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2005年 02月 10日
前作◎『残虐記』をそこまで面白いと感じなかったのは、多分にノンフィクションに近い作品に思え、そこに作者の想像力が織り込まれているのは間違いないのだろうが、その境界が見えず、作者の創造であるところの小説というものを読んだ気がしなかったことにあるのかと思う。そういう意味で、本書『アイム ソーリー、ママ』を読んでの感想を一言でいうならば、小説を読まさせていただきました桐野様という言葉につきる。どこからどうやって紡ぎだされるのか、そういう作り話を連綿と語る才能が注ぎ込まれた文章が、これ小説なりと、評者は常日頃思っているのである。代表的なところでいえば、◎◎『白夜行』東野圭吾(←しょっちゅう色んなところで引き合いに出しているが)あたりがそうだろう。中心になる大きな話はさておき、その周囲に張り巡らされた、作者の創造力もしくは想像力が生み出す数々の作り話(エピソードや設定)が、よくもこれだけ捻り出せるものだと感心するくらいに散りばめられているのだから。実は、話を作るというのは難しいのである。嘘をつくのも話を作ることと同じで、誰でもできますよと思うかもしれないがそうではない。嘘というのも、現実があって初めてそれを歪曲する形で生まれるもので、無から話を捻り出しているわけではないのである(たまには、いや評者は実は留学の経験があってそのとき気に入られた金髪有閑マダムに馬を買ってもらい、その馬でカレッジに通ったものだ、などと、どっから何のためにというような、評者がキャバクラあたりで時間潰しに作り出すような創造的な嘘もあるが(笑)。たまに、評者のエッセイ風味バージョンのときの書評を読んで、いや本を読まなくても書評自体が読み物みたいで楽しいという好評をいただくこともあり、そこに書かれていること自体も実は虚々実々なのであるが、だからといって話を紡ぎだしているわけでもなく、90%の事実に、デフォルメだとかオフザケだとかを付け加えた程度で、何も新たなものを生み出してはいないのである。 そういう意味で、作者の創造力及び想像力が盛り込まれた本書は、本当の意味で小説なのである。何の予備知識も持たずに読み始めた評者は、第一章で主人公が誰であるかを勘違いしてしまい、章の終わりでアアッ!と思う。第二章で出てきた女装趣味の人物や刑事たちが後々どういう意味を持ってくるのかと思いながら先を読み進み、それっきり出てこないことに気付く。つまりその章だけのために、作者の頭脳から話が生み出されているのである。中盤、ある組織にうまく潜り込んだかに見えた女が、その後どんな悪さをするのかと思いきや、実はさっさと追い出されるはめになったり、とにかく人の作った話なので、これこそ小説なわけで、紙芝居を初めて見た洟垂れ小僧のように、ただ次の展開に引き込まれていくだけなのである。 多分、表紙カバーの帯の惹句を読んでも、何が生み出されていくのか読者は想像がつかないわけで、母親に虐げられ続けた幼い女の子の悲惨な境遇のお話に違いないと思った評者が裏切られたのと同様、予備知識のないかたは知識を入れずに読み出せば、嬉しい裏切りがそこには待っているだろう。ただし、相変わらず桐野作品、爽やかさとは反対の方向のベクトル作品(←不気味とか陳腐な言い方をしたくなかったので)を書き続けているので、雰囲気を嫌う読者も少なくはないだろう。268ページ、あっという間に読了でした(^.^)(20050210) ※◎◎『グロテスク』より、このミス向きの作品かな?(書評No474) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-02-10 23:32
| 書評
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Trackback(12)
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Comments(4)
ふ~む。面白かったのかな?凄いペーソスなんで読解力ないからわからない。
大人のメルヘンを目指す小説を書いています。気が向いたら覗いて下さい。 題名「源じいさんが愛した女」 http://freenovel.exblog.jp/
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読解力ない方にも、ちゃ~んと評価記号つけてますから(^.^)
いやね、多くの書評のように、出だしの内容から書いちゃうと、なんか体を表していないような気がしてですね。
まあ、粗筋を書かないのは相変わらずですが。 一番いい方法で。粗筋は書かないから読め!って言い放つのが(笑)。 さて次何読みましょ?候補作8冊。どうせ眠っちゃうから・・・あれかなあ? |
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