「本のことども」by聖月

kotodomo.exblog.jp
ブログトップ

<   2009年 05月 ( 11 )   > この月の画像一覧


2009年 05月 29日

〇「中国初恋」 さくら剛 幻冬舎 1470円 2007/9

b0037682_991770.jpg 題名とは全然違った内容。著者が女の子絡みで中国に行こうと思い立ち、ただ中国に行くのも芸がないなあなんて思って、南アフリカから中国まで向かうという、なんともお馬鹿な企画ノンフィクションである(笑)。

 『三国志男』で中国の旅を、『インドなんて二度と行くか!ボケ!!―…でもまた行きたいかも』という、なんとも長いタイトルの同様の道中記でインドの旅を面白おかしく書いてきた著者の、中国編にあらずアフリカ編の旅のブログ風記録なのである。

 先に読んだ2つの道中記と比べると、イマイチ面白みにかける結果となっているのだが、そのひとつの理由として写真が少ないことが挙げられよう。『三国志男』では、写真を挿入することで相当笑かしてくれた著者なのだが、本書ではインパクトのある写真が非常に少なくなっている。写真と、その写真のコメントのミスマッチなんて題材はありふれた手法ではあるのだが、この人の本には欠かせない素材だろう。

 また、イマイチ面白くないもうひとつの理由に、アフリカ当世事情がほとんど反映されていないっていうのも挙げられるだろう。『三国志男』では、中国の観光地も結構お馬鹿なところがあるのがわかったし、『インドなんて・・・』ではインド人てみんなそんな感じなの?そんなところで笑かしてくれたのだが、本書ではあまりアフリカの事情がはめ込まれていないのである。ただ、トイレだけは汚いっていうか、そんなトイレでどうやって用をたすの?って事情だけはよくわかったのだが(笑)。

 あとテンポも悪いか・・・トイレ事情を長々と書いたり、腹痛下痢事件をしつこく取り上げたりしているのだが、それによって随分と冗長なギャグを読まされているような気になってくるのである。

 最終的に可笑しいのは、『中国初恋』という題名で南アフリカから出発という、いきなりの設定的ギャグはまだしも、結局、最後に辿り着いた国がイスラエルということで、じゃあ中国は?続きはあるの?そんな感じで話が中途になっているところである。

 あなたが、中国に行こうと思ったとしよう。で、図書館に行ったとしよう。色んな本を借りる中(地球の歩き方とか)、サイドで本書を借りるかもしれない。だって、紀行の書棚に『中国初恋』なんて題名で本書が置いてあるんだもん。もしかしたら借りるわなあ。そいでもって読んだら、南アフリカからイスラエルまでの旅路が書いてあるわけで、結局全体題名からして、本書は本当にお馬鹿なフィクションなのである。(20090525)

※さあ、あなたも本書を読んで中国へ行こう(^O^)/買わなくてもここで読めますが(笑)。(書評No888)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-29 09:10 | 書評 | Trackback | Comments(2)
2009年 05月 28日

◎「こうふくみどりの」 西加奈子 小学館 1365円 2008/3

b0037682_1465390.jpg あとがきによると、著者は本書『こうふくみどりの』を執筆しているときに別の着想を得、並行しながら対になる『こうふくあかの』を書き上げたらしい。らしい、というのも、普通西加奈子ファンなら読む前に知っていそうなことだが、最近、読書家とも呼べなくなってきた評者の読書周辺のアンテナはヘタレで、本書もただ図書館に並んでいたから借りてきただけで、読み終えてから気づいた話なのだが、まあそんなの知らんでも、本書は充分面白かったのことども。
 
 女子中学生主人公と、女友達と、女系家族を描いた話なんて、ただただ新しいことは何もないのだけど、西加奈子の関西弁文章に包まれると、結果、どこかハートウォーミングな仕上がりになるのはなんででしょう。

 評者が、書評を書く気力が最近減衰してきているのはなんででしょう。答えはひとつ。昔は読んだらすぐ書いていたけど、最近は読みっぱなしで、後になってからまあ書いてみよっかなんてPCの前に座るのだが、特にこういう起伏のない物語なんかだと、もう何を書いていいか思い出せないからなのでした。そういうことでした。もう寝ます。(20090520)

※ということで課題図書がひとつ増えた『こうふくあかの』。(書評No887)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-28 14:07 | 書評 | Trackback | Comments(0)
2009年 05月 27日

