2004年 10月 06日
いやあ、こんなに長くかけて読んだ本、「本のことども」を立ち上げて以来、初めての経験である。元々、夜の読書と昼休みの読書とわけていた評者だったのだが、この本は昼休み用。読み始めたのが、今年2004年6月の上旬。ところが、2週間以上事務所缶詰出張みたいな仕事が入ったりして全然読み進めない時期があったり、仕事のスタイルに変化があったため、会社事務所でゆっくりお昼を迎えるということが極端に少なくなったため、これが全然進まないのである。以前なら、10日から3週間くらいで次の本に移ることができたお昼の読書だったのであるが、結局、読み終わったのが10月頭。500頁に4ヶ月近くもかかったのである。多分、普通だったら投げ出してしまっていたろう。この登場人物誰?あれ、なんでこうなったんだっけ?みたいな感じになってもういいやって。 ところが本書『半身』では、そういうことがなく無事読み終えたのである。なぜか?簡単なことである。登場人物が少ないし、もしくは名前を覚えなくてもいいような配役の登場人物たちが多いからである。それともうひとつ、これが肝要。それは、全然話が進まないからである(笑)。結局400頁超えても、話が動かないから全然戸惑わない。いいのか悪いのかわからないが、苦にならない長期に渡る読書だったのである。 時は1874年、20代後半の貴婦人が主人公。彼女が女囚監獄の慰問に通うところから物語は始まる。そこで不思議なオーラを発する女囚と出会い、慰問に通い続けることとなる。200頁でも通い、300頁でもまだ通い、ずっとずっと通い続ける。以上。 って書くとあんまりなので(笑)もう少し書くと、女囚は霊媒であり、二人は元々は一身の人間であり、お互いは半身なのだという。格子の向こう側とこちら側で惹かれあう二人は、結局のところ・・・っていうのが、話の興味なのである。 あまり進展のない話を4ヶ月も読み続けると面白くなかったでしょうと思うかもしれないが、これが意外に飽きない。というのも、進まない話の中で書かれる描写が非常に巧緻で繊細だからである。落ちまで含めた粗筋まで書くと2頁で済む話を、500頁で描く才能はあるのである。絵としての一本の大木を描くことは誰でもできる。でも巨匠と、芸術音痴の評者の絵は明らかに違うのである。単なるへなちょこ絵なのか、絵画いや芸術まで昇華した作品なのか。 2004年版このミスの海外1位ランクイン作品。期待したほどはなかったが、中々の作品。何気なく寄った古書店で100円で買って、4ヶ月楽しめたから、評者にとっては価値があった文庫でもある。(20041005) ※お絵かきの話で、思い出した。評者はよく下の小学一年生の娘と絵描きクイズなどして遊ぶ。絵を描いて、これはさてどういう絵でしょう?みたいな。そういうとき、よく嫁さんが言うのだ。終わったあとの、絵描きに使った一枚のチラシの裏の白紙。そこに描かれた絵をどっちが描いたかわからないくらい、評者の絵は幼稚なんだそうだ(笑)。今度、娘と二人でたくさん絵を描いて、どっちが描いたでしょう?クイズでも、嫁さんにしてみようかな。(書評No412) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2004-10-06 13:45
| 書評
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Comments(2)
Tracked
from PEACH PEACH ..
at 2005-09-10 20:13
タイトル : サラ・ウォーターズ『半身』
半身 通勤のみで読むことにしていた本を、 ようやく読み終えました。 この本を読んでる間に、 4〜5冊他の本も読んでいたので、 時間がかかった…。 2ヶ月はかかったのかなぁ。 普通、時間がたつと内容を忘れちゃって、 読み返したりすることが必要となるんだ....... more
Tracked
from 有沢翔治のlivedoo..
at 2012-04-15 23:34
タイトル : サラ・ウォーターズ『半身』(東京創元社)
あらすじ ミルバンク監獄へ慰問に訪れたマーガレット・ブライア。そこで彼女はシライナ・ドーズと出会う事になる。シライナは霊媒師として独特の空気をまとっていた。 マーガ ...... more
こんにちは。移転後初の書き込みもといトラックバックさせていただきます。
実は私も古本屋で『半身』を買ったばかり。ちなみに100円ではなかったです(笑)。そうですか話が進まないんですか(笑)。ネットで感想などを探してみると、超絶賛か、うーんそれほどでも、かに別れるみたいですね。聖月さんは「それほど」派のご様子。これは読むのが楽しみというか何と言うか・・・
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くらさん こちらにいらっしゃいませのよくぞおこしを
あれれ、くらさん、とっくの昔に読了して、感想あげてんのかと勘違いしておりました。 はい100円で買いました。東京大学前の古書店で。ほんと、昔ながらの学生街古書店。無造作に100円でした。確か消費税、取られなかったかも。 現役女子東大生高田まゆ○なんて人が読んだかもしれない100円の「半身」でした。 そうですね。文章はピカイチ。小説としてはマアマアかな。意外に普通のオチだったような。凄い驚愕本だと思ってたんですけどね。30キロくらいへとへとになって歩いて、ようやくオチにたどり着いたら、なんだ50センチ落ちるだけだったのかあ、みたいな。 なぜか、世間はそうは言わないので・・・読み違えたかな(^^ゞ |
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