2007年 05月 11日
前作『夜市』では、その表題作でも、一緒に収録されていた「風の古道」でも、現実の世界のすぐ隣にある異世界を物語に取り込み、少し淋しげで、また静謐な世界観を作り上げていた作家恒川光太郎。今回も同様の世界を描く。しかししかし、その世界の奥は深く、こんな比較はなんだが、昔その物語世界の奥深さに沁みいったRPGゲーム「ファイナル・ファンタジーⅤ」を想起した評者である。 この世界と隣り合わせの世界、そういった設定の物語はこれまでも多数生み出されてきたわけで、たとえばピーターパンだってそうなんだけど、本書で肝心なのは、気がついたら現実世界に戻っていたなんて設定ではなく、あくまで異世界側から物語を語り続けることなのである。そういう意味で、「夜市」「風の古道」とは、設定が根本的に違うのである。「夜市」でも「風の古道」でも、物語は現実世界から始まり、異世界へと足を踏み入れ、そして現実世界へなんてピーターパンと同じパターンであったが、本書『雷の季節の終わりに』は、異世界から物語は始まり、異世界からの視点でずっと物語られ、現実世界は、異世界の異世界でしかないのである。そして、物語はどこか淋しく静謐な恒川ワールドなのである。 とにかく良い。こんなにいい小説を読むと、粗筋は書きたくない。評者を信じて、何の予備知識も持たずに読んでほしい。評者だって、ただ『夜市』の作家の最新作というだけで、中身も知らず読み始めたのである。終盤の話の流れに、イマイチ感を抱く人もいるだろうが、とにかくこの世界観は素晴らしい。あの村上春樹の名作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の世界観に、FFⅤの世界観に、勝るとも劣らない。久々の、会心の読書。読むべし!なのである。(20070506) ※FFⅤを引き合いに出したが、このテイストはRPGに間違いない。(書評No717) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2007-05-11 09:06
| 書評
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from しんちゃんの買い物帳
at 2007-05-16 17:05
タイトル : 「雷の季節の終わりに」恒川光太郎
雷の季節の終わりに恒川 光太郎 (2006/11)角川書店 この商品の詳細を見る 地図にも載らず、現世から存在を隠されている”穏”という町で暮らす少年賢也。 “穏”という街には、春夏秋冬の他にもう1つ雷の季節があった。 彼に... more
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from AOCHAN-Blog
at 2007-05-20 18:32
タイトル : 「雷の季節の終わりに」恒川光太郎
タイトル:雷の季節の終わりに 著者 :恒川光太郎 出版社 :新潮社 読書期間:2007/04/05 - 2007/04/08 お勧め度:★★★ [ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ] 現世から隠れて存在する小さな町・穏で暮らす少年・賢也。彼にはかつて一緒に暮らしていた姉がいた。しかし、姉はある年の雷の季節に行方不明になってしまう。姉の失踪と同時に、賢也は「風わいわい」という物の怪に取り憑かれる。風わいわいは姉を失った賢也を励ましてくれたが、穏では「風わいわい憑き」は忌み嫌...... more
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from 粋な提案
at 2008-02-05 04:32
タイトル : 雷の季節の終わりに 恒川光太郎
装丁は片岡忠彦。書き下ろし。 異世界の町、穏に住む少年・賢也は姉の失踪後、物の怪「風わいわい」に取り憑かれます。ある秘密を知り町から逃れた先には…。 穏の慣習、雷季、風わいわい、墓町、闇番、鬼衆など魅力的な設定。穂高... more
絵空事に思わせない説得力がありました。
トラックバックさせていただきました。
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