2007年 01月 29日
評者の嫁さんと娘二人は、ジグソーパズルなるものをする。最近では忙しさのせいか、あまりやっているところを見かけないのだが、かつては飽かずやっている光景を目にしたものである。1000ピースだか2000ピースだか知らないが(と、書きながら、いい加減なことを書くのもなんなので、今ネットで検索してみたら1000とか2000の単位で確かにパズルがあった(^^)vついでにわかったことに、ジグソーとは曲線引き用の糸ノコゴリらしい。なるほどね。)、評者から見れば非常に多い断片を繋ぎ合わせることに熱中しているわけである。たまに横で見ていると、最初、一体どういう画が浮かび上がってくるんだろうと興味を惹かれ、中盤で大体想像がつき、最終的になるほどなあという画が完成され、額に入れて飾ればなんて評者が思っていると・・・おいおい!いきなり壊すな!バラすなぁぁ!勿体ない!彼女たちにとっては、パズルなんてそんなものらしい。また、暇なときに作って時間潰せばいいやみたいな。 本書『シャドウ』は、ジクソーパズルである。なぜ友人の母親は自殺したのか、飛び降り自殺なのになぜ屋上に血痕が残されていたのか、なぜ遺書と同じ文面があんなところにあったのか、なぜ友人はその後自動車事故にあったのか、友人のトラウマを作った悪意ある人物は誰なのか、自分の脳裏に浮かび上がってくる謎の映像の正体は何なのか?そんな謎のピースが散りばめられ、最終的にはどのピースも放って置かれることなく見事に収斂するミステリーなのである。 では、評者の評価がイマイチなのはなんど?と思う方もいらっしゃろう。大変に評判のいい作品なので、個人的なミスマッチ感覚としか言いようがないが、説明させていただこう。 まず、読んでいて色んな謎が出てくるのだが、それを形作る物語の骨子が評者的にあまり面白くないのである。評者はどちらかというと謎読みミステリー派ではなく、紡がれる物語耽溺派なのである。読んでいる途中も、読んでから全篇振り返ってみても、なんか大した話じゃなかったな、というのが評者的概観なのである。 次に、謎のピースの断片たち。色んな謎が提示されて、一体いかなる全体像が浮かんでくるのか?そんな興味で物語を読み進め、なるほどすべてのピースがうまい形で嵌っていく終盤なのだが、その全体像を見せられたとき・・・ああ、そうですか、そうだったんですか、みたいな感じで奥深さを体験できなかったのが一因である。嫁さんや娘たちが膨大なピースのパズルに取り組んでいて、どんな画が浮き上がってくるんだろうとワクワクしていたら、浮かび上がってきた画が、みかんとりんごとなしとぶどうの画だったみたいな。ああ、そうですか、そうなんですかみたいな。 それと一番大きな理由は、最大の謎であるところの、屋上から飛び降り自殺した女性の動機が、結局のところ判然としなかったことにある。説明的な描写がないではない。でも蓋然性を感じられないのである。ミステリーの最大の勘所は動機の必然性である。何ゆえに自殺するまでの心境に追い詰められたのか、何ゆえにそういう形で自殺する気になったのか・・・本を後ろから読んでも、逆さに振っても、評者が得心のいく答えはそこにはなかったのである。 悪い本ではない。むしろ良心的に作られた物語である。特に、謎解きの好きな方には、お誂え向きのミステリーである。このミス2007年版国内編3位と多くの人が支持している作品でもある。あれかなあ、評者はライトなノベルとは相性が悪いのかな。(20070128) ※近所の図書館のコーナーに、この作者の著書がすべて置いてあるが・・・どうしようかな?(書評No692) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2007-01-29 14:36
| 書評
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Trackback(2)
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Comments(8)
Tracked
from たりぃの読書三昧な日々
at 2007-02-19 21:30
Tracked
from デコ親父はいつも減量中
at 2008-09-01 22:02
タイトル : シャドウ<道尾秀介>−(本:2008年113冊目)−
シャドウ (ミステリ・フロンティア) # 出版社: 東京創元社 (2006/9/30) # ISBN-10: 4488017347 評価:77点 内容(「BOOK」データベースより) 人間は、死んだらどうなるの?―いなくなるのよ―いなくなって、どうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話か....... more
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浅谷
at 2007-01-31 02:36
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聖月様はじめまして。私、聖月様と同じく出身が鹿児島で、62年生まれで、でもって高校は違いますがりさ姫ともども大学も同じです。なんで、どっかですれ違ってるくらいのことは多分あるでしょう。紆余曲折の後、今はしがない勤務歯科医をやってますが。Web本の雑誌で新刊文庫本のド下手っぴーな書評を1年間やりへろへろになりました。これが終って、これからは自分の好きな本読みながらダレヤメできます。今も深夜で明日仕事なのにほろ酔いです。「本のことども」パワフルで最高です。頑張ってください。娘さん可愛いですね。うちの娘も可愛いです。ではでは。
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浅谷様 はじめまして(^_^)
本当にどこかですれ違っているでしょうね。大学時代は稲門会には顔を出したことはなかったですか?私は、何のサークルにも入らず、稲門会オンリーだったものですから。 web本の雑誌の新刊書評、一時期やってみたいなと思ったこともあるのですが、よ~く考えると経験されたように読書に追われて、本来の読書が出来ないなあなんて思って応募まではしなかったです。 しかし・・・稲門出て、勤務歯科医ですかあ。色んなことを学ばれたんですね。私も、鹿児島に歯科医、医師の友人たちが健在です。 「本のことども」は記事の隅々まで読むと、本当にパワフルです!えへん!
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浅谷
at 2007-01-31 15:46
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私はあっちこっちのサークルをかじってて、稲門会はほとんど顔出しませんでした。ちなみに一浪で法学部です。外務省行った有馬佳子さん(現BJSS株式会社総務部長)に、鍋に注いだ焼酎を一気させられたのを覚えてます。
おお有馬さんとは、今でも携帯&メール繋がっていますよ。
なんせ、小学校の同級生でもあるし。 最後に会ったのが2年前、電話は1年くらい前かな? ということは、稲門会ですれ違っていますね(^^)v 学部も一緒♪
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エビアンの元ウエイトレス
at 2007-02-01 12:56
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就職決まったあとで、一年長くいるよう大学に懇願された聖月様の場合、この方と、きっとどこかでお会いしていることでしょうね。うひひ。
エビアン、もう無くなって久しいですね。
しかし、あのコーヒー、もう一度飲んでみたい気もする。
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浅谷
at 2007-02-01 17:59
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あれまあ奇遇ですねえ。私も就職決まったあとで、もう1年長くいるように大学に懇願されたんですよ。何でも私が内田教授の物権法をもう1年履修するに値する人間だということで。つうか日程間違えて試験受け損ねたんですけどね。思えばそれが紆余曲折の始まりでした・・・。
国際法、宮崎教授で一年。
4年生の年に、ストかなんかで全部レポート郵送。 余分に単位が取れない学部で、誰も落ちないような国際法で(ToT) 私もそれが紆余曲折のなり初めし。 カゴメ、日本軽金属、ホテルマン、地方ゼネコンetc・・・そして今は、スーパーサラリーマンなり。 |
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