〇「ミスター・ミー」 アンドルー・クルミー 東京創元社 2625円 2008/10

b0037682_857112.jpg 書痴という言葉を、本書の紹介記事で初めて目にしたが、本書『ミスター・ミー』は、本狂い(書痴)の80歳代の好々爺物語である。だけではなく、作中作と言える二人のお馬鹿な転書屋(翻訳屋)の物語と、もうひとつジャン・ジャック・ルソーに傾倒する大学教授の物語の、3つの要素からなっている。

 好々爺物語の部分の評価は◎◎。転書屋物語の部分は◎。でも、大学教授の物語の部分が多分に知性的過ぎて、評者にはついていけない部分もあり、評価は△といったところかな。読む前は、本狂いの爺さんの話だけだと思っていたので、そこだけで全編通してほしかったと思わなくもない読後感である。

 この爺様、本狂いというよりは、生活全般が本なのである。寝食以外は、本に時間を費やすのをただ当たり前と思って生きている爺様なのである。ついでに言うと童貞でもある(笑)。そんな爺様に、あるとき家政婦が“調べものなら、最近はネットちゅうもんが主流だがや”とアドバイスしたところから、この物語は転がりだす。確かにネットを覗いてみると、本屋では捜しきれなかったロジェという人物の記述が記載されている書名〇〇を発見。早速PCショップに足を運びパソコンを買い求める主人公爺様。店員に言う“パソコンはパソコンでも、ちゃんと中に〇〇という書籍が入ったパソコンを売ってくれ”・・・旧型の爺様には、ネット検索で出てきたものは、そのパソコン自体に内蔵されているものと映ったのである(笑)。

 家に帰って、いざパソコンに挑戦。裸で読書する女性のライブ映像が・・・。まあ、あとは読んでのお楽しみということで。(20090519)

※豊崎由美氏推薦ということで、手にとってみましたのことども。(書評No886)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-27 08:57 | 書評 | Trackback | Comments(0)
2009年 05月 26日

◎◎「ラジ&ピース」 絲山秋子 講談社 1365円 2008/7

b0037682_8331158.jpg 絲山秋子、うん、いいですなあ。時々はずれることもなくはないんだけど、芥川賞受賞後も安定してますなあ。

 題名は、独身主人公女性の受け持ちのラジオ番組名。主人公は、いわゆるパーソナリィティってやつですな。皆さんのお便り読んで、感想言ったり励ましたり、恋の作法を伝授したり・・・でも、素顔の本人は、随分と人嫌い。そんな材料でも、絲山秋子にかかると、こんな素敵で人間味のあるドラマに・・・まあ、読んでみなさい。(20090518)

※疑似豚インフルの中、書きあげた書評なので、短くてすみませぬ(書評No885)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-26 08:33 | 書評 | Trackback | Comments(0)
2009年 05月 25日

◎◎「初秋」 ロバート・B・パーカー ハヤカワミステリ文庫 630円 1983/9

b0037682_1146863.jpg 今でも充分に面白く読むことができる、過去の傑作を読みたいと思っても、このミス以前(1987年以前)の作品は、中々掘り出される機会がない。評者の場合、幸いにも過去のダカーポの本の特集記事だとか、1979年から1994年までの北上次郎氏の書評を収めた文庫本を持っていたりするので、勝手に自分で掘り起こして今更の発見をすることができるのは、これは幸福なことだと思っている。

 先日たまたまパーカーの『ドリームガール』を読んで、こりゃ面白い、スペンサーシリーズもっと読まにゃと思ったときに、手元の資料をあさくっていたら、どうも本書『初秋』がシリーズの中でも秀逸であるらしいことがわかって、早速図書館から借りてきた次第である。(余談だが、あの大傑作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹なんかも、1985年出版ということで、最近の読者の間では中々周知されていないのが、やはり淋しい。)

 ということで、スペンサーシリーズ2作目に本書『初秋』をチョイスした評者なのである。うんうん、いい、いい。秀逸とは、こういうことだったのね。

 主人公のスペンサーはハードボイルドな(というかタフな)探偵である。今回は探偵業が話の発端になってはいるが、中身の多くは探偵話には割かれていない。スペンサーというタフな男と、ポールというヤワな少年との心の交流(最初通いあわないものが、最後にはという、いかにものパターンだが)が、物語の中心を成しているのである。

 親に、判断や興味、生き方すら教えてもらってこなかったポールを預かることになるまでの前半。そして、預かってからの二人のやりとりの後半。どちらも面白いのだが、やはり読者として興味深いのは、後半の部分だろう。無理矢理田舎に連れ出し、無理矢理手造りの家の建造に着手し、無理矢理習慣的な運動の指導を始めるスペンサーに示す、少年の反応に読み手は興味を覚えるのである。

