2004年 11月 21日
えっ?何の写真?と疑問に思われると悪いので、最初で明かしておくと、掲載した写真は“トルコ日食”の写真である。じゃあ、なんで“トルコ日食”の写真?とまたまた疑問に思うわけで、それは月と太陽の写真を載せたかったからに他ならない。じゃあ、なぜ月と太陽の写真?・・・まあ、黙って以下読んでくださいませ。 評者の上の娘が4歳くらいの頃だっただろうか。車に乗っていたとき、運転する評者の後ろで娘が嫁さんにこんなことを言ったのである。「ねえ、ママ。ナウシカって鹿の子じゃないかなあ?」あの映画“風の谷のナウシカ”の女性主人公の名前であることは言うまでもない。しかし、普段から、この子は中々頭のいい子であると親ばかっていた評者と嫁さんは、同時にこう考えたのである。なにこの子はお馬鹿な発言をするんだろうと。嫁さんが答える。「何言ってんの。ナウシカは人間の子供でしょう」上の娘「ううん。そうじゃなくって、ほら私は月の子でしょう。だから、ナウシカの親も、ナウシカに鹿の子っていう意味で名前をつけたんじゃないかなって♪」 今度は下の娘が5歳くらいの頃のお話。テレビかなにかに出てきた可愛い主人公の名前が、みゆき。下の娘に「お前の名前もみゆきにすりゃあ良かったかな。かわゆいし」というと、凄く悲しそうな顔をする。「ん?いやなの?」と訊くと、下の娘「絶対いや。だって私、明るい子になりたいもん。明るい子でいたいもん。太陽の子がいいもん」 上の娘の名前は“みづき”である。聖なる月のようにという意味をこめての名付けである。ゴッドファーザーはパパ評者である。ただし、漢字で聖月と書くと読んでもらえないというトラブルに頻繁に遭遇する境遇を作り出してしまうので、平仮名で“みづき”である。下の娘の名前は“みなみ”である。漢字で書くと南であり、勿論南から照らす太陽のようにの意味をこめての名付けである。ゴッドファーザーはパパ評者である。上の娘が平仮名の名前なので、バランスよく同じく平仮名で“みなみ”である。 二人とも、自分の名前の由来は嫁さんから何度も聞かされたようで、よくわかっているし、気に入っている。ゴッドファーザーパパ評者は、何ゆえに名前の由来まで考えて名付けたかというと、小学校のときに自分の名前の由来を調べてきなさい、という、今では人権侵害的な宿題で、へーっと思ったことがあったからなのである。評者の名前は“祐介”。最初の文字は、昔のお侍さんなんかでは“~之祐(のすけ)”なんて使われてもいたわけで、だから最初の文字も、後ろの文字も同じ発音を持ち、意味も似ている。後ろの文字“介”は介護、介助、介抱と使われ方を見れば意味がよくわかるわけで、人を助けるという意味がある。最初の文字“祐”も“介”と一緒で助けるという意味合いなのだが、こちらは人に助けられるという意味を含んだ漢字なのである。だから“祐介”の名前の由来は、“人に助けられ、人を助ける、そんな人生を送る人になりなさい”という思いが由来となっているのである。そういうことで、二人の娘たちが自分の名前の由来を考えたときに、ちゃんと答えが用意されているように名付けたゴッドファーザーパパ評者なのである。 評者が二人目を名付けたときに、嫁さんの父=義父が、思わずこう言ったのも記憶にずっと残っている。“いやあ、祐介君が孫娘二人に、母親である娘の名前を追従するような名前を付けてくれてよかった。自分の付けた娘の名前が、孫娘にまで継がれている感じがして嬉しいんだよ”と。嫁さんの名前は“みずほ”である。勿論、実り豊かな日本国の意味の“豊葦原の瑞穂の国”から由来命名された名前である。柔らかい感じにしたいという義父の願いもこめて、こちらも平仮名で“みずほ”である。だから、義父は“みずほ”の娘に命名権はなかったのに、なにか自分でも付けそうな“みづき”“みなみ”になって、大いに嬉しかったようなのである。 