カテゴリ:読書メーター( 97 )


2014年 12月 01日

2014年11月に読んだ本のことども

2014年11月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:2082ページ
ナイス数:118ナイス

私を知らないで (集英社文庫)私を知らないで (集英社文庫)感想
◎◎「今日は楽しかった。でも、あなたのことは嫌い。これ以上私を知らないで」そんなことを言われるような恋もしてみたいものだが、主人公たちは中学生なのに、そんな恋をやってのける。文章はライトな感じでも、芯はハードボイルド。軽い論理の裏側には、作者が周到に咀嚼した物事の理が垣間見えて、とにかく読んでいて楽しいのである。転校の多い主人公少年は、転入先の学校の空気を読みながら、馴染まないように馴染んでいく。そこへ、空気を読めない新たな転校生が登場。そして、クラスで浮いている少女の謎。チープな設定ながら読ませるのだ。
読了日:11月21日 著者:白河三兎
沈むフランシス沈むフランシス感想
ただの恋愛小説でした。前作「火山のふもとで」を読んだとき、こんな小説を描けるのは凄いと感じたが、本作は、こんな小説なら自分も書けそうな(実際は書けませんが)そんな感じであった。最新作に期待しましょう。
読了日:11月13日 著者:松家仁之
火山のふもとで火山のふもとで感想
◎◎気品が漂う静かな小説。普通デビュー作というのは素人が書いたプロ一歩手前の作品と位置付けられるのだが、編集者だった作者の経歴から考えると、最初から手練れの作品。建築家としての自分を作った最初の一年を描き、書かれなかった後の30年後と呼応する。家具、音楽、乗り物、食事、どれを取っても洗練された、避暑地での出来事。設計事務所ごと、夏は避暑地に移動するのである。この作家。村上春樹読者かな?とも思うが、編集者なので多くの作風を吸収してきた結果なのでしょう。遅咲きのデビューながら、追うべき作家が一人増えました。
読了日:11月13日 著者:松家仁之
エヴリシング・フロウズエヴリシング・フロウズ感想
◎◎いやあ、巧くて読ませる。350頁足らずの物語なのだが、操られる日本語を細かく読んでしまうので、頁を繰る手がいい意味で遅くなる。この作家の作品は全部読まねばである。中三の主人公少年の、一年間、交友関係を通しての普通の風景を描いたものだが、中三と言ってもそこは逆に細やかな心の動きがあるわけで、そこの微妙な揺れの描き方が抜群なのである。こう言った方がいいかと思いながら言葉を飲みこむ思春期。反面、ユーモア小説でもある。知りたいことはすべて学校新聞に書いてあったり、イケアが面白い使われ方をしていたり。出会い本。
読了日:11月9日 著者:津村記久子
ハリー・クバート事件 下ハリー・クバート事件 下感想
◎◎最後まで飽きさせない面白さ。でも、最終盤は少しごちゃごちゃしたかな。上巻で、描写の薄い謎の人物の正体は、薄々気づいてはいたのだが、それが事件とどう絡むのか、真犯人は誰なのか。結局、被害にあった少女は純心かそうでなかったのか。しかしなあ、上巻の感想でも書いたが、主人公の電話向こうのママの会話が快調。あと、2回くらい主人公とのやりとりを盛り込んでほしかったかな。今年の本で一番面白い海外物はこれで決まり。色んなジャンルで1位にふさわしい本なんだけど、読者数はAmazonでもメーターでも多くないのが残念です。
読了日:11月3日 著者:ジョエル・ディケール
ハリー・クバート事件 上ハリー・クバート事件 上感想
◎◎読んでいて滅茶苦茶楽しい。ミステリーとしての面白さ以外にも、人物たちのキャラが紡がれ、話の展開が進まなくても楽しくて仕方ない。特に、主人公のおせっかいな母親。電話の向こう側にしか存在しないのだが、こうるさくても憎めない、ワハハは母親である。刑事も嫌な奴なんだけど、この人も憎めない。話としては、失踪少女の死体が、作家の恩師の庭で掘り返され、その身の潔白を主人公が晴らそうという、単純な構造なんだけど。いやはや、傑作。作家が作家を描く作品は、数多く読んできたが、これが一番面白い。題名が、少しイマイチだけど。
読了日:11月2日 著者:ジョエル・ディケール

読書メーター

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by kotodomo | 2014-12-01 12:06 | 読書メーター
2014年 11月 26日

2014年10月に読んだ本のことども

2014年10月の読書メーター
読んだ本の数:5冊
読んだページ数:1728ページ
ナイス数:77ナイス

スタープレイヤー (単行本)スタープレイヤー (単行本)感想
◎◎この本を作者名を知らされずに読んだら、自分は「嶽本野ばら」と答えるかもしれない。ロリータ抜きの野ばら。決して、恒川恒太郎とは答えない。考えてみれば、いつもと同じように、ここではない何処か、ここと隣り合わせの世界を描いているのは、この作者の得意とするところだが、語り口がユーモアたっぷり、笑わせてくれるのである。地球と似たどこかに飛ばされて、10の願いが叶うようになった女性主人公。最初のうちは、チンケな願いばかりだったのが、地図が広がり交流が広がり願いは崇高なものへ。ロジックもしっかり、キャラ立ちまくり。
読了日:10月18日 著者:恒川光太郎
君を憶えてる君を憶えてる感想
▲ふむ、いい中年になってからチョイスする本ではなかったかな。この物語で触れられている「リプレイ」も「夏への扉」も既読で傑作で、では本書とどこが大いに違うかというと、わかりやすく言えば、余韻であり、作者の込めた哲学である。タイムループもの。その設定自体がリアルではない中で、いかにリアルに蓋然性を持って物語を進めていくかという作者の熟考なのである。前向きに評価するなら、この作者も、オールタイム傑作の二作をしっかり消化した上で本書に挑み、オリジナルなループは完成させたということか。キャラでは千鶴叔母が、いい味。
読了日:10月12日 著者:牧村一人
低地 (Shinchosha CREST BOOKS)低地 (Shinchosha CREST BOOKS)感想
〇紙面で「傑作である」という書き出しの書評に出会い本書を手にとったのだが、傑作ではなかった。ラヒリは好きな作家で「その名にちなんで」は自分にとっての傑作ではあったが、本書は「さすがにラヒリ」とは思っても、それ以上のものではなかったのである。途中のエピソードが、100頁以上あとで収斂をみせたり、果たして物語全体をどこから見下ろして書き進めているのか、そんな手腕はノーベル文学賞もの。ただ、なんだか指し示すような展開がないところが物足らない。殺された弟には、お腹に子を持つ妻が。その女性と結婚してのちの人生の話。
読了日:10月12日 著者:ジュンパラヒリ
愛なんて嘘愛なんて嘘感想
◎短編集。相変わらず巧い。作品には「愛なんて嘘」という題名はなく、全作品に通底する、愛の底に潜んでいる本当を描きだした作品集。この作家の作品には、黒いものと白いものとあるが、題名に反して、実際のドロドロ感に反して、本質的には白だろう。特に最初の作品なんて、形而上的な生き方を描きながら「颯爽」とした終わり方が余韻を持たせる。結局は「恋愛」ではなく、「結婚」を重点に、各々の心の裡を詳らかに描き出しているのだな。久々の短編集。やはりこの作家は巧いし、成長し続けている。直木賞受賞後、裏切らない作家のひとりである。
読了日:10月1日 著者:白石一文
虚ろな十字架虚ろな十字架感想
〇まあまあ。白夜行のような、シリアスでミステリーでない物語を期待して読み始めたのだが、完全なミステリーで、そのための物語は風呂敷を畳むための構造になっているのが残念。死刑制度の問題も、どこか中途半端な提議をしたまままのだが、普段考えることのない読者には、新鮮に映った面もあるのかも知れない。娘を殺された夫婦。圧倒的な事件のようだが、読む進めるうちに、なんだか風化してしまって、結局、娘を殺され、元妻も殺されることになった男の感情というものが、探偵の目でしかなくなって、深みが損なわれているのが残念。大衆小説。
読了日:10月1日 著者:東野圭吾

