2005年 03月 20日
いやあ、自分で言うのもなんだけど、無謀と言おうか、思い切りがいいと言おうか、はい、今回本書『上高地の切り裂きジャック』を読んでの感想はまずそれでした、評者の場合。 いわゆるA型な評者は、シリーズ物を順序良く読むタイプである。できる限りそうしているので、逆にシリーズ物の新作が評判を呼んでも、評者がそのシリーズに手をつけてなかったり、前作を読んでなかったりした場合、大抵の場合、評判作でも読まなかったりする。でも、これじゃいけない、ここまで慎重だと逆にそれが災いして出世も覚束なくなるだろうと、最近では少し思い切って読んでみたりしている。というか、出世と読書は、まあこれはほとんど関係ないわけで、実際にはサイトを持ってるという自覚から、世界の聖月ファン(推定約50人ながら、これは氷山の一角鯨と言われている。どこでさ?)のために、自分の主義を多少なりとも世の中のニーズに合わせている所作による。ということは、これ気配りにおいて、出世も安泰かもしれない。 で、今回の無謀。実は島田荘司作品は、1年半前に読んだ御手洗潔の実質的デビュー作『異邦の騎士』が、評者が読んだ最初の島田作品である。『占星術殺人事件』という作者のデビュー作より、御手洗潔の実質的デビュー作を読む、この辺は評者らしい、自分らしい、エヘン。そして『奇想、天を動かす』などを古書店で買ったり、島田荘司本を図書館で手に取ったりしていたのだが、その後結局一冊も読むことなく、今回、この御手洗潔シリーズ最新作『上高地の切り裂きジャック』を読んだわけである。要するに、20年くらい前の作品から、一足飛びに最新作へワープしたのである。いや、ワープじゃない。ワープは空間移動だ。今回は時間移動だ。タイムトラベルだ。タイムマシンで未来へゴーってなわけで、浦島太郎であった。辿り着いた浜辺で、昔日に思いを馳せ、今様の変貌に溶解しない疑問が湧く。なんで、御手洗潔は外国さいるのだべ?この石岡っていう中心人物って誰だべさ?よく読めば御手洗の記録係みたいだっぺがさ、と聖月浦島、独白の図、背景には白砂青松。 でも、それなりに楽しめた評者であった。読みながら思い出したのが、岡本綺堂『半七捕物帳』全六巻、評者の手元の積読本は光文社時代小説文庫のやつだ。で、実質積読本であっても、1巻は読んでいるので、どういう本であるか、その内容は知っている。最初に不思議な話が起こる、最初で謎が提起される、そうしてあまり証拠とかアリバイとか関係ない会話がなされる、そこで遠眼鏡的探偵役判事役登場、不思議な話、謎の真相が明らかになる。いわゆる安楽椅子探偵物に近い味がある。 本書には2編の中編が収められている。表題作『上高地の切り裂きジャック』上高地で御手洗が活躍するのかとか、舞台は上高地とか、題名からのそんな連想はおお外れ。死体は上高地で見つかるが、犯人とされる男がその間神奈川にいたアリバイは鉄壁。じゃあ、なぜ犯人とされたかと言うと、被害者の膣内に残された精液から。精液のみを容器に入れてとか、そんな解決を御手洗潔は許さない。そうそう、今回の御手洗は欧州から電話の声のみの出演だ。そうそう、死体は当然下腹部が切り裂きジャックである。そうそう、舞台はまあいえば神奈川である。 2000年に書かれた『山の手の幽霊』のほうは、こちらは10年前の1990年の事件を振り返って書かれている。御手洗もまだ国内にいる、って言うか、評者は御手洗がいつ日本からいなくなったのか知らんし、そもそも本書を読むまでは、なんも知らんかったわけで、そういえば昨年話題になった『魔神の遊戯』はネス湖が舞台とか、そんな知識である。本作では、冒頭、地下室で死体が見つかる。死亡推定時期は1ヶ月前。でも、その死体の主、死亡推定時期以降も、街中で見かけられている。飲み屋にも行っている。それは、幽霊なのか?そういう不思議が最初で提示され、あまりバタバタする展開もないまま、スッキリと謎が氷解していく、御手洗の掌の上で。 で、次に読む島田荘司は、これもう決まっている。一緒に図書館から借りてきた『魔神の遊戯』。シリーズ最新作とその直前作とを一緒に借りてきて、最新作のほうから読む評者は、自分は、A型の血が薄れてきたというか、節操がないといおうか、一皮向けたといおうか、頓着がなくなったといえば少し聞こえもいいが執着がないといったほうがよいのか、要するにもう死ぬまで時間がそんなにないと言うことだ、島田デビュー昭和56年の頃の自分とくらべると。(20030711) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-03-20 21:12
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