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「本のことども」by聖月

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2009年 02月 04日

◎◎「草祭」 恒川光太郎 新潮社 1575円 2008/11

◎◎「草祭」 恒川光太郎 新潮社 1575円 2008/11_b0037682_11575731.jpg 短編集の場合、それぞれの短編に題名がついているわけだが、そのどれかが本そのものの題名になっている場合が多いわけで、例えば評者が今読んでいる短編集『傍聞き』の中にも「傍聞き」という題名の作品が収められている。いわゆる表題作というやつである。

 実は評者、その表題作が収められていない(逆にいうと収められた短編から本の題名をとっていない)短編集のほうが、単に個人的な好みの問題として好きなのである。例えば藤田宜永の『理由はいらない』に収められているのは、「憧れた理由」「踊らない理由」「選ばれた理由」とか「~な理由」という題名の短編たちが収められていて、そいでもって本の題名が『理由はいらない』なわけで、おしゃれだなあ、いいなあ、と嬉しくなってしまうわけである。

 本書『草祭』も、そういう意味で好きである。「けものはら」「屋根猩猩」「くさのゆめがたり」「天化の宿」「朝の朧町」という短編たちが収められているのだが、本の題名は『草祭』・・・う~む、いいのだなあ、雰囲気的に。

 実は、この短編たち、架空の田舎町美奥というところをモチーフにして描かれていて、そういう意味では『美奥物語』なんて直訳的な題名をつけても違和感がないとは思うのだが、それが『草祭』・・・う~む、たまらんなあ。“草祭”というものが何を意味しているのかもよくわからないし、それぞれの短編が全然“草祭”を連想させるような話ではないのに、読み終えてみると『草祭』を読んだ!という気分にさせてくれるのは、やはり恒ちゃん、只者ではないのことども。

 それぞれの短編は、いつもの恒川ワールド。どこか隣に存在しそうなパラレル空間と日常、そういったものを組み合わせた不思議な物語たちなのである。こういう作品に直木賞や本屋大賞やランキング1位を飾ってもらって、多くの人に読んで欲しいなあと思うのは、多分評者だけじゃないんじゃないかな。そういう良書なのです。(20090125)

※この作家の描く不思議な世界って、ちょっとノスタルジックだなあ。(書評No856)

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by kotodomo | 2009-02-04 07:59 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from 粋な提案 at 2009-02-05 03:46
タイトル : 草祭 恒川光太郎
装画は影山徹。新潮社装幀室。初出「小説新潮」。架空の地域「美奥」での連作短編集。 今回も情景の描写が圧倒的です。独自の幻想的な世界が紡ぎ出されています。 現実と隣り合わせの異界に触れ、不思議な現象ぎ..... more


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