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by kotodomo | 2014-11-26 13:22 | 読書メーター
2014年 10月 06日

2014年9月に読んだ本のことども

カッコウの呼び声(下) 私立探偵コーモラン・ストライクカッコウの呼び声(下) 私立探偵コーモラン・ストライク感想
◎◎上下巻あわせて極上のミステリー。ただし、最後のまとめ方に異論のある読者も居ようが、読んでいて楽しければ少しの辻褄合わせは、特に気にならないのだ。藤原イオリンの作品なんかもそうだけど、中年男と気の利いた女の子の組合せが堪らない。また、その女の子の婚約者が直接には登場しないのもミソ。流石の紡ぎ手、ローリングに脱帽。これのシリーズ化も望むが、どんどん色んなジャンルの話を紡いでほしいなあ。あえて、別名義で出版、単独勝負のハズがネタばらしがあって怒ったという。でも、日本人読者からすれば、それがあっての安心印だ。
読了日:9月23日 著者:ロバート・ガルブレイス
カッコウの呼び声(上) 私立探偵コーモラン・ストライクカッコウの呼び声(上) 私立探偵コーモラン・ストライク感想
◎◎別名義を使っているが、J.K.ローリングのお話上手は流石。ハリポタでもそうだが、ありきたりの設定が、話の行方をわくわくさせる。冴えない探偵と、新米しっかり者秘書、そんな組合せだけでも、興味を沸かせてくれるのだな。2013年は、キングの本にグイグイやられたが、今年はこれだな。途中でやめるわけにはいかない本だな。下巻を読んで結末まで行かないと、これは死ねないな。内容は、自殺したスーパーモデルの兄に、真相解明を依頼される探偵主人公。真相はどうでもいいんだけど、とにかく軽いタッチの人間模様で、読ませるのだよ。
読了日:9月23日 著者:ロバート・ガルブレイス
ゴーストマン 時限紙幣ゴーストマン 時限紙幣感想
▲書き出しは、随分と面白そうだったのだが、途中から意外に話が進まず、結局、慎重に読むような重要な展開はないと判断し、最後の50頁は飛ばし読み。結末さえわかればいいかと。一人称のハードボイルド、大好きなタイプなんだけど、どこか入り込めず。カジノから盗まれた札束。盗んだほうも、そこには連邦銀行のインク爆弾が仕掛けられていることをわかった上での強奪。そして、実行犯は行方知れず。主人公がその捜索へ。これが、出だしの粗筋なんだけど、読み終わってみたら、内容全体そういうことで、出だしの粗筋以上のものはなかったのです。
読了日:9月15日 著者:ロジャーホッブズ
悟浄出立悟浄出立感想
△直木賞狙い?風太郎をとても面白く読み、その他の作品に手を出したがあわず、本作は風太郎の系譜となると聞き及び読んでみたのだが、新しい作風が作者の手に余るものと映った。古い中国を舞台にした短編集である。孫悟空の頃、四面楚歌の頃。wikiで調べると、項羽の項に、確かに虞美人が愛妾で愛馬が騅とある。なら、これらの話はノンフィクションの色付け的度合いが高いのだろうか。結局、この著者の本は「とっぴんぱらりの風太郎」とエッセー集しか、自分には合わないようだ。本書は、鴨川の系譜でないのは確かだが、風太郎のそれでもない。
読了日:9月14日 著者:万城目学

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by kotodomo | 2014-10-06 16:14 | 読書メーター
2014年 09月 06日

