2005年 01月 23日
万人向け抱腹絶倒阿部ちゃん本である。いや、万人向けじゃないな。町田康や舞城王太郎が好きくないという読者諸兄には、やっぱ好きくないかも。本書には表題作「公爵夫人邸の午後のパーティー」と「ヴェロニカ・ハートの幻影」という2作の中編が収められているが、そのどちらも評者的には◎◎だったので極上の阿部ちゃん本だと思うのだが、amazonでの評価を見ると5つ☆中、2つ☆だったので、やっぱ万人向けではないかもね。 「公爵夫人邸の午後のパーティー」では、小人閑居して不善を成しそうなうら若き23歳、6歳と4歳の娘の母であるところの楠木夫人が、得体のしれない仮装パーティーに美少女戦士セーラームーンの衣装で臨む話と、ミニスカ女子高生ジュンコが見知らぬオヤジに誘われて援交だか冒険だかするお話と、ふたつの話が織り成すタペストリー!って、ホントカ?自分!・・・そんな話なのである。 多分、伊坂幸太郎の◎◎『ラッシュライフ』を、町田康と舞城王太郎が合作で“ここはこうしようか♪”なんて勝手気ままに作ったら、こんなんなっちゃいましたあ!ってなテイストである。読むべし。 「ヴェロニカ・ハートの幻影」は、これはもう評者大好き。メッチャ好き。高熱を出して寝込むキズだらけの男の部屋に、ルームメイトに頼まれた猫探しが面倒で、それよっか看病のほうがいくらかまし、と現れた女友達との会話が主体の物語。この二人の会話と、キズだらけの男が語る昔話がイカシテいるのである。ある古傷の話をする男。なんでも少年時代に、ひどく獰猛な大人に追いかけられてついた傷だという。なんで、その大人がそこまで獰猛になったかっていうと・・・。そんなことガキにされたら、羊のような評者でも怒るよ。いや、猫でも、犬でも、そんなことされりゃ怒るよ、って・・・ああ、そうそう、冒頭で抱腹絶倒と書いたが「公爵夫人邸の午後のパーティー」もおかしいけど、こちらが文字通りの抱腹絶倒悶絶物語である。読むべし。読みながら、町田康の「人生の聖」(『きれぎれ』のB面?)や『くっすん大黒』を思い出した評者なのである。(20050123) ※既に文庫化されている『ABC戦争plus2stories』2002/6発行500円に、2作品とも収録されている。実は評者も『ABC戦争plus2stories』で、本作を読んだのだが、一応単行本派の方に不親切かと思い、書評を別々に書いた次第である。(書評No464) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-01-23 10:18
| 書評
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Comments(0)
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from 読んだモノの感想をわりと..
at 2005-03-14 22:00
タイトル : ABC戦争 - plus 2 stories (阿部和重)
初期の作品集ということで、『ABC戦争』『公爵夫人邸の午後のパーティー』『ヴェロニカ・ハートの幻影』の3篇が収録されています。単行本としては別個に出版されていたようです。 この作家の作品集を読むのは別掲の『無情の世界』に続いて2編目です。エンターテイメントとしては『無情の世界』がずっと洗練されていますが、この作家のスタンスが如実に現れているのはこちらの作品集です。全体としては面白いというよりも刺激的でした。 小説を書くことはミュージシャンの即興演奏とは根本的に異なるはずですが、想像とか...... more
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from 三匹の迷える羊たち
at 2005-09-15 00:29
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from slow match
at 2007-05-12 15:04
タイトル : ABC戦争 plus 2 stories
ABC戦争 plus 2 stories 阿部和重著 plus 2 storiesというくらいなので、単行本の『ABC戦争』と『公爵夫人邸の午後のパーティー 』に収録されている2作をひとつにした、3作からなる著者の初期短編集。 2冊の単行本より、... more |
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