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「本のことども」by聖月

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2005年 02月 10日

◎◎「アイム ソーリー、ママ」 桐野夏生 集英社 1470円 2004/11

◎◎「アイム ソーリー、ママ」 桐野夏生 集英社 1470円 2004/11_b0037682_23335150.jpg 前作◎『残虐記』をそこまで面白いと感じなかったのは、多分にノンフィクションに近い作品に思え、そこに作者の想像力が織り込まれているのは間違いないのだろうが、その境界が見えず、作者の創造であるところの小説というものを読んだ気がしなかったことにあるのかと思う。そういう意味で、本書『アイム ソーリー、ママ』を読んでの感想を一言でいうならば、小説を読まさせていただきました桐野様という言葉につきる。どこからどうやって紡ぎだされるのか、そういう作り話を連綿と語る才能が注ぎ込まれた文章が、これ小説なりと、評者は常日頃思っているのである。代表的なところでいえば、◎◎『白夜行』東野圭吾(←しょっちゅう色んなところで引き合いに出しているが)あたりがそうだろう。中心になる大きな話はさておき、その周囲に張り巡らされた、作者の創造力もしくは想像力が生み出す数々の作り話(エピソードや設定)が、よくもこれだけ捻り出せるものだと感心するくらいに散りばめられているのだから。

 実は、話を作るというのは難しいのである。嘘をつくのも話を作ることと同じで、誰でもできますよと思うかもしれないがそうではない。嘘というのも、現実があって初めてそれを歪曲する形で生まれるもので、無から話を捻り出しているわけではないのである(たまには、いや評者は実は留学の経験があってそのとき気に入られた金髪有閑マダムに馬を買ってもらい、その馬でカレッジに通ったものだ、などと、どっから何のためにというような、評者がキャバクラあたりで時間潰しに作り出すような創造的な嘘もあるが(笑)。たまに、評者のエッセイ風味バージョンのときの書評を読んで、いや本を読まなくても書評自体が読み物みたいで楽しいという好評をいただくこともあり、そこに書かれていること自体も実は虚々実々なのであるが、だからといって話を紡ぎだしているわけでもなく、90%の事実に、デフォルメだとかオフザケだとかを付け加えた程度で、何も新たなものを生み出してはいないのである。

 そういう意味で、作者の創造力及び想像力が盛り込まれた本書は、本当の意味で小説なのである。何の予備知識も持たずに読み始めた評者は、第一章で主人公が誰であるかを勘違いしてしまい、章の終わりでアアッ!と思う。第二章で出てきた女装趣味の人物や刑事たちが後々どういう意味を持ってくるのかと思いながら先を読み進み、それっきり出てこないことに気付く。つまりその章だけのために、作者の頭脳から話が生み出されているのである。中盤、ある組織にうまく潜り込んだかに見えた女が、その後どんな悪さをするのかと思いきや、実はさっさと追い出されるはめになったり、とにかく人の作った話なので、これこそ小説なわけで、紙芝居を初めて見た洟垂れ小僧のように、ただ次の展開に引き込まれていくだけなのである。

 多分、表紙カバーの帯の惹句を読んでも、何が生み出されていくのか読者は想像がつかないわけで、母親に虐げられ続けた幼い女の子の悲惨な境遇のお話に違いないと思った評者が裏切られたのと同様、予備知識のないかたは知識を入れずに読み出せば、嬉しい裏切りがそこには待っているだろう。ただし、相変わらず桐野作品、爽やかさとは反対の方向のベクトル作品(←不気味とか陳腐な言い方をしたくなかったので)を書き続けているので、雰囲気を嫌う読者も少なくはないだろう。268ページ、あっという間に読了でした(^.^)(20050210)

◎◎『グロテスク』より、このミス向きの作品かな?(書評No474)

