2009年 07月 02日
以前、長野県は蓼科高原に住んでいた評者の住まいは、所謂リゾート風集合住宅であり、1階に住む評者はワインのヌーボーの解禁時期に、どういういきさつか忘れたが、4階に住む女性と一緒に評者の部屋でそのヌーボーを中心に据えたささやかな二人だけのパーティーを行うことを約束するはめになってしまった。夕刻に評者の部屋の扉の前に現れたその女性は、いかにも高原のお嬢さんという清楚な雰囲気で、評者も約束するはめになってしまったとか言いながらも満更悪い気もしなかったのであるが、彼女が携えた小粋な食料の袋とは反対側の手に持っていたバスケットがどうも気になった。部屋の中に招き入れたあと、その彼女のバスケットから物音がする。ウサギのウーよ♪という。籠の中じゃ狭いから出してもいいかしら♪という。ワインを楽しみ食事を楽しむ二人と一緒に、そのウサギのウーは勝手にピョンピョン楽しんでいる。結局そのまま評者の部屋に泊まった彼女だったのだが・・・ウサギのウーがうるさかった。一晩中ゴソゴソ、ガサガサ。ウサギって夜行性?そう思いながら、やっと寝付いた評者なのだったが、朝起きてみると迷惑なことにウーは死んじまっている。彼女は大泣きし、自分の部屋に帰るとだけ言い残し、部屋を出ていったのはいいが、ウーの死骸は部屋の中に残されたまま。出て行く彼女に、そのことを後ろから伝えても、死んだウサギはいらないと言ってそのまま行ってしまう。 仕方がないので、30分かけて車で山を降り、なんとなく気付いていたお店までウーを持って出かけ、1万5千円払って剥製にしてくれるよう頼み、出来上がったら電話します、3~4日くらいかかりますけどということで、電話を待つがかかってこない。いい加減催促してもいいだろうと思って、7日経ったときに自分の部屋の受話器をあげると電話自体が死んでいる。原因を探ると、なるほど室内の電話線が妙な感じに切れている・・・齧られている。ああ、ウーはこれ齧って食って死んだのかと思い、またしても車で山を降り、剥製屋さんに連絡がつかなかったことを詫び、立派になったウーの剥製を受け取り、千円で電話線も買って、彼女の部屋を訪問するが不在のようで、ウーの剥製の入った箱とメモを彼女の部屋の前に置いたが、一週間もしないうちに彼女も部屋の前の箱も、何の連絡もなくいなくなる。 それから5年後、東京に住むようになっていた評者の荒川の住居の前に、仕事から帰ってくると、幼い女の子が立っており、蕎麦屋の岡持ちみたいなものがその横に置かれている。女の子が、メモを評者に渡す。名前は書いていないが、それは以前ウーの剥製と一緒に突然消えた女性に渡した評者直筆のメモであり、空いたスペースに、あなたの子です、よろしくお願いしますと書いてある。女の子はニンマリして、あたしの名はアーニャ、そしてこっちはミーシャ、よろしくね♪と言って、岡持ちのふたをあける。ミーシャと呼ばれたそれは、でっかい皇帝ペンギン。こっちのほうは、どう考えても自分の子じゃないだろう。そして3人の家族ごっこが始まる。女の子アーニャは蓼科ヌーボーナイトから勘定が合うように4歳なのだが、結構しっかりしている。評者が相手にしなくても、大抵の場合ペンギンのミーシャに絵本を読んで聞かせているか、一緒に風呂場で水浴びして遊んでいるか、一番多いのは一緒になってテレビを眺めている。たまにペンギンのミーシャがギャッ!と鳴くときは、必ず画面に猫が登場しており、女の子アーニャは大丈夫だよと、ミーシャに優しく声をかける。 3ヶ月も家族ごっこが続くと、お互いなれてきて、どっか出かけようかという話になり、冬の蓼科湖へドライブ。氷の上は、ワカサギ釣りの穴だらけで、ペンギンのミーシャははしゃぐように、あっちの穴からこっちの穴へ冒険を続け、女の子アーニャは氷や雪が珍しそうで、こんなところで育ったのじゃないの?と訊くと、多分名古屋というところで育ったんだと思うと答える。 そんなこんなの楽しい出来事を自慢のブログ日記に評者が何気なく書いたところから、なんだか話がおかしくなってくる。蓼科漁業協同組合という組織から、漁業権の問題ということで内容証明郵便物が届き、自分が不在のときに不審な人物がきたけど出なかったよ、エライでしょ♪とアーニャは言うし、音楽会社やデジカメメーカーから、著作権や商標登録の侵害云々の話が舞い込む。そして、評者は・・・。 いかがかな。以上は評者のフィクションであり、実在する人物、団体・・・という言い訳は別にして、本書のような読んでみてくれとしか言いようのない作品の書評に代えて、少し変奏曲、大いに別ジャンルの作り話で紹介してみたのだよ。 著者はウクライナのロシア語作家。本書の前半は、ウクライナのいしいしんじが書いたようなそんな雰囲気。中盤では表の世界から裏の世界が投射され、終わってみれば少し形而上。あとがきを読むと、著者はロシア語翻訳された◎◎『羊をめぐる冒険』村上春樹がお気に入りとのことで、う~ん、この作風、そういえばそんな雰囲気も(^.^)(20050319) ※本書の中に登場するペンギンは身長1メートルとでかい。表紙絵のように少女とペンギンの大きさは大体一緒なのである。だからなんだと言うわけじゃないが、表紙絵のペンギンは少女に比べでか過ぎないかという疑問に備え(書評No497) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2009-07-02 21:10
| 書評
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Comments(14)
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from ロシア語の単語・会話・学..
