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「本のことども」by聖月

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2004年 10月 17日

〇「介護入門」 モブ・ノリオ 文藝春秋 1050円 2004/8

 綿矢りさ『インストール』を読んだときに、この作家、町田康読みの作家かと思って調べてみたらまさしくそうであった。今回も、本書『介護入門』を読みながら、この作家、町田康に影響を受けているのじゃ?と思って調べてみると、まさしくそう。日本語の操り師、町田康の影響で、新しい芥川賞受賞作家が誕生の構図である。

 評者もそう。色々と影響を受けてはいるのだが、それを文体に表すのは中々に難しいものがある。『テースト・オブ・苦虫』を読んだときも、えらく感じ入って、書評内でその文体を真似てみたのだが、これはどう考えても失敗作であった。今読んでも下手である。先の題名をクリックしてもらえば引用先で見ることができるのだが、あっち行ったりこっち来たり不親切甚だしいので、以下直接引用しよう。


『テースト・オブ・苦虫』町田康の書評より

めんどくせー、町田康の紹介、って、真似してやらーな、ウッシッシ。
「日本語の面倒、自分は私はこう思う」 文責 聖月

 いやね、この題名、やっぱ考えちゃうんだよねえ、君たち大衆と違って、いろいろとさ。多分、君たちの中で一番だめな部類の痴れ人は、テーストの意味も、オブのいわんとするところの用法もわからんだろうし、苦虫をクチュウなどと読んで、わあ、カワイイというのだろうねえ、知らんけど。まあ、評者は文化人だからして、苦虫の味ねえ、そりゃ苦いね、と考えるにとどまらず、と考えるにとどまらず、と考えるにとどまらずって三度も書いちゃうのは、これ新しい強調法って、ダメかな?流行らないかな?そか、どっから、ああ、とどまらず、苦虫ってなんど?それよりなにより、この虫、苦いね、って思うのは、はん、やっぱ昔からいろんな虫、口に入れて、食えそうとかこりゃあかんとかやっていたのだろうか、とそういうとこまで、自分は俺は考えるのだ、痴れ人諸氏よ、参ったか!自分は俺は、文化人及び知識人なのだあ、あめゆじゅとてちてけんじゃ、おらおらでひとりえぐも、あらまた知識がポロリ。わからん?ええけど。ええ詩なんやけどなあ。

 ところで、わからんと言えば、テンダーロイン。昔々あるところに、僕チンが住んでいました。僕チンはテレビを観ておかあたんに言いました。ママン、あんなビフテキ食べてみたい。おかあたんはコンジョンガラガア!と怒って出て行きました。オシマイ。って、昔はビフテキもしくはビーフステーキであったと思しきものが、近年にいたり、やれサーロインだのやれフィ~レだの言われ、これは浸透してきた言葉ではあるとは思うのだが、テンダーロイン、これはわからん?何がテンダーなのじゃ?あのヤンキーの豆くい野郎、え?差別用語?いいじゃん、じゃあ俺はジャップ、ってこれって謙譲?ちょっと脇道それるけど、いいんじゃないチビ黒サンボはチビ黒サンボのままで。俺、チビ黒サンボって言われてもいいけどさあ、ノビタっては言われたくないと思ってるの。そのうち「のびたのくせに」って言葉も差別用語の仲間入り、で、ジャイアンは無口に。脇道から帰ってきた。あの豆くいカウボーイ映画の中で“ラヴ ミ~ テンダ~ ラヴ ミ~ ドゥ~♪”あれ思い出しちゃって、どこが優しいのだ?この肉のどこが!この肉め!このバカ肉が!って、いやあテンダーロインステーキの名前見ると。他にもあるよ。日本語の乱れ。例えば、おっとピンポン鳴ったよ。ちょっと待ってて、行ってくる。

 行ってきた。いやあ、今日は家のものも玄関番もおらんでね、宅急便だったよ。ほら、あなた、今オイラを馬鹿にしたね。フン、痴れって。宅配便だろ。宅急便はクロネコヤマトの登録名だから、一般的に宅配便ってのが普通だろうって?知ってるよ、知ってるけどクロネコヤマトが持ってきたのだ、実際に。だから、いいの。って、なんだっけ。そう、日本語の乱れ。例えば「かえりうち」って言葉。いやあ、夕べ麻雀、この前はよかったんだけど、ゆんべは“返り討ち”にあっちゃってさあ、って間違った使い方。正しくは、きょう会社早く終わったから、“帰りウチ”に寄ってたまには麻雀でもせえへん?これが正しい。知識人やろ、ワイは。君、思い違いしちゃいけない、は、太宰の『パンドラの函』の書き出し、ワイは知識人。女は、やっぱり、駄目なものね、は同じく『千代女』、子供より親が大事と、思いたい、は同じく『桜桃』、おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました、は同じく『きりぎりす』、これ即ちこぼれる評者の知識の顕れなれど、しかし太宰は美しいのう。

