2009年 01月 08日
ネット書評を始めて8年以上経つが、こんなに完璧なミステリー、好奇心を満たしてくれる作品は初めてである。要するに、8年間読んだ本の中で、ミステリー+好奇心という切り口でいえば№1の本である。 副題が「神田紅梅梅亭寄席物帳」、いわゆる落語ミステリーである。このミス2009年版のランクイン作品の、続編『芝浜謎噺』が気になったので、とりあえずはシリーズ第一作を手に取った次第なのである。過去に読んだ落語ミステリーに田中啓文の『笑酔亭梅寿謎解噺』があり、その作品も評価◎◎で面白く読んだものだったが、あちらは落語が舞台のミステリーという感じ。本書『道具屋殺人事件』のほうは、落語が舞台というより、ミステリーを通して落語の世界を描いた小説といったほうがいいだろう。 要するに簡単にいうと、落語の面白さ、奥深さが読むほどにわかってきて、読後、落語を趣味にしたくなってくるのである。単純な読者だなあ、聖月様は、なんて思われるかも知れないが、それだけ作者の描き方が見事でそつがないのである。本書を楽しめた人は、みんな落語を聴きたくなるはずである。 評者の場合、落語は全然得意ではない。最近では、たっまぁ~に飛行機の中で機内放送の落語を聴くくらいのもんである。なんかの拍子に、たっまぁ~に(10年に一席くらい?)テレビの落語を観るくらいである。そして思うのである。「時そば」なんて誰もが知っている演目を多くの落語家がやるわけで、何度も聴いている人がいるわけで、その面白さ、奥深さはどこにあるんだろうと。 そういうのが、本書を読んでいると段々と理解できてくるのである。それが楽しいのである。オチ(もしくはサゲ)の部分にも種類があること。噺家によって、途中途中に変化があること。誰がやっても受ける噺もあれば、最初から最後まで暗い噺があって、じゃあ前者ばかり扱っていれば“あの人の噺、面白い”ってことでいいんじゃないかと思うけど、盛り上がりに欠ける噺をいかに扱えるかで技量の差が出ること。だから、そういうことを考えると、多分「時そば」なんかをテレビで演じるような人はある意味若手であろうし、飛行機の中で放送するような噺は、多分大衆に受けるような演目が選ばれているんだろうなんて自己理解が生まれてくるわけである。もう少し、落語に詳しくなりたいなという好奇心が生まれてくるのである。 ミステリーとしても、ワンパターンの設定ながら完璧。3つの短編、要するに3つの事件が収められており、そのすべてが亮子という女性の視点で綴られる。亮子の夫福の助は落語家であり、ある意味、本シリーズの中心人物となっている。そして毎回、彼の演目への精進が物語の中心となってくる。福の助は、その噺のまとめ方に悩み、また日常のことで迷いがあると、元師匠の馬春のもとへ相談に出向く。そして、ホームズ馬春がヒントを出し(馬春自体は、病に倒れてしまったため隠居している。また、言葉が不自由なため、基本的にはボードに単語を並べてヒントを出すという趣向)、福の助が解決に至るという基本展開になっている。 とにかく、落語好きもそうでない人も、ミステリー好きもそうでない人も、読むべし、読むべし、べし、べし、べしっ!いやあ、面白かった。(20090106) ※ということで、評者の老後の楽しみ嗜みは、落語に決定!!!(書評No852) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2009-01-08 08:53
| 書評
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Comments(2)
Tracked
from COCO2のバスタイム読書
at 2009-10-22 23:31
こんにちは。いつも参考にさせて頂いてます。
おお、このシリーズは気になりますねー。私は最近、ミーハーに立川談春さんを聴き始め、文楽なんかもかじってるんです。「ああ、これが今のエンタテインメントにつながっているんだなあ」、と思ったりするんですよ。読まなくっちゃ。
0
COCO2さん こんにちは(^.^)
いやあ、このシリーズめっちゃ面白いです。 友人に落語好きがいまして、今度CDを借りる予定でいます。 楽しみなのです。 でも、本書などを読んでいると、扇子や手ぬぐいの使い方も画像で見たい気がします。 このシリーズは是非、是非(^.^) |
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