2014年8月に読んだ本のことども

金脈 The OILSHOCK! (小学館文庫)金脈 The OILSHOCK! (小学館文庫)感想
▲最初は面白そうな書き出しも、中盤から不調。結局、野ばらファンもしくは野ばら読者にしか通読できなそうな馬鹿馬鹿しさ。で、自分は野ばら読者なので最後まで。ロリータファッションの主人公女子高生が、デートに誘われて「行くます」。ここは、野ばら氏の笑いのツボ文章。あとは、ヒッピーな爺さんの手伝いで、油田を掘り当てるけど、意味のわからない理論などに筆が割かれていて、飛ばし読みも多々。で、この爺さんが不利な立場に追い込まれると話言葉は女子高生「っていうか、超カワでぇ」みたいな。ここらへんも野ばらツボ。ファンのみ必読。
読了日:8月31日 著者:嶽本野ばら
たまものたまもの感想
〇いやあ、最初の読み始め十数頁では、文章がきらきらしていて、こりゃあ面白い感性の文章に浸れるぞ!と思ったのだが、物語、もしくは物語と思われるものが進行しだすと、文芸性は高いのだが、最初で感じた感性が続くわけでは、少しがっかり。川上弘美がいたり、奥泉光がいたり、そんな既読の作家の作品も読書中彷彿されるが、この作者の文芸性はオリジナル。もう少し、全体が山尾とのやりとりばかりであったなら、今さらながら芥川賞、そんな雰囲気を持つ、変わってないけど、風味は変わった物語である。
読了日:8月20日 著者:小池昌代
マスカレード・ホテル (集英社文庫)マスカレード・ホテル (集英社文庫)感想
〇巧いんだけど、下手というかベタ。巧いのは、犯行の連綿性とか意外な犯人像とか、ホテル的なエピソードの盛り込み方とか。ベタなのは、やはり2時間ドラマ的な会話での進行や、トリック的なものを支える人物たちが本当にそういう行動をとるのかという蓋然性の希薄さ。まあ、でも東野圭吾、まだまだ頑張る所存です!って感じで、攻めの一冊かと。あと、読了後、マスカレードの意味を調べたのである。
読了日:8月20日 著者:東野圭吾
神様のケーキを頬ばるまで神様のケーキを頬ばるまで感想
◎◎この作者の本は3冊目だが、どれも巧い。手垢のついていないピュアな表現が、心をツンツンする。新しい音楽に触れたような気持ちになってくる。本作は連作短編集といっても、あるビルのテナント入居者もしくは関係者、それとある芸術家の絵画や映画といった作品と、小道具が共通するだけ。時も同じくするわけではない。また、それぞれの作品も、温度が若干違う。全体的に言えば、全部温めの温度ではあるのだが。粗筋の紹介もしようがない、さりげない物語たち。いつか凄い賞を獲るだろう。これまでの作品を読めばそう思う。天性の瑞々しい筆致。
読了日:8月16日 著者:彩瀬まる
ポーカー・レッスン (文春文庫)ポーカー・レッスン (文春文庫)感想
〇。それぞれの短編が少し長めで、おおよそ終盤に視座が変わるという構造で、ある意味飽きてくる。いや、ひとつひとつは、さすがディーヴァー、丁寧に作られ面白いのだが、それをいくつも並べられると、お腹一杯なのである。まあ、自分が通しで読み切ったのも間違いで、一日一編くらい読んでいくのがいいのかもしれない。原題と一緒で、ツイストの効いた話ばかり。普通に話は進んでいくのだが、終盤、今まで語られてきたものの様相が一変する。簡単に言えば、被害者が加害者かと思ったら、加害者が被害者みたいな(笑)誰が読んでも楽しめる一冊。
読了日:8月15日 著者:ジェフリーディーヴァー
ボラード病ボラード病感想
▲序盤はアゴタ・クリストフ「悪童日記」のようなシュールな物語である。「悪童日記」の向こうには戦争が見えたが、この本の向こうには「フクシマ」が見える。逆にいうと、震災がなければ、ただシュールなだけで意味が汲めないだろう。もっと言えば、今、福島で頑張っている人たちが読んだら、怒りを覚える本なのかもしれないし、頷きながらも慌てて首を振る内容なのかもしれない。福島の文字も、原発の文字も、地震の文字も一切ない。行政によって、絆によって、信じることこそが正しさ、幸せ。そんな地域に暮らす少女の目を通して描かれる問題作。
読了日:8月3日 著者:吉村萬壱
神秘神秘感想
◎◎この作品は、今日本における小説の最高峰に立っている。誰が読んでも面白い、誰もが唸る、誰も書けない大傑作。物語のキーワードのひとつ双子。著者自身も双子で、弟の文郎も小説家。父も直木賞作家の白石一郎。血統が書かせるものなのか、著者自身の思慮が書かせるものなのか、紛れもない名作である。転落的な物語も多い著者ながら、この物語は、ずっと天使がつきまとう。癌を宣告された壮年男の物語なのだが、話はずっと前向きで、どこか一条の光が射し、中年男の冒険的な部分も読者の心をくすぐる。二つの震災を扱いながら、どこまでも神秘。
読了日:8月2日 著者:白石一文
暗い夜、星を数えて―3・11被災鉄道からの脱出暗い夜、星を数えて―3・11被災鉄道からの脱出感想
▲3月11日午後2時46分の自分は、羽田空港で故郷鹿児島行の搭乗アナウンスを待っていた。6脚カーブ型の椅子に座り本を読み、隣の女性の貧乏揺すりが気になり、それが地面からの揺れとわかり、地震直面。翌日の夕方まで28時間、空港という離れ小島に幽閉。福岡に帰る予定の男性とタッグを組んで、荷物を見てもらったり、弁当配布状況を教えてもらったり。他の幽閉先と比べると空港はラッキーな場所で、テレビ報道で何が起こっているのかわかり、トイレも自由、一人あたりの床面積は広い。仮眠はウツラ3時間程度。だから、こういう本は解る。
読了日:8月2日 著者:彩瀬まる

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by kotodomo | 2014-09-06 16:11 | 読書メーター
2014年 08月 06日

