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「本のことども」by聖月

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2008年 03月 24日

◎◎「記念試合」 室積光 小学館 1680円 2007/12


 昨年、2007年の暮れに室積氏から電話があって、“聖月さん、(←本当に、みづきさんと呼ぶんですよ)今度小学館から、○○という本が出て、念願の映画のほうも○○なので、宜しくお願いしますね。是非、読んで観てくださいね”という内容であったとき、本の題名、映画の題名はその時点で頭に刻まれなかったのだけど、ああ、あれかあ、と思い出したわけで・・・

 氏とは、もう何回か(4回かな5回かな)飲食をご一緒しているわけで、特に聖月様の書評仲間が集まってのオフ会なんかのときは、自身が今書いている、もしくはこれから書こうとしている物語について大いに語る、いやほっといてもどんどん語る素敵なスペシャルゲスト(ホスト?)となってくれる方なのである。だから、ああ、あれかあは、以前から何回も語られている物語で、今の鹿児島大学(旧制七高)と熊本大学(五高)の野球の対抗戦、戦争を経て語られる物語なのである・・・と言っても、電話もらったときには今一ピンとはきていなかったような、自分(^^ゞ

 ところが、年末に鹿児島に帰省したときに、その意味が、イメージが、よくわかったのである。天文館という繁華街を歩けば映画「北辰斜にさすところ」のポスターがあちらこちらに。当然である。なんせ、古き良き地元鹿児島大学を舞台にした映画である。やっぱ、鹿児島県人たるもの義務的に見ないといけないわけである。本屋に行けば、本書『記念試合』が平積みである。鹿児島県人必見の映画の原作である。これも鹿児島県人たるもの義務的に買わなきゃいけないのである。おまけにサイン本であったのことよ。

 ところで、“北辰斜にさすところ”というのは、旧制七高の寮歌であり、北辰とはすなわち北斗七星のことで、南に位置する自分たちの誇るべき地を、少し大袈裟に、粋に、表現したものである。とにかく、本書『記念試合』には鹿児島の地名、固有名詞が散りばめられており、そこが評者には嬉しかったのだなあ。山形屋ベルグなんて、当時からあったんだあ。すると、どうもこのベルグという単語はドイツ語臭いなあ、おお!のぼり産婦人科って、自分が生まれた病院じゃあ!おお!黎明館のところに七高はあったのかあ、って、室積氏の取材は何年にも渡っているので、鹿児島で生まれ育った評者よりその詳細は微に入っているわけなのである。っていうか、自分って無知!

 もう一つの魅力は、バンカラな学生生活の描写。うんうん、評者も学生のときは、先生を“さん”付けで呼んでいたなあ。うんうん、早慶戦の野球の応援で、ストームとまではいかないでも、声を張り上げ、足並み揃えて色んな応援合戦やっていたなあ。

 ただ、本書を語るとき、忘れてはいけないのが、戦争である。出征であり、復員である。氏と飲食した際に出てきた話にも、“劇団員連れて、知覧の特攻基地行ってきました”とか、“ブーゲンビル島に取材に・・・”だとか、氏の主宰する劇を観にいったときも、戦争をパロディしながら、戦争とは何かを問いかけ・・・多分、氏のライフワークなのかも知れない。取材をして、自分なりの咀嚼をして、自分の方法で、多くの人に伝えていく、みたいな。本書の中でも、半分以上の頁数を割いて、戦時中のエピソードが語られる。それは、悲惨さを通り越した、運命論的な描写に落とし込まれ、読む者に、それぞれの哲学を喚起させてくれる。う~ん、戦争と友情と家族と愛情は、どんな計算式の上にあるのだろう?

 実は評者、最後の場面は、氏から既に聞き及んでいた・・・すいません、室積さん、飲んだ席で、将来描くことになる物語のネタばらしはやめてください(笑)・・・でも、わかっていても、読みながら熱くなったのだなあ。で、この熱くなる部分が、実は大いなる変化球で、この変化球はどこに行くのだろうと読み進めていたら・・・やはり、映画も本もお互いに影響を与え合ったのだなあ、と感じた次第。

 まあ、いい。とにかく鹿児島県民と、ついでに熊本県民は、読むべし、読むべし、べし、べし。べし!!!鹿児島大学は、教科書として採用すべし!いや、語られているのは、そんな狭い話じゃなかった。戦争であった。全国民、読むべし!感じるべし!考えるべし!(20080322)

※さて、映画も観なきゃ。(書評No780)

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by kotodomo | 2008-03-24 13:23 | 書評 | Trackback | Comments(4)
Commented by maap at 2008-03-24 14:33 x
野球をテーマにした本のようですね(^_^.)
本屋さんでみかけたら覗いてみます。
Commented by 聖月 at 2008-03-24 17:11 x
maapさん こんにちは(^.^)
はい、野球をモチーフにしていますよ。
デビュー作『都立水商!』も野球に題材をとっていて、こちらのほうが勝ち抜く部分ではのめりこみましたね。
本書の場合、格式ある対抗戦を題材にといった感じですね。
Commented by ぶひっっっ at 2008-03-25 23:59 x
おぉ、あの時の、あのお話ですね!  ◎◎ですね! 読まねばっ。
 “北辰斜にさすところ〜 たいへいの水ようようこ〜(漢字解らず;)♪”、歌えるぞ、私。学祭の時とか、よく酔っぱらって歌っておった。。。ちと悲しげな軍歌、という感じではありますが、とてもよい曲です。
映画、観ていない…まだどこかで観られるかな。調べてみよう。
最近、NHKの『篤姫』も嵌って観ていて、鹿児島 づいています。
Commented by 聖月 at 2008-03-26 08:27 x
ぶひさん どうもです(^.^)

そう、あのときのあの話です。最後のシーンは、もうおわかりかな(笑)
鹿児島にも、企業名で北辰なんとかいう会社があって、鹿児島大学に疎い私は、なんで鹿児島で北辰なんだろうと思っていました(^^ゞ

本日は、東京の品川での目覚めの聖月様です(^^)v


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