 無論、最後には少年は成長するさ。それはわかってるんだけど・・・いやあ、スペンサーっていう生き方、いいなあ。(20090517)

※パーカーは面白い(*^_^*)(書評No884)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-25 11:46 | 書評 | Trackback | Comments(2)
2009年 05月 22日

◎◎「ドリームガール」 ロバート・B・パーカー 早川書房 1995円 2007/12

b0037682_11302012.jpg パーカー初読み・・・いやあ、こりゃいい。スペンサーシリーズ34作目?ということだが、前作をまったく読んでいない評者でも、大いに痺れるハードボイルド探偵スペンサー様である。

 多分、パーカー好きの読者には、同じシリーズの中でも出来、不出来みたいな評価があるとは思うのだが、とにかく初めて出会ったスペンサーの生き方に惚れぼれした評者なのである。決定(^O^)/スペンサーシリーズ読破を目標に生きていこう。生き延びていこう。老眼が進もうとも、外人さんの名前が区別しづらくなったとしても、読む手が震えるようになったとしても、何としてもこのシリーズは読破するぞ!・・・と、今は思うのことども。

 日頃、ハードボイルドな文章に飢えている評者である。原りょうの沢崎はまだかいな、藤原イオリンはもういない、ルヘインのパトリック&アンジーシリーズは終わったのかいな、そういえばドン・ウィンズロウのニール少年の活躍はまだ2作目、続きを読まにゃ、そんな読書生活を送っている評者には、このスペンサーシリーズとの出会いは涎ダラダラものなのである。内容がミステリーだろうが、コージーだろうが、そんなのは関係ない。こんな文章の作品が、30冊以上未読のままっていうのが、凄く嬉しいのである。

 ハードボイルド?なんじゃ?カッコつけ?そんなことないぞ。普段ハードボイルドに興味ないっていう方も、あの名作キャッサブランカのハンフリー・ボガードの名セリフには痺れるだろうし、とにかく男の矜持みたいなものは、男女を問わず憧れを植え付けてくれるものなのである。

 なんでも過去のシリーズに2回出てきたらしいエイプリルという娼婦の登場シーンから本書は始まる。彼女が運営している高級娼館を邪魔する輩がいるらしい。誰が?何の目的で?そんなところから、今回の物語は始まっていくのである。

 とにかく読みやすい。シーン毎の章立てになっているのだが、それぞれが印象深く短くまとめられていて、スイスイスイスイ読書が進んでいくのである。決闘シーンなんかで50頁くらい読まされる小説もあれば、こういう小説もあるわけで、特に冒険物なんかが好きくない評者のような読者には、こういうコンパクトシーンで展開される物語のほうが格段に読みやすいのである。

 パーカーを未読の方は多いと思うし、スペンサーシリーズなんて初めて聞いたなんて方も多いと思うのだが、とのかく読んでほしい。この魅力は、読んでくれとしかいいようがないのである。(20090506)

※次は・・・調べてみると『初秋』が名作らしい。それにしましょう。(書評No883)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-22 11:30 | 書評 | Trackback | Comments(0)
2009年 05月 06日

◎◎「ディスカスの飼い方」 大崎善生 幻冬舎 1575円 2009/1

b0037682_154429100.jpg 綿矢りさ姫の『インストール』を読んだときに、“むむ、町田康テイストが入ってないか?”と思ったら、後日、彼女が町田康のファンだと知ってなるほどなあと納得した評者なのである。奥泉光の作品群を読むと、題名からして夏目漱石を意識しているのがわかるのだが、そして評者は夏目漱石テイストというものをわかってないながらも、奥泉作品に漱石の系統である高踏、余裕、いわゆる高見からの文章を感じるわけである。

 大崎善生の場合、文筆家になる前、村上春樹の本をボロボロになるまで再読愛好していたというインタビュー記事を読んだことがある。大崎作品の中に、村上春樹を直截感じるほどのものが溢れているとは思わないが、ラブストーリーの部分には男女の不可思議さの距離感に、相通ずるものがあるような気がする。

 と、ここまで書いてきて横道に逸れるが、町田康に師匠はいない気がするし、舞城王太郎、伊坂幸太郎なんかも誰かに倣った文章ではなく、こういう人たちは町田節、舞城節、伊坂節(という人が多いが、評者は伊坂流伊坂節だと思っている。町田や舞城みたいに節がはっきりしているわけでなく、節自体に伊坂流の興趣が注ぎ込まれていると思っているので)なんて言われて、独自の文体を確立しているわけである。