2014年7月に読んだ本のことども

2014年7月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:1877ページ
ナイス数:129ナイス

あのひとは蜘蛛を潰せないあのひとは蜘蛛を潰せない感想
◎◎この作者の紡ぐ物語は静かで巧い。恋愛小説で家族小説で、職場小説、それらが作者の哲学によって色づけされるのだが、その哲学が柔らかい。気を抜けばすぐに傷ついてしまうような登場人物たちを、壊れないように、どこまでも柔らかい哲学で包み込んでいく。物語の展開も、単純なようで、精緻。昔から馴染む兄嫁の雪ちゃん、バファリン依存の来店女性客、蜘蛛を触れない性格、蜘蛛を逃がす性格、潰せる性格、色んな些細なものを巻き込みながら、物語は優しさへ向かっていく。主人公がずっと苦手にしていた母親。結局のところ、優しいのだなあ。
読了日:7月27日 著者:彩瀬まる
東京自叙伝東京自叙伝感想
◎時代を超えた興味深い自叙伝が、色んな人物達から語られるが、その人物達が、基本東京に居るわけで、そういうことで、東京が自らを語ることになり、奇妙なことに、各々の人物達も同じ人物である。奥泉光という著者は、賢い脳みそが入ったような額をして、毎回、面白い小説が書けたと豪語する。面白いときもあれば、そうでないことも。ただし、ジャンルにこだわらず、ただ小説たらんとする。本書も小説。中々に面白い小説。侍小説、戦争小説、バブル小説、原発小説、そして著者の得意な鼠視点小説。そんなジャンルミックスができるのはこの作家だけ
読了日:7月26日 著者:奥泉光
ザ・万遊記 (集英社文庫)ザ・万遊記 (集英社文庫)感想
〇「とっぴんぱらりの風太郎」で、凄いと思い、その後「プリンセストヨトミ」を読み始めたが、途中で飽きて放り投げ、でもエッセイは面白いらしいと知り、2冊読んだら面白く、でも本作3冊目は、まあまあ。連載誌の縛りで、温泉やサッカー、渡辺篤史と建物なんて限られたテーマで書くわけで、そうなると題材が枠にはまってしまって、ユーモアも涸れてくるんだろうな。たまたま、W杯が終わったばかりだったので、この前までは知らなかった、今は知っているサッカー選手の名前もチラホラ。そういえば、アンリやカカ、もう昔の人になったのね。
読了日:7月24日 著者:万城目学
闇の中の男闇の中の男感想
◎訳者柴田元幸のあとがきが秀逸。これを読めば、物語全体が一層腑に落ちる。確かに、正しい選挙の結果、ゴア氏が勝利していたら9.11のない歴史の可能性はゼロではなかったかも知れないし、もし起こっていたとしても、アメリカは今自分たちは何を問われているのか、気付くべき機会になったのかもしれない。その機会はあったのだけど、猿ブッシュが結果と結論を単純にして、父親を真似て戦争に踏み切りたがったために、それを逸したのかも知れない。少なくともイラクのない世界というチョイスは存在した。そういう暗喩を含む社会性と家族の物語。
読了日:7月18日 著者:ポールオースター
巨大訴訟(下) (新潮文庫 ク 23-32)巨大訴訟(下) (新潮文庫 ク 23-32)感想
◎◎愉快なリーガル物語&ひよこ弁護士の成長譚。法廷ゲームには、そう多くの頁を割いていないが、その部分も面白く愉快で興味深い。堅物判事の存在の妙もあり、主人公弁護士が唯一大活躍する部分でもある。あとねえ、主人公のワイフがいいなあ。大事務所を辞めても怒らないし、主人公と一緒にか弱き人々の面倒を見るし、前向きだし。そして、本書を読んでの一番の収穫は・・・「法律事務所」は読んだが、以降ほとんど未読だった過去の著者の作品を、大いに読みたくなったのだよ。「法律事務所」は面白かったが一発屋だと思っていたら、大小説家。
読了日:7月13日 著者:J・グリシャム
枕もとに靴―ああ無情の泥酔日記枕もとに靴―ああ無情の泥酔日記感想
◎◎脱力系、思弁エッセイ。こりゃいいわ。自分も無駄なことを考えるタイプだが、この作家の無駄な思弁には笑わずにはおれない。こうなりゃ、全著作読むしかないな。中年男が読んでこれだけ面白いのだから、女性読者が読んだら尚更ファンになっちゃうだろうなあ。ただし、5編だけ、創作小説があって、それは頭だけ読んで、エッセイじゃないことに気付いて読み飛ばしたけどね。求めているのは、グダグダなエッセイだからね。この著者と一緒に飲んでみたいとは思ったりするが、多分、散々話を聞かされて圧倒されて疲れるかもしれない。肩をバシとか。
読了日:7月6日 著者:北大路公子

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by kotodomo | 2014-08-06 13:44 | 読書メーター
2014年 07月 04日

2014年6月に読んだ本のことども

2014年6月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:1835ページ
ナイス数:137ナイス

オバさんになっても抱きしめたいオバさんになっても抱きしめたい感想
著者は1953年生まれ、自分は1962年生まれで、世代の呼び名はない。本書の主人公は、未だシングルの40代後半のバブル世代OLと、同じくシングルの20代後半のさとり世代OL(正確には違うが)。確かに、自分の子供の頃は、どんどん物価が上がっていったが、自分の子供たちは、余り価格のインフレ的値上がりを経験してない。まあ、それは置いておいて、本書はOL達の結婚願望、婚活話。著者や自分が通ってきた、バブルやその後の時代を描いてあるので興味をそそられるし、男には共感し辛い女心も、著者の筆致が滑らかで巧く一気読み。
読了日:6月29日 著者:平安寿子
巨大訴訟(上) (新潮文庫 ク 23-31)巨大訴訟(上) (新潮文庫 ク 23-31)感想
◎◎おやおや。グレシャム+巨大訴訟ということで、硬質でストレートな法廷物かと思ったら、コメディーなストーリーにほっこり。巨大弁護士事務所→逃走→一日酒場→弱小事務所に辿りついた主人公。普通はそんなことしたら、妻に呆れられると思うのだが、その理解力が温かい。弱小事務所、例えれば弱小野球部が甲子園を目指すようなお話。きっと、下巻では苦労の連続、それを乗り越えながらも、何かを勝ち取る主人公がある世界かな。とにかく、この作家とは思えないユーモアたっぷりの面白物語。ある意味、今年の読書の拾い物。憎めない登場人物達。
読了日:6月29日 著者:J・グリシャム
夢幻花(むげんばな)夢幻花(むげんばな)感想
△島田荘司が壮大な大風呂敷を広げ、宮部みゆきがそれを回りくどい語りに落とし、それを赤川次郎が偶然と会話だけの展開に手直しし、最後はその風呂敷を東野圭吾が畳んだらこうなりました的な作り話。物語ではないなあ。作り話だなあ。自殺の理由、水泳をやめた理由、家族の態度、中二の恋が終わった理由、謎を解こうとする推進力、それぞれの行動、大きく広げ過ぎた風呂敷を畳むには、作り話的な動機や行動と偶然に頼るしかないのかも知れないけどね。帯が笑うよね。「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない」と著者自らが語る。考え過ぎです!
読了日:6月22日 著者:東野圭吾
骨を彩る骨を彩る感想
◎◎初読みの作家で、上手いなあ、この作家巧いなあと思って読んでいたら、最後には、その凄さにガツン。泣きました。感動。連作短編集。最初は、妻を早くに亡くし、娘と暮らす中年男の、妻に関する奇妙な夢と日常の話。そこでの脇役が次の短編の主人公。そんな繰り返しで、最終章は、中年男の娘、小春が主人公。この最終章が絶妙に巧い。主人公が中学生なだけに青春の章なのだが、ひた向きながらピュアでシビアでヘビー。どの章にも共通することの答えが、ここには詰め込まれているような。人生は、しんどいけど瑞々しいみたいな。自分的本屋大賞!
読了日:6月21日 著者:彩瀬まる
春、戻る春、戻る感想
〇男性読者でも、瀬尾まいこの小説は、いつも中々に面白いのだが、これはちょっと。ハートウォーミングな話ではあるんだけど、男としての共感性には距離感があるな。結婚直前の、女性主人公。もういい歳の結婚。おだやかな結婚。そこに、顔も知らないけど、お兄さんという人物が現れて・・・幽霊なお話?それと、主人公女性の封印された記憶って?そんなことで、最後まで引っ張ってくれるんだけど、最後は、ふ~ん、そうだったの、みたいな感じで、まあ結局なんだったんでしょう、この話、みたいな。優しい良質な作家ではあるんですが、相変わらず。
読了日:6月21日 著者:瀬尾まいこ
ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)感想
△1、2、3としっかり読んで、4は途中で飽きてそのまま図書館に返却。で、今回5。手塚治虫の漫画が読みたくなった以外は、だんだん材料と味付けがイマイチになってきたような。6が出ても、もういいかなって感じでね。ブラックジャック。通しで読みたい読後感。
読了日:6月7日 著者:三上延

