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「本のことども」by聖月

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2004年 10月 24日

〇「名無しのヒル」 シェイマス・スミス ハヤカワ文庫 714円 2004/9


 実は今、ある省庁と一緒になって、地方行脚の仕事が入っている評者なのである。ある省庁というのは、日本の国土を統べるようなとこなのだが。一応、行き先を並べると、沖縄、新潟、仙台、広島、門司、小樽。で、先日、第一弾で沖縄に行ったのが、10月20日。前日沖縄本島が、台風23号(トカゲ)の目に入り、超大型で強風域が広すぎて、当日になるまで飛行機が飛ぶのかどうかわからなかった、そういう第一弾の幕開けだったのである。結局、飛行機は飛んだのだが、そういう風に人は艱難辛苦(←大袈裟な(笑)に立ち向かうのである。要するに、突然に災難が眼前するわけである。

 で、次の新潟出張が明日、10月25日なのであるが・・・ご存知のように昨日23日大きな地震に見舞われた新潟。最初のうちは、ニュースでもさほどの情報は聞こえず、記者団なんかも「首相の対応に手落ちがなかったか」などという、揚げ足とりの取材に励み、テレビもまだ映す画像がなく、そんなのを何回も映し出す。アホな。事件は現場で起きているわけで、今朝のニュースを見ると痛々しい。そういう評者も「新幹線動くかいな。行けるかいな。何!脱線!」と驚きつつ、それでも出張は行けるのか、なんて考えていたのである。一夜明けての画像。道路はズタズタ、家屋も倒壊、土砂崩れ、死亡者。中でも親として心が痛いのが、まだ生後2ヶ月の赤ちゃんのショック死という事実。信じられない突然の災難と悲劇である。たった今、省庁の担当者とも話をしていたのだが、この状況だと評者の新潟入りもまず無理。色んなところで、事件は災害は、自分に関わってくるようである(本当は、夕べ東京で地震を体感した時点で、恐怖というものを想像していたので、あながち彼岸の災害とは言えないのである)。

 元々、鹿児島に生まれ育った評者なので、台風との遭遇とかはキャリアを持っているのだが、結局大きな被害には見舞われたことがないので、記憶に残るような艱難辛苦というのは経験したことがない。地震とか大きな災害に知人が巻き込まれたこともない。そういう意味では、これまでの自分というものを振り返ったときに、大きなエポックは皆無なのである。例えば長期入院とかいうような、ひとつの時代の記憶を持つような経験もない。火山島桜島は友だちで、『死都日本』のようなパニックに巻き込まれたこともない。だから、自伝を書こうとしても、嬉しいことも苦しいことも、今となっては長々と書くほどのこともない、平坦な人生を歩んでいる評者なのである。

 本書『名無しのヒル』は、著者の自伝的小説である。『Mr.クイン』や『わが名はレッド』のような犯罪小説でもないし、ミステリーでもサスペンスでもない。ただ単に著者の自伝的小説なのである。じゃあ、評者の人生みたいに、なだらかに自分の半生を語っているのかといえばさにあらず。単純に言えば獄中記、いやいや自伝に模した監獄物の小説と言ったほうがいいのかな。イギリスとアイルランドの歴史的な部分に疎い方には、すぐに飲み込めない内容かもしれないが、その二国の確執の狭間で、何も罪を犯していない主人公が、3年7ヶ月拘禁される小説である。その拘禁の最初から、釈放されるまでの物語である。ただし、この小説のミソは、その苦しい生活を笑い飛ばすような、軽妙な語り口にあるので、ランズデールなどのその手の小説のライト版といった感じだろう。ただ、多少の読みにくさはある。それが、作者の今回の技法なのか、訳によるものなのかよくわからないのだが、サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読んでいる最中に感じたような、どこか滑りの悪さを感じてしまった評者なのである。でも、シェイマス・スミスファンは、やっぱり必読の書かな?

 つまり、評者も牢獄に繋がれるようなことをすれば、起伏のある自伝が書けるということである。(20041023)

※ちなみに評者は、この作者の前二作については、『Mr.クイン』を90頁読みかけたまま、読んでいない。なんかタイミング悪く放ったきりなのである。(書評No422)

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by kotodomo | 2004-10-24 09:25 | 書評 | Trackback(1) | Comments(5)
Tracked from Entertainmen.. at 2004-11-17 11:41
タイトル : 「名無しのヒル」シェイマス・スミス
「Mr.クイン」「わが名はレッド」で一躍人気作家となったシェイマス・スミスの第3作。 今度も犯罪ものか?と思いきや、何と自伝的青春小説。 舞台は北アイルランドの収容所。 主人公はIRAのテロリストとイギリス軍に決め付けられ、裁判もなくその収容所に送られる。 主人公たちはそこで非人間的な扱いを受け、ひたすら娑婆にでるのを夢見ている。 この小説の何がいいって、うらみつらみでドンヨリってムードではなく、ひたすら明るく前向きな主人公たちの姿。 脱走のために穴を掘りまくって、でも失敗してなんて姿も暗くはない。...... more
Commented by せいこ at 2004-10-24 10:57 x
TBありがとうございます。
私は台風で大きな被害を受けたことがないので、地震が怖いです。
今回の地震は似てますしね、阪神淡路大震災に。
本当に「ドーン」という音がしたんですよ。
爆弾でも落ちたのかと思いましたから。
なんとなく落ち着かない気持ちです。
Commented by 聖月 at 2004-10-24 13:02 x
あの、大きな地震があったあとも、時々かすかにミシッと音を立てる我が部屋。
そのたんびに、ニュースをつけると余震が!
やはり彼岸の災害じゃないですね。

昨日は、関東の地震だと思っていた私は、ドアの内側でいざとなったら、開けるか開けまいか逡巡していました。
馬鹿みたいですが、怖いですものね。
Commented by くら at 2004-10-26 21:38 x
実は私も、シェイマス・スミスの文章は読みにくいと思っていました(苦笑)
うまく流れていかないというか、どうも回りくどいというか・・・
Mrクインは何とか読んだものの、あとは脱落^^;
地震といえば、知人のご家族が新潟に何組かいらっしゃるので心配していたのですが、やはり大変なようです。車の中で寝泊りしていらっしゃるとか。しかしこの雨と寒さ。お子さんや高齢者の方には辛いでしょうね。早くライフラインが復旧するといいのですが。
Commented by くら at 2004-10-26 21:39 x
あっ、すいません本題を忘れていました。
リンクありがとうございます。こちらからもリンク張らせていただきました。
Commented by 聖月 at 2004-10-27 00:27 x
くらさん こんにちは
いや、一度お会いしたのにリンク張らなきゃと思いながら、
やっと自分でも張れるようになったので早速です(^.^)

う~ん、今回の『名無しのヒル』正直言って、作者の原文を訳者がこなしていないような気がするのですが。

新潟。実は、11月17日くらいにいきそうです。怖いなあ。


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