「本のことども」by聖月

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2005年 02月 27日

◎◎「袋小路の男」 絲山秋子 講談社 1365円 2004/10

b0037682_10264280.jpg 前回132回の芥川賞を、御贔屓作家の阿部和重が受賞してご満悦の評者なのであるが、本書『袋小路の男』を読んで、早くこの作家にこのようなタイプの作品群で受賞してほしいと痛切に感じてわけで、それが今の評者のあらためての心持なのである。

 最近の芥川賞、受賞作を読んだ作家と作品名のみをあげていくと、阿部和重『グランド・フィナーレ』モブ・ノリオ『介護入門』綿矢りさ姫『蹴りたい背中』金原ひとみ『蛇にピアス』吉村萬一『ハリガネムシ』大道珠貴『しょっぱいドライブ』長嶋有『猛スピードで母は』等々となるが、どの作品も新鮮でパワーがありながら、逆に言えば斬新な設定や題材によっており、読み人の好みにより評価が分かれるという、いわゆる問題作という側面を持っていたりする。ところが、今まで三度も芥川賞候補となったこの作家の今回の作品群には、そういう奇抜さや問題作といった側面が見られない。普通の素敵な小説なのである。こういう素敵なタイプの作品で芥川賞を受賞していただき、是非多くの人に素敵な文芸小説というものを味わってほしい、そういう風に感じている評者なのである。個人的には◎◎『海の仙人』 のほうが物語としては面白いと思うのだが、結局物語が面白かったとか自分には面白くなかったとかに評価の目が行きそうな作品であり、そういう意味で、それとは違ったこういう何気ない小説に多くの人が触れて、小説としての“いい感じ”を味わってほしいと思っている評者なのである。

 本書には表題作「袋小路の男」「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」という3つの短編が収められており、先の2編は同じ登場人物の男女の機微を鮮やかに描いた同系の作品であり、巷では「アーリオ オーリオ」に描かれたケレンミのない叔父と姪の往復書簡が、好感を持って受け入れられ、静かな評判となっているようである。

  『袋小路の男』という題名で、評者が思い描いたのはやさぐれた中年男の姿だったのだが、これは大きな間違いであった。表紙を見てほしい。これは袋小路の絵である。道が奥まった先に、そう袋小路の突き当たりに家がある、そういう絵なのである。そして『袋小路の男』という省略されたような題名を長々と表すなら「袋小路の奥まった屋敷に住む素敵で、ちょっと、いや随分と、意地悪な好青年(男)と、私の高校時代、そしてそれからの物語」なのである。文体は散文詩風。実に言葉を丁寧に配置した小説なのである。いいぞ!読むべし!そして一転、二作目の「小田切孝の言い分」では、登場人物は一緒でもその文体の温度差に少し戸惑うのだが、これもこれで素敵な小説。文体としては一作目と比較して粗野な感じも受けるが、そこに描かれている暖かいものは、これはこれで中々よいのである。

 そして巷の静かな話題作「アーリオ オーリオ」。愛もなし、友情もなし、悪意もなし、粗筋もなし、ただそこに描かれているのは叔父と姪っ子の書簡を通じた交換だけなのだけど、これが素朴にしてオシャレで素敵なのである。多くは語らないぞ。読むべし。

 ということで、今この作者が何を書いているのか知らないが、次回の芥川賞は絲山秋子が受賞するのである。予想でもなく予言でもない。断言である。いいものはいいのである。(20050227)

※久々に、小説を目的とした小説を読みました(^.^)(書評No482)