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by kotodomo | 2014-07-04 11:15 | 読書メーター
2014年 06月 02日

2014年5月に読んだ本のことども

2014年5月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:3610ページ
ナイス数:102ナイス

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~感想
◎◎7年ぶりに再読。やはり、良い本でした。7年前も今も、自分のオカンは元気なわけで、その間にオトンは死んだわけで、自分の齢も45が52になっちゃったわけだけど、そんな現実と何かが重なる良さではなく、でも最近の本屋大賞が面白いとか面白くないとか、そんな読書をしながら本書を未読の読者は是非読んでみてください、と、そんな面白さなのだなあ。福岡は小倉や筑豊の、風景や方言も、その良さを醸し出していてくれますな。著者の自伝的小説で、オカンとのことを描いているのだけど、副題「時々、オトン」と言いながら、結構オトンです。
読了日:5月31日 著者:リリー・フランキー
最後の紙面 (日経文芸文庫)最後の紙面 (日経文芸文庫)感想
◎主人公の異なる11の章が、それぞれに丁寧に描かれた短編映画のよう。ペーソスあり、ユーモアあり、文学風味あり。すべては、ローマで英字新聞を発行する会社の話や、その周辺のお話。結局、何の話という大きな幹はなく、オムニバス形式で、読者が連繋を埋めていくような、そんな読書中。印象に残って面白かったのが、スナイダーの強烈な押しにやられまくる若手のお話。あと、やはり新聞のことを考えましたね。自分が就職する頃の、花形が新聞社。それが、こんなにもネットに押されるとは。しかも、活字になった時点で、ネット上の記事より古い。
読了日:5月25日 著者:トム・ラックマン
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド感想
◎◎自分にとっての村上春樹最高傑作作品を、時を経て再読。読みながら、今回は傑作じゃないかもと感じたが、読了して、やはり最高傑作でした。前回はどうだったか憶えていないが、最終4章は涙が止まらず。切ない話の印象は、記憶の通り。でも、哀しくて切ないのではないんだよね。切ない村上作品は他にもあるが、他の村上作品にはないテイストがここにはある。愉快さ。愉快で切ない終盤。空は晴れているのに、二人は笑いあっているのに、切ないのである。読後直後の今の気分は、心が洗われた感じ。心を洗濯してくれる唯一の村上作品と言える傑作。
読了日:5月17日 著者:村上春樹
山背郷 (集英社文庫)山背郷 (集英社文庫)感想
〇村上春樹「ノルウェイの森」を読んだあと、その前に書かれた短編集「蛍」を読んで、ああ原型はここにと思ったのと同様、長編「邂逅の森」と本書収蔵の「旅マタギ」の呼応に嬉しくなる。細部は微妙に違うのだが、同じ話と言えば同じ話。本書に収録されている作品は、どれも長編になりそうな短編だが、ふむ、こういうのが選ばれて長い物語で紡がれていくのだなあ。短編だけど、最初から背景が描きこまれているしなあ。わからなかったのが「ひらたぶね」。ただ、船のありさまを描きたかっただけ?描きたいことと、読者が読みたいものが違うような・・
読了日:5月6日 著者:熊谷達也
シャンプーが目に沁みるシャンプーが目に沁みる感想
△ある意味、才能を持った作家が挑んだ、失敗作でしょう。一見、青春爽やか小説の出だしなんだけど、結局は悪意の充満したした物語。この作家は、爽やかさを描かせると巧いんだけど、悪意を説明させると下手なのである。全体的なバランスも悪いかな。A事件とB事件が並行して追及されているのに、途中A事件が忘れ去られたような描写が続いたり。あと、小説内で名言を書かせると巧いのだけど、それも不発。「屋上ロケット」「ガレキノシタ」が好きで、評価している好みの作家なんだけどなあ。肌に合わない作品も個人的にはあるんだよなあ。頑張れ。
読了日:5月4日 著者:山下貴光
本当にあった 奇跡のサバイバル60本当にあった 奇跡のサバイバル60感想
〇本当は読んでません。図書館から借りてきて、20分眺めただけでした。だったら図書館で立ち読みすればいいのに。想像通り、山、海、墜落、誘拐、紛争地、そんなところからのサバイバルのビジュアル記録。地図や、写真がまあまあ豊富。極論すれば、危ないところに近寄ってはいけない。日本を出ないほうがいい。水には近づかないほうがいい。飛行機には乗らないほうがいい。山の中に入らないほうがいい。ましてや、夫婦で夢のボートの旅に出るなんて言語道断。テニスしている最中に誘拐なんかされるわけで、とにかく外国の地を侮るなかれ。
読了日:5月4日 著者:タイムズ
紳士の黙約 (角川文庫)紳士の黙約 (角川文庫)感想
◎お昼休みに読んだり読まなかったりで、2か月かけて読みました。サーフシリーズ第2弾。やっぱ、この手のウィンズロウは面白いね。普段、途中こんがらがってくるので、翻訳物を細切れ読みはしないのだが、これはスッキリと頭に入ってくる展開。伝説のサーファーの死、浮気調査の依頼、色んなものが徐々に動きだし、最後は一極に収斂。上手いなあ。後半も後半で、主人公がどんどんピンチになって、果たしてどうやって解決?と思いきや、そこで伏線が一発で仕留める鮮やかさ。主人公も若くはないけど、やっぱ海と波が主人公なら、これも青春小説。
読了日:5月4日 著者:ドン・ウィンズロウ
ガレキノシタガレキノシタ感想
◎読みたい本リストには入れていたのだが、高校の校舎が崩壊して、その下に閉じ込められた生徒たちの話と大枠は知っていたので、面白くなさそうなと、今頃手に取ったら面白かった(^O^)/デビュー作で伊坂的山下節が炸裂したまま、その後の作品ではイマイチだったが、今回は山下流伊坂的山下節が、上手く効いている。もうオリジナルな語りと言ってもいいだろう。閉鎖空間での生徒たちの各々の話の大部分は、その空間での話ではなく、それまでの学校生活、家庭生活を想起するというのがミソ。だから、ベースは学園物なのである。勇気を貰えるぞ。
読了日:5月3日 著者:山下貴光
嗤う名医嗤う名医感想
△実際に医者でもあるこの作者の作品を読むのは好きなのだけど、この作品群はダメ。連載のための売文。そこらへんに居そうもない異常な部分を抱えた主人公を添えて、文章を書いたらこんなシリーズになりましたって感じ。折角、深みのある文章を描ける作家なのだから、こういう余技で文章綴っちゃうのはねえ。嘘を見抜ける男、潔癖すぎる医者、微笑を絶やさない医者、とにかくワンアイディアで主人公を立てちゃうと、話が薄くなりますね。医者としても作家としても信じて応援している人なので、しっかり頑張って文章を紡いでほしいのだが。残念。
読了日:5月3日 著者:久坂部羊