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by kotodomo | 2005-02-10 23:32 | 書評 | Trackback(12) | Comments(4)
Tracked from My Recommend.. at 2005-02-10 23:57
タイトル : 『アイムソーリー、ママ』 桐野夏生 集英社 (でこぽん)
アイムソーリー、ママ桐野夏生著出版社 集英社発売日 2004.11.26価格  ¥ 1,470(¥ 1,400)ISBN  4087747298bk1で詳しく見る 結婚二十周年の祝いで出かけた夜、門田夫婦はアイ子に放火されて殺された。夫婦は二十五歳違い。児童福祉施設で保育士をしていた妻美佐江は、夫の稔が十八歳になった日に一緒に住もうと言う。その三年後ふたりは結婚した。その時ふたりは四十七歳と二十一歳だった。... more
Tracked from Chocolat Books at 2005-02-11 01:10
タイトル : [読了本]
ISBN:4087747298:detail 人間の醜悪さをこれでもかこれでもかと見せ付けられるような小説。 主人公のアイ子は娼館に産み捨てられた子どもで娼婦達から足蹴にされて育ち、悪意だけを生きる糧にしてきた女。その人生はすさまじく、次から次へと悪事に手を染めていく。 とにかく出てくる人物がもうキモチワルイ人間ばっかり。児童福祉施設の保母時代に贔屓していた25歳年下の男の子と結婚した女、その25歳年下のオットは40代になった今も妻に対して赤ちゃんごっこをおねだりする。他人の家の中に拾った箸で家を作っ...... more
Tracked from 猫は読書の邪魔をする at 2005-02-23 13:14
タイトル : 桐野夏生 『アイムソーリー、ママ』
アイムソーリー、ママ 桐野 夏生 どうして桐野夏生はこんなにも醜い人間(特に女)ばかりを書くのだろう。 邪悪で汚らわしくて、意地悪でずるくて。 そして、いつも嫌な気持ちでいっぱいになりながらも、読むことを止められず最後まで引っ張られてしまう。 生まれ育った娼婦の置屋で姐さんたちに虐められ、そんな育ちから培ってしまった歪んだ性格のため、星の子学園という養護施設や養育家庭で疎まれ嫌われたアイ子。 読んでいて本当に嫌な女なのです。でもアイ子という女の行く末がものすごく気になるのも、ま...... more
Tracked from でこぽんの読書通信 at 2005-03-10 13:33
タイトル : 『アイムソーリー、ママ』 桐野夏生
アイムソーリー、ママ桐野夏生の作品はどれも痛いです。それは現実と虚構が紙一重のせいではないでしょうか。あまりにもリアリティが強すぎて、その衝撃度はものすごいものがあります。先に発売された『グロテスク』『残虐記』ときて、この『アイムソーリー、ママ』で、桐野さんは「...... more
Tracked from ゆうきの読書日記(Yu-.. at 2005-07-18 20:58
タイトル : アイムソーリー、ママ 桐野夏生
ISBN:4087747298:detail 相変わらず桐野さんはダークです。この本も、元児童福祉施設の先生と卒業生の夫婦が結婚20周年を祝ったその日に、施設時代の仲間だったアイ子に再会。その夜、理由も思いあたらないまま、彼女に殺される、という放火殺人から始まります。 この小説の主役・アイ子は、物心ついたときには娼館の押入れに寝起きしており、誰が面倒を見るでもなく、母親の形見だと教えられた汚い靴に、毎日話しかけてるような少女でした。娼館がつぶれたあと、自分で警察に助けを求め、その後は児童福祉施設...... more
Tracked from 本を読む女。改訂版 at 2005-07-19 09:36
タイトル : 「アイムソーリー、ママ」桐野夏生
アイムソーリー、ママposted with 簡単リンクくん at 2005. 7.19桐野 夏生 / 桐野 夏生著集英社 (2004.11)通常24時間以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 前、同じ作家の「グロテスク」を読んで熱を出した経験があるため、 この本を読む前には体調管理に気をつけた。冗談抜きだ。 で、仕事も落ち着いてるときに読んだ。これも冗談抜きだ。 結果的には「グロテスク」ほど体調は崩さなかったが、 まあ用心に越したことはない。次「柔らかい頬」を読むときに...... more