 本書『ディスカスの飼い方』で、大崎善生の村上チャイルド系譜はお終いで卒業と評者は評価したい。大崎節の完成である。多分、大崎善生は直木賞に縁のない作家だと思うのだが、こういう完成された物語に受賞してもらい、多くの人に読んでほしい、そんな作品に仕上がっているのである。

 内容はというと・・・ディスカスの飼い方の話である(笑)。主人公男性が、転居に伴い、新しい住処のガレージに、24体のディスカス(熱帯魚)の水槽を設置し、ブリーディングに挑むだけの話である。ただ、その現在進行形の話に、それまでに至った記憶が挿入されるわけで、この今と記憶の配置が絶妙で頁を繰る手が止まらないのである。

 なぜ、主人公は転居に至ったか。ディスカスの標準的な水槽は90×45×45センチの大きさである。これを広いマンションに置いたとしよう。置けたとしよう。では、その中に水を満たすと、全部で24個もあるわけで、その重さが床に与えるダメージは相当なものがあるわけで、マンションの5階で24個の水槽が並ぶ床が抜けたらとんでもないことになるわけである。これが引越しの理由。

 また、過去に4人の女性と付き合い、最終的に別れてきたのだが、その別れの理由がディスカスなのである。ディスカスという個体は、相当に繊細な生き物であり、水の管理(温度、ペーハー、含有物等)だけ考えても、時間を空けて手をかけるにはいかないわけである。そんなケッタイナ趣味を持つ男のもとから、結局女たちは去っていくのである。

 しかし、そんな表面的な事柄より、本書の含む宇宙的で哲学的な物語は奥が深い。ディスカスの飼い方しか書いていないのだが、読者はその向こうに計測不可能な宇宙や哲学を認めざるを得ないのである。

 例えば、文中、理解すればするほど理解できないものが増えてくるというフレーズが出てくる。数学、化学、物理学なんかにも言えるし、日常的な場面でも遭遇する一つの哲学である。主人公は、ディスカスのことが一つわかれば、また次のわからないということにぶつかってしまう。そこには計測可能な物事もあれば、経験則に拠らなければいけないこともある。いくら最新の魚群探知機を備えていても、最後は漁師の勘といえばわかりやすい例えだろうか。

 とにかく、読むべし、読むべし、べし、べし、べし!!!もしかしたら、未知の領域の知的好奇心に興味を覚えない人には、結局ディスカスの飼い方以上の本ではないかもしれないが。(20090505)

※こういう本を読んで、ディスカスを買いたくなる人は皆無じゃないだろう。評者の場合、本書の主人公のように全然凝り性ではないので、そんな面倒な道楽には手を出す気になれない。そういえば、嫁さんの亡くなったお義父さんが、蘭舎まで作ってランに一生懸命だったなあ。(書評No882)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-06 15:44 | 書評 | Trackback | Comments(0)
2009年 05月 05日

◎◎「運命の日」上下 デニス・ルヘイン 早川書房 各1890円 2008/8

b0037682_2127427.jpgb0037682_21272250.jpg 評者は、最近、数年前に起きたタイの津波のことを考える。あの時の映像を。ホームビデオか何かで撮った浜辺の映像。潮がどんどん引いていき、魚が跳びはねる。浜辺の人々は、引いていく潮に、魚がピチピチ跳ねることを面白がっている。その後、津波に呑まれてしまうことも想像しないまま。

 今、豚インフルエンザが日本から一番遠い地域を発信源として、全世界に広がりつつある。多くの人々は、対岸のことと思いながらも、それなりに心配しているが、それでもあのときの浜辺の映像に映る傍観者になってはいまいか。想像力に欠けてはいまいか。

 嫁さんに、「早めにマスクを揃えておいたほうがいいよ」と言うと「いくらくらいのマスク?」と返してきた。「二人の娘たちの命の値段を救う値段」と評者が言うと、怪訝な顔をしていたので、想像力の違いを悟った評者は自らネットで注文をかけた。医療用の少し高いやつだったが。

 いや、流行しなければ、それでいいのである。少し高いマスクも、次の流行までのストックだと思えば無駄にはなりはしないのだから。ただ、これが本格的な流行の様相を呈したときには、もう簡単にマスクが手に入らないかもしれない。そういう想像力が、今は必要なんじゃないかな。つい、先日ETCゲット争奪戦が映像に流れたように、人々が競っている姿は、あれもひとつのパニック映像なのである。ETCパニック。ETCなんて浮かれパニックなわけで、これがパンデミックな話になれば、相当のパニックが起きるであろう。命の話である。振り返ってみれば、オイルショックの際、人々はトイレットペーパーでパニックを起こしたのである。尻が汚くても死にはしないのに。