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by kotodomo | 2005-02-27 10:27 | 書評 | Trackback(17) | Comments(10)
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Tracked from 猫は読書の邪魔をする at 2005-03-07 09:19
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袋小路の男 絲山 秋子 あらすじを紹介しようと思いはたと困りました。仕方がないのでそういう時のアマゾン頼み。ところが、「<現代の純愛小説>と絶讃された表題作」とあり、それは少し違うんじゃないのと納得いかず。 表題作「袋小路の男」と次の「小田切孝の言い分」は裏表の関係。十二年間手を触れたこともない男女、小田切と日向子の関係を書いた短編です。 そこで思うのは純愛って何? 確かに日向子の小田切に対する感情は、どんなに邪険にされようと十二年間変ることがない。それは日向子にとって純粋で不変のも...... more
Tracked from どこまで行ったらお茶の時間 at 2005-03-15 12:06
タイトル : 絲山秋子『袋小路の男』
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タイトル : [読書]袋小路の男/絲山秋子
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Tracked from +ChiekoaLibr.. at 2005-05-10 22:14
タイトル : [絲山秋子] 袋小路の男
ISBN:4062126184:detail 表題作の「袋小路の男」は高校時代に出会ったひとつ年上の「あなた」を、ずっと想い続ける「私」の物語です。ずっともずっと、12年間です。 この物語が「純愛物語」と言われるのは、指一本触れずに想い続けたからなのではなくて、こんなふうに、理由も、駆け引きもなくて、それでも相手を想うこと、それこそがまさに「純愛」(純愛という単語はキライなので他になにか思いつくといいのですが。)だからなんだなぁと感じました。なんだかうらやましい。私にはきっとできない…。 そして...... more
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袋小路の男posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.25糸山 秋子講談社 (2004.10)通常24時間以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 「袋小路の男」「小田切孝の言い分」「アーリオ・オーリオ」の3篇を収録。 そのうちはじめの2編は、「袋小路の男」である小田切孝と、その後輩との 日常を描いています。 個人的な話になって恐縮だけど。昔の自らの片思いを思い出しました。 仲のよかった男友達のことがずーっと好きで、でも友達でいたいから ...... more
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袋小路の男posted with 簡単リンクくん at 2005. 6. 1糸山 秋子 / 糸山 秋子著講談社 (2004.10)通常24時間以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 「袋小路の男」「小田切孝の言い分」「アーリオ・オーリオ」の3篇を収録。 そのうちはじめの2編は、「袋小路の男」である小田切孝と、その後輩との 日常を描いています。 ... more
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袋小路の男絲山 秋子 / 講談社(2004/10/28)Amazonランキング:1,592位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見る 高校のときに出会ったハンサムで成績がよくてちょっと素行の悪い小田切を好きになってしまった「私」の、それから12年間の小田切との関わりを描いた短編。他2編収録。 ... more
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Tracked from 図書館で本を借りよう!〜.. at 2005-08-02 19:48
タイトル : 「袋小路の男」絲山秋子
「袋小路の男」絲山秋子(2004)☆☆☆☆★ ※[913]、国内、小説、現代、モラトリアム、恋、愛、宇宙、家族、夢 本書は表題作「袋小路の男」続篇「小田切孝の言い分」、それとまったく別の作品「アーリオ オーリオ」の三篇からなる。 ☆4つ!すごい。本当は5つでもと思うくらい。これはとてもすごい小説。女流作家に男の子の小説を生き生きと書かれてしまった。評価するのは表題作ではなく、併録された短編「アーリオ オーリア」のほう。 表題作、その続篇は、☆評価するなら2つ。ネットでは、皆が高く...... more
Tracked from ついてる日記 at 2005-08-06 11:50
タイトル : 袋小路の男
袋小路の男 講談社 絲山 秋子 このアイテムの詳細を見る  大好きな人だけど、恋人ってワケじゃない。付き合ってるんじゃないけど、何かというと電話してる。けなし合っているようでいて、そんな会話をたのしんでいる。  日向子と孝はそんな関係をずっと続けている。お互いに相手に合わせてやってるんだと思っている。なのに相手に恋人ができれば気になってしょうがない。だから「あいつは胡散臭いから止めておけ」なんて言ってしまう。  どんな人と巡り合うのかっていうのは運命だっていうけれど、それだけな...... more
Tracked from 今日何読んだ?どうだった?? at 2005-08-07 22:42
タイトル : 「袋小路の男」 絲山秋子
袋小路の男... more
Tracked from IN MY BOOK b.. at 2005-09-08 00:22
タイトル : 袋小路の男 絲山秋子
袋小路の男絲山 秋子 講談社 2004-10-28by G-Tools 川端康成文学賞受賞作。帯によると、現代の純愛小説、と、絶賛されたんだそうです。 うーん。小説としては、嫌いじゃない。「袋小路の男」と続編の「小田切孝の言い分」は、特に、なかなか良かったと思う。あ、悪い男と、馬鹿な女がいるぞー!!って感じなんですけど・・・切ない。ちょっと身につまされる部分も。私はこんな苦しい恋愛は絶対にしたくないし、できないけど。 それにしても、これは本当に純愛本なのかな?日向子も孝も、手を握る事も...... more