Tracked from 日々のちょろいも at 2005-07-20 12:24
タイトル : 『アイムソーリー、ママ』読了。
 ええと、今週の金曜日、定例チャットやりまーす! お久しぶりの定例チャット。TOPに告知を出しましたので、お時間のある方、興味のある方、どうぞお気軽にいらしてくださいねー(はぁと)。  もう最近は読んだ本が溜まって何から順番に手をつけていいやらよくわからな... more
Tracked from 月灯りの舞 at 2005-11-21 11:38
タイトル : 「I’m sorry,mama.」
「I’m sorry,mama.」  桐野 夏生:著 ? 集英社/2004.11.30/1400円 かつて女であった怪物たちへ、そして、 これから怪物になる女たちへ捧ぐ、 衝撃の問題作。   <帯より> 重く暗い話である。 救いがない。 「邪悪な女」を描くということだが、 だろうが... more
Tracked from デコ親父はいつも減量中 at 2006-10-14 01:16
タイトル : アイム・ソーリー・ママ<桐野夏生>−(本:2006年10..
集英社 (2004/11) ASIN: 4087747298 評価:77点 昔、児童福祉施設の保育士だった美佐江は、そこの子供だった稔と結婚した。 67歳の彼女が25歳年下の夫と結婚20周年に出かけた店は焼肉屋。 しょっぱなから最低の登場人物達が暴れまくる。 稔はできの悪い大工で、....... more
Tracked from *モナミ* at 2007-04-01 09:36
タイトル : 『アイムソーリー、ママ』 桐野夏生
なんともいたたまれない物語。 愛されずに育ったものは、 人を愛することができない。 というのは、本当なのだろうか。。。 と思うほどの、憎しみの連鎖。 また彼女の回りも、どいつもこいつも腹黒い、 揃いも揃って悪いヤツばかりなのだけど、 そういうのを引き寄せてしまうのか…。 憎しみと怒りのスパイラルを描きながら、 底へ底へと堕ちていく、まさに... more
Tracked from slow match at 2007-05-13 23:30
タイトル : I'm sorry,mama.
I'm sorry,mama. 桐野夏生著 全12章、物語をおっているうちにあっと言う間に読了。ものすごく読みやすい。 1章で、七十まじかの元保育士の老女と、その教え子で二十五歳年下の男が出てくる。二人は夫婦で、男が「母ちゃん... more
Tracked from こと葉のチョットいい感じ〜☆ at 2007-05-14 21:10
タイトル : アイムソーリー,ママ ―桐野夏生―
I’m sorry,mama. 【評価★★★★☆】 40代の女性、アイ子が主人公。 これ以上最悪な状況で生まれ育った人はいるのだろうか。 主人公は、人を殺すことにマイナス感情を持つどころか、プラスの感情を持っているよ... more
Commented by shou20031 at 2005-02-10 23:41
ふ~む。面白かったのかな?凄いペーソスなんで読解力ないからわからない。
大人のメルヘンを目指す小説を書いています。気が向いたら覗いて下さい。
題名「源じいさんが愛した女」
http://freenovel.exblog.jp/
Commented by 聖月 at 2005-02-10 23:47 x
読解力ない方にも、ちゃ~んと評価記号つけてますから(^.^)
Commented by でこぽん at 2005-02-10 23:54 x
すんばらしい書評でございました。
そう。そう。そう。
私の言いたかったこともそれなのよぉ~~~。(感涙)
これこそ小説なのでございます。
はい。エンターテイメントでございました。
謝謝!
Commented by 聖月 at 2005-02-10 23:58 x
いやね、多くの書評のように、出だしの内容から書いちゃうと、なんか体を表していないような気がしてですね。
まあ、粗筋を書かないのは相変わらずですが。
一番いい方法で。粗筋は書かないから読め!って言い放つのが(笑)。
さて次何読みましょ?候補作8冊。どうせ眠っちゃうから・・・あれかなあ?


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