2006年 12月 25日
評者の仕事の相棒は、実に地図がわからん男である。地図の見方がわからないとかそういうのではなくて、同行した際なんかに、東や西や右や左や上や下やなんかが滅茶苦茶で、デパートの外に出ようとして屋上に上がっちゃうし、初日の出を見ようと北北西に眼を凝らすし、とにかく体の中にGPS機能が全然存在しない輩なのである。 そういうのが、そういう人が、不思議でならない評者。評者の場合、無意識に、ある地点を基点として方眼図上の大体どのあたりにいるのかというのを感じているわけで、そういう意味で移動しながら鳥瞰図(鳥の目から見た大まかな全体図)を無意識下に作成しているのである。ところが相棒のほうは、どうやら虫瞰図(虫の視点から見た映像)程度のものしか持っていないようなのである。叢の中を這う虫のようなもので、この風景は一度見たことがあるとか、あの看板は確かあったよなあ、そんな程度で、どこの角をどういう風に曲がったから今大体ここらへんみたいな感覚が全然ないのである。 夏前に、駿府で乗っている会社の車がポンコツになった事件があって、相棒に断って(一応、評者の会社の社長なので)新車を調達したときも、乗るのは評者なのに、相棒がカーナビを付けろとうるさかったのは、多分自分が乗るときに地理がわからないからという理由に他ならず、結局評者は付けなかったのだけど、それは同様に駿府の地理に明るくない評者なのだが、最初で地図で大体の目的地の場所を確認した上で走るほうが安心感があるし、RPGの冒険のように、経験した行動範囲の地図がだんだんと広がってくるのが楽しいからなのである。 大体、カーナビなんてものは勿体ない。ほとんど駿府の限られた地域しか乗らないのに、日本全国の地図が入ったCDだかDVDだか買わされるわけで、おまけにウソをついたり、目的地に到着していないのに案内を打ち切ったりと勝手極まりない輩で、女性の声で案内してくれるが実はあの機械には男性が入っているんだと疑っている評者なのである。 要するに、評者のような人間にとっては、地図は有難いものなのである。その地図が主人公の、表題「独白するユニバーサル横メルカトル」。最初は、なんちゅう題名じゃい、と思ったものだが、読んでみると題名そのまんまなのである。メルカトル図法で描かれた地図が独白するお話なのである。 自分の存在意義、構造を説きながら、カーナビを批判し、自分の持ち主であるタクシー運転手の従僕たらんとする意思を持ち、静かに静かに独り語っていくのである。構造と書いたが、地図にも専門的な構造があるようで、そこらへんの薀蓄も中々に面白い。 しかし、本書は短編集。その他の作品が玉石混交で評者の評価は〇止まり。いや、別にグロが苦手なわけじゃない。所詮読み物なので、極度のグロも平気なほうなのだが、グロを排除したあとに残る物語自体に、あまり深味を感じなかったのが要因なのかな。 例えば、キンタマを万力で潰したり、そんなのわからんという女性の方だったら、乳首をペンチで引きちぎったり、そういうことを想像しようとして想像もしたくないという読者には、本書のグロはちょっと深いからやめておいたほうがよいよ、と優しい評者は忠告しておこう。(20061223) ※本書を読んで初めて、2より大きな偶数は二つの素数の和であるという知識を得た評者。数学の雑学も詳しいつもりだったが、そんな簡単な雑学を仕入れていなかったとは・・・とほほ(書評No685) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2006-12-25 10:55
| 書評
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