そ んな馬鹿文章書いていたら、おう窓辺に蟋蟀(コオロギ)。なにかピノッキオなことでも始まらんかなと思って、ステッキと山高帽を見つけ出し構えた評者の口にダイヴインした蟋蟀もお前も苦虫だったのかあ…
 って、町田康がこんなの書いてるかどうか、知~らない。少しだけ真実を書くと、本書『テースト・オブ・苦虫』はヨミウリ・ウィークリーに連載されていたエッセイ集である。(20030620)



 というように、面白くない(笑)。同様のことが、本書『介護入門』でも言えるのである。特に前半。“ラップ調の文体”などという表現をどこかの紹介記事で読んだが、そんなの全然である。逆にスロー。頭が文章を動かさず、文章を動かすために無理に文体をいじっている感があって、感覚的な躍動感に欠けるのである。合間に入る介護の周辺風景は面白いのに、文体が邪魔をしてしまうのである。しかしでも、それでも楽しく読んだ評者。そのわけは・・・。

 著者のおばあちゃんに対する果てしない愛が、凄く感じられるからである。評者にもバアチャンがいる。生まれたときに家にいて、評者が大学以降家を出てしまった今でも、実家に住む。明治43年生まれのバアチャンは、今ではほどんど寝たきりで、テレビで有名になったカマト婆さんのように、2日寝ては2日起きているような生活である。トイレまでは補助があればなんとか。68歳の評者の母親が、94歳のバアチャンを介添えする。評者も離れて暮らしてはいるが、このバアチャンには愛情があると断言できる。

 だから、バアチャンみたいな素直なご老人は、評者にとっては可愛く見える。田舎から出てきたようなおばあちゃんが、JRの切符売り場でオロオロしていようものなら、可愛くて可哀想で無視できないのである。これは、実感を持てる環境や家庭がなかった方にはわかりづらいものかもしれない。でも、本書の著者もやはりおばあちゃんを可愛いと表現する。単行本の扉を開けると、著者とおばあちゃんの写真がある。二人の顔は、本当にいい顔である。この著者、本当におばあちゃんが好きなのである。

 圧巻は、最後のところ。おばあちゃんが今の介護状態に陥った際、転倒事故後の集中治療室での、主人公と弟の振る舞い(これは是非お読みください)。それにつられるかのように、隣の家族も・・・(是非、お読みください)。そこには愛があるのです。

 少し失敗してしまった文体を考慮しても、バアチャンに対して愛のある境遇に育った読者は、読むべし、読むべし、べし、べし、べし。自分のバアチャン、今どうしてるかなあ?寝てるかなあ?(20041016)

※1時間15分で読み終わってしまった。(書評No419)

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by kotodomo | 2004-10-17 15:20 | 書評 | Trackback(4) | Comments(0)
Tracked from Chocolat Books at 2004-10-18 01:47
タイトル : [読了本]介護入門
asin:4163234608:detail 久しぶりのお風呂読書のために未読雑誌を探したら、「 ...... more
Tracked from 日々のちょろいも at 2004-10-18 09:02
タイトル : 『邂逅の森』&『介護入門』読了。
  邂逅の森       介護入門  ええっと、私事ですがこの度HPを移転いたしました。新しいアドレスはこちら。まあ直接こっちを見てくださってる方にはあんまり関係ないかもしれないですが(^-^;)。  というわけで、熊谷達也『邂逅の森』とモブ・ノリオ『介護... more
Tracked from  ちょめぐち.com  at 2005-01-18 08:36
タイトル :  「介護入門」モブ・ノリオ (2004年上半期芥川受賞作)
僕はこの作品を2004年度のベスト文学にあげる。小説の内容は、金髪・大麻常習者・ごくつぶしの「俺」が、寝たきりの祖母を介護する日々を、ラップ調の饒舌な文体で描いた自叙的なもの。その設定は小説としてはむしろ陳腐に近いものがあるかもしれない。けれども、この作品のテーマは「見かけによらない若者」や「祖母と孫の感動のホームドラマ」などではない。  この作家が描く世界はそれらを、介護すらも通り越した、本質的な真実をえぐりだしたものだ。ほとんどの文章が箴言のようで、作中の言葉をもじれば<表現としての強度を備...... more
Tracked from 読んだモノの感想をわりと.. at 2005-10-07 15:13
タイトル : 介護入門 (モブ・ノリオ)
29歳無職の主人公が祖母の介護を饒舌体で語ります。 この文体はラップ調なのかな?とりあえず読みにくかった。メリハリが乏しいし、言葉遣いはラップ調なのにリズム感はイマイチ。もともとリズム感なんて狙っていなくて、主人公のキャラを引き立たせるためのラップ調なのかも。 中身はとってもまじめで、介護を真正面から捉えていて、そういう意味での説得力は感じられた。 でも、小説としては楽しめなかった。何故かって言うと、それがコンセプトなんだろうけれど、作者(=語り手である主人公)の視野が介護という行為...... more


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