2006年 12月 15日

◎◎「壜の中の手記」 ジェラルド・カーシュ 角川文庫で文庫化!580円

あの傑作が文庫化につき書評再掲 読むべし、読むべし、べし、べし、べし!!!


 著者は1911年生1968年没のイギリス人。本書には1947年以降の短編12編が収められている。粒揃いの短編集であるのだが、ここでいつものように珠玉の短編集と表現するにはそぐわないような気がする。特異な小説集なのである。後書きで、ミステリ、SF、怪奇小説、いや一番相応しいのは綺譚かと訳者は解説している。評者は広義の意味でのSFのような感じを受けた。評者にとっては懐かしい意味での。

 評者は、小学校の図書館でよく本を借りた。先生からの制約がなければ、まずは江戸川乱歩怪人二十面相シリーズばかり借りていた。これには限界があった。一人の作家、一つのシリーズ、いつか全部読み終わったしまった。次にSFコーナーに夢中になった。これはよかった。小学生にとっては無尽蔵に読む本があったような気がする。「タイムマシン」とか「地底探検」とか「月世界旅行」とかの定番もこの頃読んだが、それ以外によかったのが、このSFコーナー、およそ教育的でないもの、設定が奇想に由来するもの、そういったものが、ないまぜに置かれていたことである。お陰で、SFの名を借りたいろんなジャンルの本を読んだ気がする。いろいろ考えさせられたり、感じたりした。あの頃の読書は、懐かしく楽しかった。そんな意味での、評者独自のSFの定義である。

 伝わりづらいので、評者がサンプルを作ってみよう。タイムマシンだけ、道具として使わせていただくことにしよう。"科学者がいた。彼はある発掘の現場で、古代の樹木の皮に包まれた手紙を見つける。自分はもうだめだ、誰か助けてくれ、恐竜たちが、、と書いてある手紙。どう考えても、その樹木は人類が現れる前の恐竜の時代のもの。しかし、その中に入っているのは、現代の手紙、現代の文字。その謎の解明にとり憑かれた科学者は、数年後自分が開発したタイムマシンで、時間を遡る。結局、恐竜世界まで遡った科学者自身が、アクシデントから窮地に追い込まれ、将来の自分のいる場所へ手紙を書く、樹木の皮に包んで。しかし、まてよ!と科学者は思う。今の自分が書いて、将来の自分が読んで、また過去へ戻って窮地に陥るなら、書かないほうが悪循環の輪を断ち切れるのかと。いや!それじゃあ、最初に手紙を書いたのは一体誰ということになるのか!"ヘタな話で申し訳ないが、この話の中でタイムマシンは出てくるが、要は最後のパラドックスを生み出すための道具でしかない。評者は思いつかなかったのでタイムマシンを使うしかなかったが、ここで空想的のものを使用しない方法さえ思いつけば、だんだんとSFという設定から、奇妙な話、不思議な話よりへとスタンスを移すこととなる。そして、一番重要なことは、作者が投げかけた不思議なお話に加え、読者がそこからまた想像を紡ぎ出すという作用である。

 正直言って、冒頭の「豚の島の女王」を読んだときは、本当に面白い小説集なのか疑問を抱いた。しかし、人魚男を題材にした「ブライトンの怪物」や表題の「壜の中の手記」を読み進めるうちに、小説集全体に引き込まれていった。一篇読むごとに、余韻が広がり、想像が膨らんだ。一篇一篇の話が、大体2頁目くらいまでは一体どういう話かわからなくても、3頁目くらいからグイッと内容に引きずりこまれる構成になっているのも作者の技量だろう。多分、文章の構成とかをつぶさに研究していったら、それだけで今後の自分の文章表現力も変わるであろう、そんな文体である。読ませるためには、読ませる文章を書かねばいけないというための教本たりうる小説集である。(20020928)
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by kotodomo | 2006-12-15 11:15 | メモる | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from bokononの、美術と.. at 2006-12-31 02:12
タイトル : 『壜の中の手記』
実家に帰ると家族にニヒリスティックになるのが大変に苦痛で(だって血の巡りが悪いんだもん)、しばらく止めていたのだが、父の体調が悪いということで今年はやむなく帰省した。 年末のテレビ番組なんて観る気がしない。 かといってデジタル・ディバイドの最たる田舎、ネットへの接続はいまだ56kbps。 近所の商店街はいざなぎ越えなんて空っ風のシャッター・ゴーストタウン。 結局iPodを聴き、持ってきた本を読むことになる。 あらためて実家に帰ってきた自分を毒づいている年の瀬。 早く戻りたい。。。 ジェラルド・カー...... more


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