読書メーター

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by kotodomo | 2014-06-02 11:08 | 読書メーター
2014年 05月 01日

2014年4月に読んだ本のことども

2014年4月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:2075ページ
ナイス数:110ナイス

ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎感想
◎◎滅茶苦茶面白かった拾い物。調べなくてもいいようなことばかり。牛丼の食べ方。自分は縦割り派。上の肉を食ったら、下のご飯を制し、次のエリア。半分平らげたときには、断面ができている。最初で混ぜて食う人、上の肉部分を食って、そこからご飯に行く人、卵を頼んで肉をそれに漬けて食べる人。他に、体育系部活で水飲み禁止から、水補給奨励へのターニングポイントも調べ、高校野球からエースで4番が減った歴史の流れを調べ(当然だが、投手で一番はほぼ皆無)、エロメールに使われる女性のランキングを調べる。脱力系の作者の文章もグッド!
読了日:4月29日 著者:堀井憲一郎
漂泊の牙漂泊の牙感想
〇「邂逅の森」で感動して、類似の作品を探して本書へ辿りついたが、結局ミステリーしてしまって、どこか収集がつかず、重い方向へ行くかと思われた序盤が、最後には松本清張的謎解き話になってしまった。気を取り直して次作は「山背郷」に挑戦。ああ、本書の内容ですか?もし、日本に日本オオカミが残っていたら・・・みたいなお話です。
読了日:4月27日 著者:熊谷達也
殺意の構図 探偵の依頼人殺意の構図 探偵の依頼人感想
△自分にはまったく合わなかったのは、作者が読者をアッと言わせたいだけの構成だったからでしょう。読み終えて、「ああ、そうだったんですか、わかりました」そう思っただけ。というのも、説明されても、それぞれの人物たちが、普通そういう行動はとらないでしょうということに尽きますな。娘の家出の作者の目的が、借金をこさえることにあったりも、なんだかなあ。元弁護士の著者、その作品が面白いとの評判で読んだがガックシ。本筋の法律の適用の件も使い古されているしなあ。最後のオチも意外性はあるが蓋然性はないし。構成が損なわれるだけ。
読了日:4月19日 著者:深木章子
アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)感想
◎村上春樹の「パン屋を襲う」を読んだので、11年ぶりに再読。陽気なギャングの甥っ子の話だったのを再発見。あと、11年前はメタな手法に途中で完全に気付いていた記憶があるのだが、今回は明かされるまでサッパリ(笑)ブータンという国の記憶もなく、その後微かなブータンブームが日本で起こる前の話だもんなあと無理矢理自己納得。前の自分の感想を読むと、評価が低かったようなのだが、今回の読書は楽しかったし、この作品は今でも色褪せないことに感服。伊坂の新作を待つより、記憶の薄くなった作品を再訪するのもよろしいかなと思うのです
読了日:4月13日 著者:伊坂幸太郎
アトミック・ボックスアトミック・ボックス感想
▲芥川賞を受賞したこの作家の作品は、多くは読んでいないのだが、それでもセンスのある作家というイメージは持っていた。ところが本書はセンスがない。国家機密的情報を亡くなった父から引き継いだ娘が当局に追いかけられながらも・・・なんて壮大な話なんだけど、結局はショボイ逃避行物。小さな容器に、雑多なものを入れ込み過ぎたそんな感じ。広島、長崎、チェルノブイリから3.11まで載せこんで未消化状態。都合のいい所に、都合のいい登場人物たちを配置して、物語を進めてみただけ。この大風呂敷とショボさは、大沢在昌的であった(笑)。
読了日:4月6日 著者:池澤夏樹
パン屋を襲うパン屋を襲う感想
△1980年代のこの初期の文章は、結局芥川賞側に位置するのだけど、最近の村上春樹は、直木賞側とは言わないけれど、軸足はシュールな大衆。この作品はシュールな芥川賞側。パン屋を襲うだけの話なのだが、テーゼとかワグナーとか小賢しい。春樹長編はコンプリートな自分だが、短編や紀行やノンフィクションには手を出す気がなくて、こうやって短編2編を読んでみても、後の未読の短編集もとは思わない。この本のコンセプトは、シュールな絵を描く画家とタッグして絵本を作りたかっただけ。表紙になぜかピエロ。ピエロのパン屋。なるほどね。
読了日:4月5日 著者:村上春樹

読書メーター

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by kotodomo | 2014-05-01 14:27 | 読書メーター
2014年 04月 01日

