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「本のことども」by聖月

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2005年 01月 07日

〇「象と耳鳴り」 恩田陸 祥伝社 1785円 1999/10

〇「象と耳鳴り」 恩田陸 祥伝社 1785円 1999/10_b0037682_11362338.jpg 多分本書『象と耳鳴り』は、一般的に言って多くの人に好まれる佳作短編集だとは思うのだが、評者のような天邪鬼な読者にはどうも素直に読めないひっかかりが残ってしまう。本書は所謂日常の謎を扱った作品であり、もう少し突っ込んで言えば安楽椅子探偵に近いものがある。で、ミステリーを読み始めた最初の頃は、日常の謎とか安楽椅子探偵とか面白そう(^.^)と読む前から結構期待していたものなのだが、実際読んでみるとその評価は過去においても評者の個人的傾向としてはあまり高くない。〇『僕のミステリな日常』若竹七海然り、〇『十八の夏』及び〇『時計を忘れて森へ行こう』の光原百合然り、〇『真相』横山秀夫然りで、例えば◎◎『影踏み鬼』翔田寛◎◎『螺旋階段のアリス』加納朋子のように評価の高かった作品もなくはないのだが、これとて作家読みしているわけではないので次作の〇『消えた山高帽子』翔田寛〇『虹の家のアリス』加納朋子などは、やはり評価が低くなってしまっているのである。(ちなみに『螺旋階段のアリス』加納朋子は評者の超お薦め読むべし本として永遠不滅であるので、本日のカバー写真はこれ)(^.^)

 じゃあ、何ゆえに評価が下がってしまうのかというと、結局のところ“あっ、そう”と納得のいかないこじつけみたいな謎の真相にかったるくなってしまうからなのである。大抵の場合、この種の作品では殺人は起こらないし、起こってもトリックなどが中心肝要ではない。日常の風景の中にありそうな些細な謎の真相が肝心要なのである。でもなあ、そういうのって作者のひとりよがりな部分が多いのだなあ。あの名作といわれる『空飛ぶ馬』北村薫だって、同様の感じで途中で読むのをやめた評者なのである。もう少し詳しく言うと、動機や行動に蓋然性、必然性が感じられないからなのである。

 例えば本書に収められている「給水塔」の中で、主人公に給水塔にまつわる話をする男がいるのだが、なぜこの男がそんな話をするのかわからないし、表題作「象と耳鳴り」では、象になんらかのトラウマを持つ女性が登場するのだが、そのトラウマゆえにある行動をとってしまう女性の心中の必然性が、いくら本を振っても逆さにしてもこぼれてこないし、一番最後の「魔術師」では高層窓の外に浮かぶ赤い犬の正体にそんなのないよと思うのもそうだけど、その犬が“もういいかい”と言葉を喋る理由は結局明かされずに不親切この上ないし、もっと大きなことで言えば、短編全体で解き明かされる謎のほとんどが、主人公がただそう思っただけの話で、それが真実かどうかは置いてきぼりなのである。

 評者の家の冷蔵庫。家族が全員使う冷蔵庫。みんながドアを開ける冷蔵庫。そのドアを開ける度に、なにゆえにこの物体はここに置かれているのだろうという配置に気付く。扉の奧側におかずに手前に置けばいいのに、そうしたら子供たちもとりやすいのにと。で謎に気付く評者。なんだ、我が家の冷蔵庫って両開きじゃん。子供たちって反対から開ける癖がついているから、手前になってとりやすいんじゃん。なんだそんなことか。って評者が納得して謎はおしまい、パチパチパチ。結局、本当はそこに置くことに対して子供たちにはまた別の意味があったかもしれない考察は置いてきぼりなのである。

 まあ、ここまで天邪鬼な読者は多分珍しいわけで、多くの人に簡単に語るなら、本書『象と耳鳴り』は、中々気の利いた話の詰まった連作短編集なのですよと言っておきたい。それも話を聞いただけで真相を解き明かすような安楽椅子探偵な作品集なのだと。加えて、夜な夜な一編ずつ読めば、普段読書をしないという方にも飽きのこないお薦めの読み方かと。まあ、評者は一気に読んで少し飽き飽きしたのだが。(20050106)

※文庫は2003/2出版で590円。評者が読んだ本は、多分2000年あたりに古書店500円で買ってずっと積んであった本。4年くらい積んでいたが、文庫本より安くで買っていたので良いのである(^.^)(書評No457)

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by kotodomo | 2005-01-07 11:36 | 書評 | Trackback(3) | Comments(0)
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