、最終的には夢想していた作者が、ベッドから落ちたり、とんぼを切ったり、酒を飲んで終る。意味がわからんかもしれんが、そういう話たちであり、とにかくこの人の書くこういう話が好きなのだから、評者はたまらない今日この頃は駿河チックな日々である。 ああでもないこうでもないどうでもない話を評者がひとつ披露するとすれば、自分は昔からビール瓶の栓と栓抜きの関係がよくわからない。そんなの誰でもわかるよと貴殿は言うかもしれないが、そは本当か?本当にわかるか?瓶詰めを考えた人が栓を考え出したと思われるわけで、栓を考え出すと同時に栓抜きを考えたと思われるわけで、例えば初期の頃にそのビールを買った人に栓抜きを無料で配布したとしてだ、最初で10万本生産したとして10万個の栓抜きを配ったのかというと、そんなことはないような気がするし、予定調和的な数字というもんがあるだろうし、世の中はエントロピーで動いているし、要するに評者がわからないのは、最初に瓶詰めが出たときに、果たして栓抜きとの関係は上手くいっていたのかいなかったのか、ということである。もしかしたら、初期の頃は栓を何かでこじ開けていて、後になって栓抜きが発明されたのだとすれば、瓶詰めの栓を考えたやつは、自分のケツも拭けない相当なアホウのような気がするし、いや同時に世に出回ったんだよというのなら、どういう普及をそれぞれしていったのか?そういうことを考えるにつれ、そういやあ今の自分の持ち物に栓抜きなんてないやん、もう栓つきの瓶詰めなんてないやん、と気付き、すると今自分が考えていることは歴史学?な~んて思いながら放屁した。 まあ、いい。町田康。大好き。アホな話を94も読まされても好きである(アホだから数えてしまった、自分)。そう、約260頁の中に、94もの話があるということは・・・それぞれは非常に短い夢想、奇想、空想、想像まみむめも。(20060206) ※久々に買った町田康本である。『正直じゃいけん』とはジャンケンの一種であり、こういうルールのジャンケンは評者も知っていたが、こういう呼び名は知らなかった、うくうく。(書評No628) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2006-02-06 15:57
| 書評
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