2014年3月に読んだ本のことども

2014年3月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3778ページ
ナイス数:113ナイス

首折り男のための協奏曲首折り男のための協奏曲感想
〇確かにそこには伊坂流伊坂節はあるのだが、短編集だと自分の中ではやはり炸裂なしに終わってしまいイマイチなのである。例えば前作、前々作の長編は楽しくワクワク読み、終わってしまうのが勿体ない感じだったのだが、今回は早く読み終わらないかなぁとつい義務的な読書となってしまう。死神も一作目の短編はイマイチで、二作目の長編は楽しめたわけで、まあ個人的な相性としか言えないのだが。神も仏も、右から左へ、各編共通するものがなくはないが、連作短編集まではいかず、関連した短編集となっており、人気の黒澤、それにチラリと死神も。
読了日:3月30日 著者:伊坂幸太郎
猫間地獄のわらべ歌 (講談社文庫)猫間地獄のわらべ歌 (講談社文庫)感想
〇時代物ながら本格ミステリーでオトボケ小説。江戸時代の主人公が自分のことを俺と呼ぶことからして、ハードボイルドタッチ?と思いきや、シーンはお国の連続殺人事件へと飛ぶ。なんとも妙な殺人事件が続いて、犯人像が明かされたかと思いきや、いきなり読者への挑戦状。密室、館物、メタ、そんなものが入っている時代物。伏線とも思っていなかったものが、最後には伏線として回収されるから、中々に大したもの。なるほど、このミスにランクインしていなければ、読み逃していたはず。いや読み逃しても構わないのだけど、これはこれで収穫なり。
読了日:3月30日 著者:幡大介
砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)感想
◎◎シリーズ5作が完結。中だるみしていたような感もあったが、本作で持ち直して見事なフィニッシュ。特に今回はキャラがいい。ラスベガスから帰ろうとしない、86歳の爺さんを無事帰還させるのが、今回の主人公の任務。これがうまく行かない。お金も意識も問題のない爺さん。でも、帰ろうとしない。飛行機に乗らないと我が儘。日本車やドイツ車には乗れないと我が儘。その間ずっと昔話や落とし話を喋り続け・・・って、この爺さんの延々とした会話を描ける作者が素晴らしい。あまりにもシツコイうるさい話に読みながら笑ってしまう。読むべし。
読了日:3月27日 著者:ドンウィンズロウ
ブラック・ジャックは遠かった 阪大医学生ふらふら青春記ブラック・ジャックは遠かった 阪大医学生ふらふら青春記感想
〇現役作家であり「廃用身」や「無痛」の医学小説で知られる著者の、青春ノンビリエッセイ。学生時代の旅や、通ったお店の話などはさほど面白くなく、パラパラ読みになってしまうのは否めないが、臨床の実習等で、重い病気におかされた患者を通して感じるピュアな苦痛、医者になってわかる患者の選別(必要な意味での)、そんなところが考えさせられてしまう。手塚治虫のBJに登場した安楽死医師キリコ。当時は悪役として受け止めていたが、うむ、患者視点、医師視点のバランスを取って眺めると、満更悪役でもない。手塚氏も葛藤を感じていたのかな
読了日:3月27日 著者:久坂部羊
邂逅の森 (文春文庫)邂逅の森 (文春文庫)感想
◎◎マタギの話、別に読まなくてもいいやと史上初の直木賞&山本周五郎賞受賞作をスルーしてから10年。判断を誤っていた。一気読みの傑作。読まなかった後悔と、今読めた喜びとを感じた山の男の物語。勘違いしていたのは、少人数の男たち、ひとつの山での物語で終始するのかと思っていたら、様々な登場人物たちの配置の妙に唸らされ、場を転々とする冒険のような男の生涯にワクワクし、章ごとの山場やエピソードに心踊らされる。いいなあ、あのシーン。後半で主人公がこけしを買い求めるシーン。熱い涙が零れました。未読の方は、是非に読むべし!
読了日:3月21日 著者:熊谷達也
舞台舞台感想
〇イタイ主人公の一人称物語。道をすれ違う人は気付かないかもしれないが、俺は今日童貞を捨てたんだぜ!と胸を張って歩くと人が奇異に思うかもしれないので、今日は外を出歩くのはやめよう、そんなアホな思弁的主人公が初めての米国で本当にイタイ目に。最初はそのイタサに苦笑するが、途中から、おいおい、と感じる読書中。決して他人事ではないのである。読書メーターに感想書いたり、FBでネタをアップしていること自体、そんな自分を他人がどう評価するのかと考える自分がそこにいるのである。しかし、幽霊は本当に見えていたのかなぁ?
読了日:3月19日 著者:西加奈子
破門 (単行本)破門 (単行本)感想
◎イケイケの極道桑原とヘタレ二宮のおかしな二人シリーズ。シリーズでは「国境」が一番好きなのだが、なぜかと言えば北朝鮮という不自由な国で冒険するからで、本作も香港やマカオに二人は出向くはめになるのだが、不自由な国でもなく、大体は日本を舞台に活躍するので、携帯一本で事態は次の展開を見せる。だから、いつもの大阪弁会話も面白く、どういう収斂を見せるのか読書としては楽しいのだが、逆にリズムの良さが盛り上がりシーンを作らないのである。あのシーンが!というのがないのである。それでも面白いシリーズ。次回は是非また共産圏へ
読了日:3月16日 著者:黒川博行
ザ・万字固めザ・万字固め感想
〇イマイチ。今一つ、それぞれの文章に紡ぐ熱意が感じられず残念。ゆるくニヤリとさせるエッセイ集のはずなのだが、ただゆるいだけで、ニヤリとしないのである。少し涸れ気味。
読了日:3月15日 著者:万城目学
モーツァルトとレクター博士の医学講座モーツァルトとレクター博士の医学講座感想
◎現役の医師にして小説家である著者の医学的カラダトリセツ。わかりやすく興味深い。自分が属する医学界の常識にも納得していない部分(聴診器は使用するが未だにその重要性が著者はピンとこない)の独白、サプリへの懐疑等、自然体で話を進めていくので興味深々の読書なのだが、怖い病気にも気軽に触れてくるので、読んでる読者は、俺ってガン?私ってどこか悪い?そんな気分に陥ってしまう(笑)その著者が副作用も気にしながらも「フィナステリド」という脱毛予防増毛薬を試し、効果があるみたいと言っているのが気になり、φ(..)メモメモ。
読了日:3月9日 著者:久坂部羊
彼が通る不思議なコースを私も彼が通る不思議なコースを私も感想
◎小説というジャンルがあるなら、これこそthe小説。不思議な人生のコースを辿る彼との恋愛結婚生活の物語。物語の展開のスピードがちょっと変わっていて、ある時は同じ時点の事柄をゆっくりと書き込み、またある時はたった2頁で普通の人が議員にまで登りつめるという荒技を使う。そして最後には、その長い長い時間を圧縮してしまう。一見、それはないでしょう、という終盤ながら、著者が主人公たちに言わせている「時間」というものを、自らの筆で体現していると考えれば、これはこれでありだろう。小説の展開性は面白いが、結末はあっけない。
読了日:3月9日 著者:白石一文
長州シックス 夢をかなえた白熊長州シックス 夢をかなえた白熊感想
〇幕末の短編集。著者の得意な妖術とか忍者とかは封印。結果的に読みやすく、別の見方をすれば、誰が書いた小説か、わからないような癖のなさ。そこかしこで史実と創造を絡めながら、筆の温度は人肌、そんな感じの佳作集。表紙で誤解しそうだが、動物の白熊が出てきたり、人間のマネをしたりはないので要注意(笑)そうか、人々は和蘭語から英語へその必要性の傾きを変えていったわけか。現代も、英語は大活躍、オランダ語講座って聞いたこともないなあ。最近、色んな本でジョン万次郎に出逢うが、本書にも少し名前だけは登場。人気者ですなあ。
読了日:3月2日 著者:荒山徹
ザ・万歩計ザ・万歩計感想
◎脱力系想像力的エッセイ集。マキメ氏は工場や城が好きだが、自分は工場も城も好きではないのだが、全体の値打ちのないような想像力にいたって共感、オモロ本(^.^)若者にはわからないような昔ギャグの材料も時々ツボ。カッパドギアを見て「アッチョンブリケ」と心の中で思ってしまう著者に、思わず吹き出してしまう。惜しむらくは「とっぴんぱらりの風太郎」しか読んでいないので、他の作品に関する話題が出ても、ちょっとピンと来なかったことかな。先生に、はむかうなら、にくやにいけ・・・聞いたような、初めてのようなユーモアにニヤリ。
読了日:3月2日 著者:万城目学

