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「本のことども」by聖月

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2005年 02月 11日

〇「瑠璃の契り」 北森鴻 文藝春秋 1550円 2005/1

〇「瑠璃の契り」 北森鴻 文藝春秋 1550円 2005/1_b0037682_14182414.jpg 評者の昔からの自慢に、姿勢がいいということがある。これは一緒に住んでいた婆ちゃんの教えに基づくもので、座って机に向かったときの背筋のピンと伸びた姿は、多分、威厳風格高貴漂う、色香や光彩さえ放つような眩しさがあるやもしれん。自分で見れないので、想像するだに。例えば、結婚当初、会社の同僚が家に遊びにきたことがあって、彼とはパチンコ仲間でもあったので、嫁さんに評者のことをこう誉めそやしたのを憶えている。“彼をパチンコ屋で見つけようと思ったらすぐですよ。みんな前屈みに打っている中で、椅子の垂直方向に頭が存在する姿勢のいいパチンカーを見つけるだけのことですから”と。どうやら、他に誉めそやすことを思いつかなかった、大バカ者の発言である。

 お蔭様で、小さいときから目は自慢である。視力のことである。多分、評者の視力は1.785ぐらいだったと思うのだが、視力検査で当たり前に見える1.5の判定ではなくて、少し背伸びした2.0の判定を貰うと嬉しかったものである。視力が2.0であることは、小学生の自慢してもいいことのベスト3の一つに入るからだ。あとの二つは知らんけど。そんなだったから“老眼入ってきていますねえ”と眼科医に34歳(今から8年前)のときに言われたときは、大ショックだったのである。“先生、私、どうすりゃいいんでしょう?もう、生きたいように好き勝手生きたほうがいいんでしょうか?”とウロタエル評者に“安寿と厨子王あいうえお・・・じゃなかった、案ずるなかれ、時期がきますよ。少しずつ衰えてきて、いつか何かしなきゃと思うときがくるまで待ちなさい。”と、呪いをかけられたのを覚えている。その呪いが、今、現実のものとなっている。見えていたはずの看板の文字や、駅の待ち合いの文字が、目に見えて(いや、目に見えなくて?)衰えてきているのを実感しているのである。運転とか普段の生活では支障はないのだが、注視したときの判別が難しくなってきていて、そろそろ何かしなきゃ、山椒魚食ったろかい?いや、やっぱ、眼鏡じゃ、老眼鏡じゃ、ケント・デリカットみたいな感じになっちゃうよ~(ToT)と、思っちゃったりしている。平成14年の免許更新のときは全然不安のなかった視力だけど、平成19年の更新までは絶対、絶対持たないだろうと痛切に感じているのである。

 でも、職業がスーパーサラリーマンでよかった。スーパーサラリーマンはスーパーマンと一緒で、目が衰えてきても眼鏡で矯正できさえすれば、その立場を存続させられるので。ところが、姿勢も視力も自慢だった頃の将来の夢、野球選手になっていたらこうもいかなかったろう。34歳で体力も気力も充分ながら、視力の衰えで36歳で已む無く引退、今頃はテレビタレント・・・それでもよかったかな(^.^)

 本書『瑠璃の契り』は、◎『狐罠』に始まる、旗師:冬狐堂、宇佐見陶子シリーズ第四作である。旗師とは店舗を持たない骨董業者で、店先や馴染みの客相手の商売ではなく、掘出し物を目利きで仕入、それからそれを欲しがりそうな客や店を捜すフリーランスである。本書に収められた4編の短編の冒頭「倣雛心中」で、その陶子は目を患っている。病名は飛蚊症(ひぶんしょう)。視界の中に、黒点の移動や、半透明の歪が見える病気である。要するに、場合によっては飛んでない蚊が飛んでいるように見える症状なわけで、そんな目で果たして細かい目利きが出来るのか?引退か?そういう危機的設定に陥っているのである。やはり、シリーズ四作目ともなれば、作者はこういう変化も起こしてくるわけだ。そういう意味で、この「倣雛心中」は目新しい面白さがあるし、もうひとつの目新しい部分と相まって短編単独では◎っていうところかな。

 もうひとつの目新しい部分とは人形である。これまでのシリーズで、器やら箱物やら鏡やら色んなものが題材にあがってきたが、今回は陶子も専門でない人形の鑑定が中心に据えられる。テレビの鑑定団なんか観ていてもわかるように、古物の専門化が総ての道に通じているわけではない。場合によっては、おもちゃに詳しい専門家、アンティーク家具に詳しい専門家、そういう専門家が呼ばれて出てくるよね。そんな分野の広い骨董の世界で、専門でない人形の鑑定に挑まなければならない陶子の活躍。そして飛蚊症。いやあ、サラリとしながら中々面白い趣向のお話であったぞな。

 その他の「苦い狐」や表題作「瑠璃の契り」もまあまあなのだが、一番長い話の「黒髪のクピド」はちょっと。なんか、作者の力が入りすぎていて、意外に人間関係が複雑で、少し読みづらいのである。それと、このシリーズ、陶子が別れた元旦那が出てくる話は面白くないというジンクスがあり、この話においてもジンクスまだまだ続くの巻きなのである。でも、このシリーズ、中々いけるので、未読の方には、是非文庫化したシリーズ第一作『狐闇』講談社文庫780円をお薦めしたい。

 旗師:冬狐堂シリーズを読みながら、毎回気になるフレーズがある。“冬の狐の名にかけて・・・”とか“さすが、冬の狐といわれるだけあって・・・”とかいうのが出てくるのだが、これって何ざんしょ?じゃあ、評者も使おうっと。聖なる月の名にかけて言わせてもらえば、せめて『狐罠』くらいは、読むべし、読むべし、べし、べし、べし!でないと、月に代わってお仕置きよ♪ぺし、ぺし、ぺし!(20050211)

〇「瑠璃の契り」 北森鴻 文藝春秋 1550円 2005/1_b0037682_14185221.jpg※初物です。2005年発行の本を、今年になって初めて読みました(^.^)(書評No475)

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by kotodomo | 2005-02-11 14:19 | 書評 | Trackback(1) | Comments(2)
Tracked from アラサー主婦の読書感想文 at 2009-10-04 20:57
タイトル : 【★★★★☆】瑠璃の契り―旗師・冬狐堂 (文春文庫)/北..
瑠璃の契り―旗師・冬狐堂 (文春文庫)/北森 鴻 ¥580 Amazon.co.jp 古美術ミステリーの(私が読んだ)4作目。 期待大きく読み始めました。 ◆あらすじ 魑魅魍魎が住まう骨董業界を生き抜く孤高の美人旗師・冬狐堂こと宇佐見陶子。目利きの命である眼を患った... more
Commented by hanako at 2009-10-04 20:50 x
はじめまして。
昨日瑠璃の契りを読んで、他の方はどう思われているのかな?と検索してたどり着きました。

確かにいつも出てくるフレーズ、言われてみれば気になります。
ヒーローものの台詞みたいですねwww
Commented by 聖月 at 2009-10-05 05:25 x
hanakoさん おはようございます。
スーパーサラリーマン聖月様は、月曜日の朝に、なんと4時には目覚めてしまい、散歩してきましたのことども。

シリーズ物ですから、フレーズもさもありなんというところでしょうか。
でも・・・冷静に考えると、普通言わんですなあ(笑)


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