at 2005-03-22 01:24
タイトル : ロシア語
私は、大学で専攻していたわけではありません。ロシア語にちょっと興味があって学んでいます。英語もちょっとだけ話せます。ホテルで突然、部屋を掃除するおばさんが入ってきた場合、もう少し後でお願いします。というのをロシア語でパトーム(後で) パジャールスタ(... more
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from うさぎの本棚
at 2005-03-24 20:32
タイトル : ペンギンの憂鬱 アンドレイ・クルコフ
ペンギンの憂鬱 まずタイトルがなんともいい。 ペンギンが憂鬱になるって、擬人化した 喋るペンギンでも出てくるのかと思いきや、 ちゃんと動物としてのペンギンが描かれている。 皇帝ペンギンは大好きで、動物園や水族館に行っては 皇帝ペンギンを探し求め、なんとも愛らしい姿を 時間のたつのも忘れて眺めてしまう。 この作品にも描かれていたけど、彼らはたいてい いつも立ったままだ。 以前立ったまま居眠りをして、ゆらゆらしている ペンギンを目撃したことがあった。 倒れそうになっては...... more
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from 積ん読帳
at 2005-05-21 13:20
タイトル : アンドレイ・クルコフ著 沼野 恭子 訳 『ペンギンの憂鬱』
舞台は真っ平ら。暗幕は真っ黒で、その厚さは計り知れません。 でも、もしほころびを見つけたら、案外ペラペラだったりして・・・ めいめいが一役ずつ、何かを演じなければならない舞台だ。 私はこの世の中のことを、そういうふうに思っている。 -シェイクスピア 『ハムレット』 ペンギンの憂鬱 アンドレイ・クルコフ 沼野 恭子 / 新潮社 ISBN : 4105900412時代は1990年代。場所はソ連崩壊後、マフィアの暗躍するキエフ。 おこなわれている不条理...... more
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from Ciel Bleu
at 2005-08-11 09:57
タイトル : 「ペンギンの憂鬱」アンドレイ・クルコフ
[amazon] [bk1] 鬱病のペンギン・ミーシャと一緒に暮らしている、売れない作家の物語。 ソ連の崩壊後に独立したウクライナの首都・キエフが舞台で、まだ...... more
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from + ChiekoaLib..