本書『その名にちなんで』の原題は『NAMESAKE』。“他人の名前をもらった人”の意味である。インドのベンガル出身の父親は、自分の息子にロシアの作家“ニコライ・ゴーゴリ”から名前を頂戴して“ゴーゴリ”と名付ける。そう主人公のゴーゴリは、“NAMESAKE=他人の名前をもらった人”なのである。父親と母親は、インドからアメリカに移り住み、その地で息子ゴーゴリを授かる。インド名でもなく、アメリカ名でもなく、奇妙なロシア名を戴いたゴーゴリは成長するに従って、自分の名前を疎ましく思ってしまう。そういう主人公を中心に据えた話なのだが、実際には父と母の話から始まるこの物語は、親子二代のミニサーガ(大河物語)ともいえる連綿とした文学小説なのである。文章は秀逸。訳文も秀逸。一行一行に、変化と重みがあり、かと言って読みやすく読者を飽きさせない。そういう重厚な、名前の物語であると同時に、アメリカ社会のインド出身民族の生活物語なのである。今年の翻訳純文学物の押さえ本である。読むべし、読むべし、なのである。そして、自分の名前の由来や、親の思いに心を馳せるべしなのである。 評者の家の二人の娘。天体から名前を貰った、月の子と、太陽の子。写真は、月が太陽の光を遮るような瞬間だが、裏を返せば月と太陽が仲良く並んで、月の裏側には太陽光線がイッパイイッパイの写真でもある。そしてこんな考え方も昔からある。月は太陽がないと美しく輝かないと。そう、パパ評者としては、なんだかんだお互いを補完しながら成長していってほしい二人の娘たちなのである。以上、再々のご清聴ありがとうございました。(20041120) ※こりゃあピュリツァー賞を受賞したデビュー短編集『停電の夜に』も、読まないといけんなあ(書評No434) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2004-11-21 01:15
| 書評
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Comments(8)
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from f丸の生態・デイリー
at 2004-11-21 02:17
タイトル : 「その名にちなんで」だってさ
「その名にちなんで」を読了しました。翻訳小説ってミステリーか子供向けばかりというイメージが強くて、自分が好きなタイプの「恋愛なんだかミステリなんだかそれとも社会派なのかよく分からないけど、とりあえずごたごたしていて爽やかな小説」みたいなジャンル(どんなのだ?具体的に言うと、本多孝好や伊坂幸太郎みたいな恋愛小説にもミステリにもどちらでもとれるようなもの)っぽいのがあまりないなぁと不満でしたので、渡りに船とばかりに読んでみました。 しかし、昔、この作者の「停電の前に」や他の作家ですが「朗読者」あたりがい...... more
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from 日々のちょろいも
at 2004-12-20 09:29
タイトル : 『その名にちなんで』読了。
ジュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』の感想をアップ。いやー噂通りの名著でしたわ…。なんというか、美しい。 実はその後、角田光代『対岸の彼女』も読了したのだけれど、ちょっとこちらは琴線に触れまくりで、動揺しまくり(苦笑)。まだ落ち着いて感想が書けないの... more
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from +ChiekoaLibr..