 なんて言う評者は、ちょっと想像力逞し過ぎ?いや、丁度本書『運命の日』を読んでいたわけで、時代がスペイン風邪が猛威を振るうボストンの1910年代後半、主人公警察官ダニーの奮戦も空しく、市中の人々が、同僚が、次々と犠牲になってしまう物語を読んでいると他人事ではなくなってくるのである。結果、罹患する人、しない人、神の悪戯によって分かれるわけで、自分も命を落としたくないのは勿論だが、家族を失いたくないのである。神の悪戯の結果は予想できなくても、物理的に科学的に少しでも家族のリスクを取れれば取り去りたいのである。以上、想像力の話は終わり。

 ところで、本書はこのミスランクイン作品だが、決してミステリーではない。また、作者が得意とする、ハードボイルドを前面に押し出したジャンルの作品でもない。ジャンルは・・・小説である。例えば、日本の作家でいえば伊集院静とか、宮本輝とか、小説家が小説を書こうと思って書いた、そんな小説である。コグリン家という警察一家を中心に、時代を描いた時代小説ともいえる。スペイン風邪、警察のストライキ、共産狩り、禁酒法、膚の色、そんな時代の風景を見事に収めきった佳作なのである。

 よく、本書の紹介にベイブ・ルースの話が挿入されていることに言及されているが、それもまた背景なのである。主人公たちの生き方にニアミスするルースの挿話なのだが、この挿話がなくとも、本書は見事な小説なのだが、隠し味として全体を引き立てているのである。市販のカレーにブイヨンや粉コーヒーを入れるような隠し味なのである。コーヒーは知らなかった?

 そして、本書の一番の魅力は・・・心底、嫌な奴が2名登場することじゃないだろうか。黒人を人間とは思っていない警官が一人と、末端の警官のことを全く理解しない警察組織の本部長と合わせて二人。いやあ、読んでいて、嫌で嫌で仕方なかった評者なのである。でも、この二つの障碍が物語全体のリーダビリティを支えているのである。ルヘイン、天晴れである。

 未読の方には、同じ作者の『ミスティック・リバー』より断然格上だとお伝えしておこう。(20090504)

※例のシリーズはもう書かないのかなあ。パトリックとアンジーの。(書評No881)

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-05 21:27 | 書評 | Trackback | Comments(0)
2009年 05月 05日

デニス・レヘインのことども


◎◎ 『スコッチに涙を託して』
  ◎ 『闇よ、我が手を取りたまえ』
◎◎ 『穢れしものに祝福を』
  〇 『愛しき者はすべて去りゆく』

  ◎ 『雨に祈りを』
  〇 『ミスティック・リバー』
  ◎ 『シャッター・アイランド』
◎◎ 『運命の日』

書評一覧
↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
[PR]

by kotodomo | 2009-05-05 18:59 | メモる | Trackback | Comments(0)
2009年 05月 05日

図書館から借りてきた本のことども

b0037682_1258368.jpgGW 皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

聖月様は当然図書館へ071.gif

まずは、鹿児島県立図書館から
『カメレオン』 ウィリアム・ディール なんと1984年・・・25年前の作品 北上次郎の昔の書評が気になったので
『聖者は唇を閉ざす』 リチャード・プライス ダカーポ「今年最高の本」で吉野仁お勧めなので
『魔堂三兄弟の聖職』 真藤順丈 昨年の三賞総なめ・・・『地図男』とかさ、ということで
『煙霞』 黒川博行 まあ黒川ブランド新作ということで
『錏娥哢奼』 花村萬月 アガルタと読めなかったので

続いて鹿児島市立図書館より
『テンペスト』上下 池上永一 『シャングリ・ラ』が駄目だった(途中で放棄した)ので、再挑戦的ということで
『窓の魚』 西加奈子 嫌いな作家じゃないので
『ドリーム・ガール』 ロバート・B・パーカー 有名な作家なのに読んだことないので
『ラジ&ピース』 絲山秋子 おおよそコンプリを目指している作家なので
『『吾輩は猫である』殺人事件』 奥泉光 前から面白そうな気がしていたので

ということで、何から読み始めようかと迷いながら、子供部屋に侵入・・・
おお!嫁さんの嫁入り道具の文学全集の中にあった!あった!

ということでポプラ社から昭和46年発行の上下巻各500円(当時は消費税もなかったぜ)
『吾輩は猫である』夏目漱石から読もう(^O^)/

実は、小学校のとき、いったん読み始め、途中で放棄した名作。
47歳の誕生日を2日後に控えた年齢で読むわけであるのことども。 
[PR]

by kotodomo | 2009-05-05 12:59 | メモる | Trackback | Comments(0)