at 2005-10-03 13:11
タイトル : ペンギンの憂鬱 [アンドレイ・クルコフ]
ペンギンの憂鬱アンドレイ・クルコフ 沼野 恭子 新潮社 2004-09-29 ヴィクトルは、動物園からひきとったペンギンと暮らす売れない小説家。ある日、まだ生きている大物政治家や財界人や軍人たちの「追悼記事」をあらかじめ書くという仕事を請け負いますが…。 すごく静かで、淡々としていて、怖かったりおもしろかったり、切なくなったり…なんだか不思議な物語でした。すごく引き込まれました。 何がなんだかわからないまま、何かに巻き込まれてしまったらしいヴィクトルとペンギンのミーシャ。そして小さなソ...... more
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from ひなたでゆるり
at 2006-10-13 21:05
タイトル : 『ペンギンの憂鬱』アンドレイ・クルコフ
ペンギンの憂鬱アンドレイ・クルコフ沼野 恭子:訳新潮社2004-09-29by G-Tools 恋人に去られた孤独なヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らす売れない小説家。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたが、そのうちまだ生きている大物政治家や財界人や軍人たちの「追悼記事」をあらかじめ書いておく仕事を頼まれ、やがてその大物たちが次々に死んでいく。舞台はソ連崩壊後の新生国家ウクライナの首都キエフ。ヴィクトルの身辺にも不穏な影がちらつく。そしてペンギンの運命は…。欧米各国で翻訳され絶大な賞賛と人...... more
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from *モナミ*
at 2008-08-14 22:55
タイトル : 『ペンギンの憂鬱』 アンドレイ・クルコフ
[ウクライナ]ブログ村キーワード『ペンギンの憂鬱』 著:アンドレイ・クルコフ恋人に去られた孤独なヴィクトルは、憂鬱症のペンギン、ミーシャと暮らす、売れない小説家。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたが、そのうち、まだ生きている大物政治家や財界人や...... more
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SNOOPYヾ(*^-^*)
at 2005-03-19 21:34
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キャッ(≧∀≦*)☆彡噂のっ『ペンギンの憂鬱』ですねぇ☆
SNOOPYはっ『ペンギンの憂鬱』読んでないですがっ、『羊をめぐる冒険』はっ大好きです☆村上春樹はっかなりっかなぁ~りっっっ読んでます☆ 羊男がっ夢に出ちゃうくらいぃっ(*/-\*)ポッ なんかね…聖月さまぁ♪のっblogが凄過ぎて… 読書しなくっても、ここ読んでたら良いかも☆⌒(*^∇゚)vっなんてぇぇ思っちゃったSNOOPYでしたぁっσ(*^-^*)
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tsc-edotyuu at 2005-03-19 21:48
先ほどは有難うございました。早速、先方(生憎留守)に伝えました。
追って、またご連絡させて頂きます。
SNOOPYさん このペンギン、本当に憂鬱症なんです。
っていうか、動物園の動物って、憂鬱だったりノイローゼだったり当たり前のシンドロームのようですね。 羊男、表に出ない名キャラですね。村上春樹は長編はコンプリしたのですが、まだ中短編が・・・今も部屋の隅にスロウ・ボートや初期短編集などが積読で、早く読まなきゃです。 はい、読書しなくてもここで読めるオリジナルな風景はありますので、是非読んでいってくださいまし。
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shou20031 at 2005-03-20 09:25
いやいや。面白かったです。す~っと読み込んでしまいました。今風な感じがしていいじゃないですか。
shou20031さん どうもです。
自分でも面白いなあと思って、昨日から2回読み直しました(^^ゞ うん、少しの文章で5年も時間をすっ飛ばす物語、自分でも素敵だなあと。 ちなみに、高原のお嬢様と二人っきりでパーティーした体験などないのですが、はははのは。
うさぎさん こんにちは
そうか、書き上げてその中にウサギが登場して、たまたま記事を見つけTBした先がうさぎさんだったことに気付いていませんでした。 もしかしたら気分を害していたりしたらごめんなさい。 フィクションなんですが、事実は少しあります。 うさぎを飼っていた知り合いの女性が、うさぎが死んで剥製にした事実というのがあります。その剥製を取りにいかされて、代金を代払いして今でも返してもらっていないという事実があります。 それがああいうフィクションになったのですよ。
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chubb3 at 2005-05-21 13:25
きゃはははは、途中まで本気にして読んでしまいました!
どの辺りで気付いたかといえば、女性が泊まりこんでしまう辺り… …って、深い意味はありません。(笑) あ、4歳ぐらいの女の子って、丁度身長1メートルぐらいじゃないですか? この絵、実は結構ちゃんとしてるんだーと思ってたんですが…(^^ゞ クレストブックス、もっと読みたいけど何がいいでしょう。 とりあえず「遺失物管理所」だけはチェックしてるんですが…
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四季
at 2005-08-11 10:13
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す、すみません、二重投稿になっちゃいました(^^;。
1つ消しておいて下さいませ。
四季様 二重投稿消しておきました、ははは。
そう、聖月様の創作の傑作シュール短編なのです。 でも、なんとなく雰囲気伝えてますでしょう。 クレストブックは、『ナターシャ』やはりロシア物はいまひとつ。 ドイツの『遺失物管理所』は良かったですね。 他では『死を招く料理店』なんてのも好きでした。これは完全なミステリなんですが。誰も読まなくて淋しい。 ああ『タイムトラベラーズワイフ』もよかったなあ(^.^)。 |
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