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by kotodomo | 2014-04-01 18:48 | 読書メーター
2014年 03月 02日

2014年2月に読んだ本のことども

2014年2月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:2250ページ
ナイス数:97ナイス

かにみそ (単行本)かにみそ (単行本)感想
〇2つの中編が収められているが、表題作のみ読んで読了ということで。海辺で拾ってきた蟹が、無邪気に喋り始めるまでは面白いと思ったのだが、あとのホラー的要素はありきたりで、しっかり描きこんであるのだが、後半は拾い読み。もう、この手のやつを楽しむには年齢が合わなくなってきたのか・・・多分、想像力が乏しくなってきたのだろうな。文章自体は、新人とは思えぬ、堂々とした筆捌き。
読了日:2月23日 著者:倉狩聡
世界でいちばん美しい世界でいちばん美しい感想
〇面白かったような、イマイチだったような微妙な感じ。暗い部分がなく、明るい部分でもっと進行したほうが良かったような。少年期の部分は「船に乗れ!」の焼き直しのようでもあるが、中々に面白く、青年期の部分はなんだか言葉足らずの展開かなあ。ただ、作者自身が音楽に造詣が深く、自分の土俵で勝負しているところが、全体に深みを与えているよう。
読了日:2月16日 著者:藤谷治
日本全国もっと津々うりゃうりゃ日本全国もっと津々うりゃうりゃ感想
△著者のなんとなくのファンなのだが、面白くないというより、脱力系文章のノンフィクション旅行記なんで、つまらないというのが正しいのか。この著者の持ち味は、いかにつまらないことで笑わせるかにかかっていて、一度も笑う隙がなかったのは無念至極でうりゃうりゃであった。あとがきに第3弾(本書は第2弾)も出すようなことを書いているが、出すなとは言わない、ただそれなりの文章を書いて欲しいとうりゃうりゃ思うのである。
読了日:2月7日 著者:宮田珠己
死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)感想
◎◎1部2部の上下巻、計4冊。表紙絵は大体ハリーの背景を体現している感じで、今回は上巻は刑務所の運度場、下巻は戦場となっている。が、しかし、各々の登場人物の視点で描かれる各章のハリーの部分は意外に少なく、そういう意味ではやはりハリーを中心とした一族の年代記なのである。下巻の注目は、上巻で出てきた嫌な登場人物たちが報いを受けるとこかな。誰かがあっさり殺されたりもするが、それで話の展開が早まるならOK。ただし終盤の法廷での争い事は日本人にはピンと来ず、判決を第3部に委ねているが、どうなるの?とは思わない(笑)
読了日:2月2日 著者:ジェフリーアーチャー
死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)感想
◎◎シリーズ第2弾の上巻のテイストは・・・おおシドニィー・シェルダンみたい(笑)平易な文章で、面白けりゃなんでもござれの展開。特に今回は憎むべきキャラが散見。いつかギャフンと言わせたく、読んでるこちらもムズムズ。でも一筋縄ではいかずに、主人公キャラたちを応援しまくり。刑務所物、ストレンジャーINアメリカ、戦争に脱走。こりゃあ面白くないわけがない。だが、上巻なので何も解決されず下巻へ。救いはエマがハリーの生存を確認したことのみ。舞台のほどんどは、英国を離れ展開していくが、果たして下巻では何が解決されるのか?
読了日:2月1日 著者:ジェフリーアーチャー
とっぴんぱらりの風太郎とっぴんぱらりの風太郎感想
◎◎巧緻に重層に紡がれる物語。にんにくや瓢箪や黒弓の喋りといったコミカルな材料に、読書の心地よさを置きながらも、あくまで通底するのはハードボイルな登場人物の各々の生き様。最終章も予定調和な後日談が描かれるのかと思いきや、あくまで切ない信念を貫いた男の生き様。大傑作である。筆の反射神経で紡ぐ作家と思いきや、あくまでも丹念な話の運び。この作品を上手く訳すことが出来たなら、ジャパニーズ忍者ハードボイルドとして海外でも支持を得られるのではないのかな。下手に訳すとコミカル忍者ファンタジー。本作の評価もそこが分れ目。
読了日:2月1日 著者:万城目学

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by kotodomo | 2014-03-02 13:35 | 読書メーター