at 2005-06-09 11:06
タイトル : [ジュンパ・ラヒリ] その名にちなんで
ISBN:4105900404:detail インドからアメリカに移り住んだ夫婦。生まれた子供に彼らがつけた名前は「ゴーゴリ」。父にとって運命的な意味を持つ本の作者にちなんで、思いをこめてつけられたその名前ですが、成長するにしたがって彼は、その名について思い悩むようになり…。 静かに淡々と語られる、壮大な、でも普遍的な、家族の物語です。物語の語り部が、夫婦からその子供たちに受け継がれていく。その語り口はずっと現在形で、長い長い短編を読んでいるような気分になりました。あまりにも長い時間の流れる物語で...... more
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from Ciel Bleu
at 2005-08-24 17:32
タイトル : 「停電の夜に」「その名にちなんで」ジュンパ・ラヒリ
[amazon] [bk1] [amazon] [bk1] 「停電の夜に」は下でも書いた通り読了済だったんですけど、続けて「その名にちなんで」も読んだので一...... more
こんばんは~TBさせていただきました。
あら?↓は娘さんですよね?ふむふむ、確かにピアノ弾いてそうです! あと、三井のりハウスで転校してきそうとかとも・・・
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f丸さん おはようございます。
あれ、何の写真か説明せずにのっけちゃいましたけど、バレちゃいましたか(笑) うんうん、三井のリハウス。言いえて妙(って親ばか)。この清楚で高貴な感じはやはり父親似かと、ははは。 『その名にちなんで』TB先捜していたとこでした。意外に読んでいない方が多いもので。っていうか、翻訳物になると数が少ないですね。
そうですね。以前ブログでも記事に(確か)したのですが、翻訳本って、やや幼児向けのファンタジーか、犯人探しのサスペンスがほとんどという印象がやはり否めないのですが・・・両方、あまり好きじゃないのです。アレックスシアラーとかパトルシアコールウェンとか。
それで、そうじゃないのを探すと、朗読者や白い犬とワルツをみたいに全員ががばっと飛びついてしまうか、2段組上下巻の超大作になってしまうか。というアンバランスで極端なので、いやです。 だいたい、読んでいないのですが、キングの「it」のあの内容であの長さなんてありえないでしょう。
『ボトムズ』『ダークライン』あたりのランズデールなんかいいですよ。
ミステリーでもあり、文学でもあり。 あと、誰も読んだ方気付いたことないのですが、もし図書館派なら『青い湖水に黄色い筏』マイケル・ドリスhttp://jaddo.com/book/back10.htm#1なんかも良かった。今回の『その名にちなんで』と相通ずる作品かと。女性3代もので、孫娘→母親→祖母と、3代記が遡っていくのが趣向ですね。 米村圭伍、よかったようで。冷飯、退屈姫といきましょう。
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でこぽん
at 2004-11-22 00:50
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『4TEEN』の書評内の聖月様の講師の話。目に浮かぶようです。
そうそう。「なおして!」っていう言葉はなかなか直らないですよね。 で、この下のランズデールの『ダークライン』ですが、◎◎となっていましたね。 ほんと、良き時代のまるで映画のワンシーンを切り取ったような素敵な物語でしたね。 この中で触れているパタースンの『サイレント・ゲーム』もやはり良いのでしょうか。 法廷劇のようで面白そうですが。 お嬢様のお名前は素敵ですね。 月の子でしたか。月の子と言えば、清水玲子の『月の子』(全13巻)という素敵な漫画があります。清水玲子の漫画は本当に綺麗なので、お嬢様はこのイメージにぴったりですね。 是非お嬢様にお薦めください。
「なおす」=「しまう」は、関西から向こうしか通じないですね。鹿児島の人間も九州全域で通じるので、つい標準語かと思っちゃう言葉なんですよ。
彼らも・・・もう35歳超。私20歳くらいで、彼らは中三以下でしたからね。凄くオジン、オバンになったんだろうなあって(^.^) R・N・パタースン、堅い面白さがありますね。横綱級なのですが、遊びの面白さに欠けるような。法廷物ではD・W・バッファの『弁護』がリーガルマインドに溢れて印象が深いですね。本当は時間があればその後のシリーズを読んでいきたいところなのですが。 はい、素敵な名前なので父親がHNにしてしまいました。“みづき!”と他人に呼ばれると、親子で反応します(笑)
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rin
at 2005-10-14 14:58
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