Tracked from AOCHAN-Blog at 2005-10-18 14:34
タイトル : 「袋小路の男」絲山秋子
タイトル:袋小路の男 著者  :絲山秋子 出版社 :講談社 読書期間:2005/10/01 - 2005/10/02 お勧め度:★★★ [ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ] 「あなた」とは指一本触れないままの12年間、袋小路に住む男にひたすら片思いを続ける女を描いた究極の純愛小説。川端康成文学賞受賞の表題作を含む3篇を収録した短篇集。「群像」掲載を単行本化。表題作「袋小路の男」「小田切孝の言い分」「アーリオオーリオ」の3編からなる短編集。前2編は女性の視点、男性の視点に立...... more
Tracked from 読んだモノの感想をぶっき.. at 2006-04-11 17:00
タイトル : 袋小路の男 (絲山秋子)
『袋小路の男』『小田切孝の言い分』『アーリオ オーリオ』の3編が収録されています。 絲山さんの主人公は、(精神病を含めて)屈折気味な人物であることが多いのですが、彼らの人物とか人間模様を、思い切りの良くサバサバと語ってしまうのがこの人の持ち味と思います。読み始めたら、小気味の良いペースに巻き込まれてしまいます。 一方で、内面とか人間関係の掘り下げは浅く感じられます。 『袋小路の男』と『小田切孝の言い分』は連作になっていて、一組の男女の、友だち以上恋人未満な微妙な(あるいはウジウジとした)...... more
Tracked from とんとん・にっき at 2006-08-03 16:19
タイトル : 絲山秋子の「袋小路の男」を読む!
発売されたばかりの文庫本を購入して、絲山秋子の「イッツ・オンリー・トーク」を読んですぐに、ブックオフで「袋小路の男」と「ニート」の単行本を購入し、一気に読みました。絲山秋子の経歴などについては前に書いていますので、ここでは2004年の作品「袋小路の男」に限っ... more
Tracked from できれば本に埋もれて眠りたい at 2006-11-19 12:07
タイトル : 日常の寂しさの形
袋小路の男 絲山秋子 絲山 秋子 袋小路の男 一人の男性に憧れつづける女性の心情を綴った短編。 川端康成文学賞受賞。 めずらしく恋愛ものですが、好き/嫌い、じゃあ、付き合おう/別れる、と簡単な話ではなく、仕事は真っ当にこなしながらも、なんとなく... more
Tracked from "やぎっちょ"のベストブ.. at 2007-08-28 17:08
タイトル : 袋小路の男 絲山秋子
袋小路の男 ■やぎっちょ書評 いやぁ。良かったですね。空気が。 むにょむにょとした日向子と小田切孝の関係がなんなと良かったです。自分がこういう関係になるのはちょっとヤだけど。。。 あ、でもね。 先に書きたいんだけど、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」は連....... more
Commented by f丸 at 2005-03-02 21:19 x
親分!いまだに糸山の糸が漢字で出せませんら~。
どうしたらいいでしょうか?ご伝授の程よろしくお願いいたします!
Commented by 聖月 at 2005-03-03 06:47 x
八兵衛よ。ワシは未だに絲の字を変換したことないのじゃ。
全部ネットからのコピペパじゃ。図書館とかネット本屋とか。
特に固有名詞、間違いのないよう、一番最初はコピーが多いぞよ。
この作者の名前は多用する機会が今のとこなさそうなので、まだ単語登録まではしてないがのう。
以上、極意じゃ。
Commented by ヾ(=ΘΘ=)ノ at 2005-03-04 23:10 x
お知らせにきました。もう見てるかなあ。
http://www.webdokusho.com/rensai/sakka/index.html
Commented by 聖月 at 2005-03-04 23:38 x
「第一回絲山賞」なんて、聖月大賞の真似っこみたいなことしておるなあ。ありゃ、大学の後輩じゃん。馬鹿なお遊びと、古処、町田康を評価しているとこも似ているなあ。
もう38歳の女性なのね。もう少し若いかと思っておったよ。
Commented by chiekoa at 2005-05-10 22:16 x
はじめまして。今までもちょくちょく見には来ていたのですが、はじめてTBさせていただきました。どきどき。聖月さんと違って低レベルな子供の作文みたいのしか書いていないですが、また遊びにこさせてください!よろしくお願いします。
Commented by 聖月 at 2005-05-10 23:36 x
chiekoaさん こんにちは
私のもレベルの低いダラダラとした全然書評じゃない文章です(笑)
旧サイトで、書評しかアップしていなかったので、日常のことも少し書きたくなって、こんなんなっちまったようなです(^.^)
古いやつもドンドンTBくださいませ。そしていつでもおいでくださいませ。
お茶とお菓子を用意して待っております。
Commented by おおき at 2005-06-03 23:22 x
はじめまして。TBさせていただいたご挨拶もすまないうちに、こちらにもTBいただいて恐縮です。
ときどき覗いていました。とても充実しているので、アレコレと参考にさせていただいてます。

今後ともよろしくお願いします。

Commented by 聖月 at 2005-06-04 06:52 x
おおきさん こちらこそヨロピクです。
裏の世界でも、お仲間コミュ。楽しく盛り上げて、いつの日かあの仲間でオフ会などを。
ふざけた文章の多いダラダラ書評ですが、ご贔屓に(^.^)
さて今から読書です。最近飲んでばかりだったので、今日明日は。
Commented by Roko at 2005-08-06 11:57 x
こんにちは、確かに最近の芥川賞って、もの珍しさだけが先走っているような感がありますねぇ。
この作品みたいなのが受賞するような時代って来るのでしょうか?
Commented by 聖月 at 2005-08-07 12:12 x
Rokoさん こんにちは
今、鹿児島に帰省中。娘たちとプールに行っておりました(^.^)
というのは関係ない話。

結局、芥川賞もそうなんですが直木賞も含めて、なんか基準が人なのか作品なのかハッキリしないですね。そろそろこの作家も・・・なんて話になるということは、結構人が基準になるんでしょうね。


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