2008年 07月 18日
直木賞の候補作という理由で読んだわけではない。ただ単純に図書館の棚に置いてあって、“あれ?三崎亜記の新作って、こんな時期にもう簡単に借りれるの?”そんなお徳感で、一応借りてきたのである。 評者の場合の三崎亜記との付き合いは、勿論デビュー作『となり町戦争』からである。評者的に、随分と気に入ったものである。独特の世界観、静謐な文体、それでも村上春樹などの模倣ではなく、新しい作家が出てきた!そんな喜びを感じた出会いであった。そして、その作品が第133回の直木賞候補に・・・違う!と思った当時の評者。『となり町戦争』は大衆文学じゃないぞ、文芸作品だぞ、同様の系譜でいえば芥川賞受賞作品の安部公房『壁-S・カルマ氏の犯罪』と同じじゃないかと。 で、次に『バスジャック』と出会う。そこで評者の、この作家に対する感じ方がまた違ってきたのである。『となり町戦争』を、SF的箱庭世界観を伴った作品だと受け止めていたのだが、『バスジャック』の短編作品群は、SF的ではなく、やはりSFなのである。この作家、SF作家になろうとしてるの?そんな受け止め方であった評者なのである。評者も『バスジャック』の書評の冒頭で、こういう風に書いている。“著者に言いたい。おい、そっち行っちゃ駄目じゃないか。”要するに、直截的にSFへ行くの?残念だなあという意味合いなのである。 そして第136回直木賞候補に挙がった『失われた町』。このときは、もうこの作家は直木賞=大衆文学と諦観の評者。ただ、『失われた町』自体を読み始め、またこういうのかと少し飽きがきた感じで、途中で読むのをやめたんだった、あん時は(^^ゞ そして、本書『鼓笛隊の襲来』。もう、目新しさがまったくなく、同様の作品群を執拗に読まされた感じで、もうこの作家の作品は、よほどの評判を取ってからでないと読みたくない。図書館で早い時期に借りれても、そこは借りずに、評判を聞いてから読みたいと。 結局、すべての作品に共通するのが、どこか異世界的なパラレルワールド。現実世界に近いながらも、どこか異世界。鼓笛隊が襲来する世界、身体の一部にボタンを持つ女性が存在する世界、人前で覆面をすることが普通の世界、そんな世界を描きながら、結局はその理由を説明しない作品群。すべてが、その構図なのである。 評者は、先に紹介した安部公房『壁』大好き人間である。初めて読んだ芥川賞作品でもある。その中に、注視した対象物を目の中に吸い込んでしまう男の話が出てくる。そんなことは、ありえないSF的手法だけれども、それをカバーするだけの文学性、世界観があるので、小説として成り立つわけである。デビュー作『となり町戦争』には、そういうものがあったのだが・・・。好みというものがあるので『鼓笛隊の襲来』の作品群は面白いという人もいるとは思うが、評者的には同じ構図の乱暴な作品群かと。(20080713) ※結局、直木賞は獲らなかったけど、そのレベルには程遠いのことども。(書評No818) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2008-07-18 08:48
| 書評
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Comments(4)
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from 図書館で本を借りよう!〜..
at 2008-07-19 07:14
タイトル : 「鼓笛隊の襲来」三崎亜記
「鼓笛隊の襲来」三崎亜記(2008)☆☆☆★★[2008039] ※[913]、国内、現代、小説、シニカル、近未来、シュール、短編集 ※あらすじあり、未読者は注意願います。 三崎亜記も短編より長編が好きな作家。デビュー作「となり町戦争」[http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/3167077.html ]、正確には連作短編集なのだろうが「失われた町」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/45004101....... more
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from キーワードフィッシュ
at 2008-07-19 08:31
タイトル : SF作家のこと
スターダスト スペシャル・コレクターズ・エディション…¥ 3,188オススメ度:★★★★Amazon.co.jp「ファンタジー」という言葉を聞いて、多くの人が連想する要素が、本作には、これでもか、これでもかと詰まっている。ま…マザーシップ・コネクション:ラスト・エンジェル・...... more
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from 粋な提案
at 2008-07-20 01:35
タイトル : 鼓笛隊の襲来 三崎亜記
ブックデザインは松昭教。イラストはまつあきのり。「小説宝石」掲載+書き下ろし。 植え付けられた奇妙な設定で確かなはずの日常が一変。歪みや違和感の伴う不思議で不条理な物語。出来事に翻弄される登場人噴..... more
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from 映画や本を淡々と語る
at 2008-08-14 16:19
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from デコ親父はいつも減量中
at 2008-08-18 00:41
タイトル : 鼓笛隊の襲来<三崎亜記>−(本:2008年105冊目)−
鼓笛隊の襲来 # 出版社: 光文社 (2008/3/20) # ISBN-10: 433492601 評価:92点 初めて著者の本を読んだ。 面白い。 独特の世界観にすっかり嵌まり込んで、読みふけってしまった。 ありえない世界なのに、いかにもそこにありそうな世界。 明日、自分が目覚めてみ....... more
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from yoseyama Blog
at 2011-01-09 23:06
タイトル : 鼓笛隊の襲来
「となり町戦争」の原作で有名な三崎亜記さんの短編集「鼓笛隊の襲来」を去年購入していたものの、読まずに本棚に並べていたら妻と小学校5年生の娘に先を越されてしまいました。年末になり読み始めたところ、その不思議な世界観と良質に夢中になってしまいました。...... more
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from 笑う学生の生活
at 2011-09-05 23:01
タイトル : 奇妙な文学
小説「鼓笛隊の襲来」を読みました。 著者は 三崎 亜記 9つの話からなる短編 今作でも三崎ワールド健在 ちょっと普通とは違う世界でおこる物語 9作品 どれも面白い 設定の奇妙さが効いてますね 全体として どこか悲しさがあり 何か失った者たちを描いているような ...... more
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さらい
at 2008-08-31 19:55
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書評に同意。
結局、なぜそうなのかを説明しない、その構図。 自分はその状況を面白く書いている、でもなぜかは自分で考えてよー。 一回ぐらい理由を説明した本書いてみろ。 まあこの作家は次回も同じような設定で、記憶の喪失だとか、見えているのに見えていないものはないですかと問うた作品を出してくるんでしょう。 まあ見てて。同じようなことしか書けないから。 視野が狭すぎるもん。
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さらいさま こんにちは。
私の場合、実はこの作家、デビュー作『となりまち戦争』を随分と気に入っていたので、その後の作風が気懸かりなのです。 SFに行っちまったの?そんな感じで、安部公房的なほうを期待していたのですが。 これじゃあ、作風が安易に走りすぎていて、ドリフのコントみたいに、“もし台風が鼓笛隊だったら?”そんな感じで、いくらでも作り出せるけど深さはないなあみたいな。 デビュー作の文体からして、実力はあると思っているのに・・・残念。
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by
さらい
at 2008-09-07 19:58
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聖月様 こんばんわ
聖月様は いくらでも作り出せるけど深さはないと書いてありますが、私のほうは 少し違ってひとつのものをいくつもに広げてるだけで、そこに深さは生ま れないだろうという感想です。 次回はこの作家の長編の恋愛小説を読んで見たいですね。
さらい様 おはようございます。
ああ、そういう意味合いだったのですね。 実は、私、この作家に安部公房との類似性を思っていたのですが、 過去の直木賞選考で、委員の中に、安部公房に言及している発言をみつけました。 独りよがりじゃなかったと、少し嬉しくなりました。 恋愛小説、いいですね。 |
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