|
2005年 04月 02日
図書館へ出向くたびに、本書『オーデュポンの祈り』が棚に二冊並んでいることに気付く。いちいち認識する。いちいち記憶の上に再度上書きされる。多分、あまり誰も借りることなく、毎回同じ場所で評者の目の中に焼き付けられるからだろうし、題名が謎的だからだろう。勝手に内容を推測して、“多分純文学だろう”と勘違いしながら背表紙を眺めていた評者なのである。“~の祈り”なんて、“純文学に違いない”と確信に近いものも抱いていた評者なのである。ところが、それは全く違った。昨年、著者の『ラッシュライフ』が話題になり面白く読んだのをきっかけに本書を手に取ってみると…寓話であった。寓意の無い寓話であった。寓意の代わりにミステリーを刷り込んだ寓話であった。え?寓意のない寓話?手元にある辞書をひもとくと「寓話:教訓的な内容や風刺を盛り込んだたとえ話」と書いてある。ということは、寓意のない寓話は寓話ではない。それなのに寓意のない寓話とは?実は、著者の別の作品の中で、登場人物の口を借りて本書の内容に言及するくだりがある。そこで著者は「寓意のない寓話」と言わせているのである。 なんて言う理屈にもならないことは、もう終わり。本書の雰囲気を伝えよう。例えば“ひょっこりひょうたん島”、例えば“プリンプリン物語”、どちらもNHKで再放送中だが、あの世界を考えてみればいい。一応、登場人物は人間。町や生活も実際の人間世界とさほど差がないのだけど、独自のルール、不思議な世界を持ち合わす、本書はそんな人形劇のような世界に足を踏み入れた青年の物語なのである。 青年が目覚めた島。そこにはいろんな住民がいる。どうやら日本の島のひとつながら、日本本土からは忘れ去られてしまっているようなのだ。島の住民も、日本本土との交流を持とうとせず、長い年月が過ぎてきたため、少し本土とは文化、風習も異なっているようである。なにせ、住民の職業の中に、“人の手を握ってあげる”ことを生業としている人までいるのだ。そして、一番の特長は、この島には“喋るカカシ”がいる。案山子が喋るのだ。そしてそのカカシ、未来のことがわかるカカシでもある。そんなカカシを中心に、どこか不思議な島での、主人公青年の日々が送られていく。 第5回新潮ミステリー倶楽部賞の受賞作である本書は、そういった寓話的な不思議な世界を背景にしながらも、完成度の高いミステリーである。そしてスパイスが効いている。“この島には欠けているものがある”と、昔から伝えれている不思議な島。物語の終盤、それがわかったときの爽快感もなんだか嬉しいものがあるし、そのための伏線にまで気付くと、著者の上手さに感心せざるをえない。評者がこれまで読んできたいろんな受賞デビュー作の中で、本書は別格である。完成度、世界観、会話の妙、どれをとっても味わい深い。本書の中でのミステリーとは、やはり殺人なのだが、そちらをほっといて、この島に欠けているものとは何か?を読むだけでも充分に楽しい小説なのである。(20030518) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-04-02 01:37
| 書評
|
Trackback(17)
|
Comments(6)
この作品を読み終わったとき、
いい筋なのにもったいないな〜と感じました。 語り口がどうもしっくり来ないせいだったのかもしれません。 ただ、デビュー作ということを後から知ったので、 その辺は仕方ないのかなとは思いましたが。 あまり、作家の成長に合わせて読んでいったことが無いので、 デビュー作だという事が影響あるのかはわかりませんが。 単に、合う合わないかもしれません。 ただ、島の設定や住人の個性などはよく出来てて、 楽しかったです。 個人的には、現世界(同じ世界なのですが、、)である 日本本土の話がきちんと練り込まれていればなぁと思いました。 そこが中途半端なせいで、 島の設定が異世界のように感じてしまいましたので。 まあ、あんな案山子がいる時点でそんなこといっても、 仕方ないのかもしれませんが(笑)。
0
島に欠けているのも、その大きな謎の答えが、何度も何度も途中に書いてあるのが面白かったです。
同じような手法を『グラスホッパー』でも使っていますが、こちらは謎として取り上げられもせず進んでいきますので、またさらに面白かったです。 私には非常に感性のあった作品だったのですが、案山子誕生のエピソードの世界はちょっと違和感感じましたね。 これだけではわからない、伊坂流伊坂節の世界ですから、是非伊坂ワールドを楽しんでくださいませ。
「活字中毒日記!」にTBをしようとしていたら、聖月さんちの記事を発見。
そんなわけでTBさせてもらいます。 私は、伊坂作品がまだこれ一冊なので、案山子誕生のお話も、中途半端さ加減も、それほど気にならなかったです。 最初から、はっきりと常な空間からは切り離された場所、というふうに見切りをつけて読んでいたせいかもしれません。 島のキャラクターの中で、一番すごいと思ったのは、さくらさん。 正義の人のようでありながら、うるさいという理由で銃をぶっ放す。 うちは最初に狙われるな。
くろにゃんこさん こんにちは
伊坂作品は、そこに潜む寓意でない寓意や、作者の企みに、意外に皆さん気付かず済ませて、まあこんなもんかと思ってしまう感想によく出会いますね。 中途半端さは作者の手法で企み(^.^)世界に漂う箱庭的な雰囲気が秀逸かと。 でもこれ一冊っていうのが、素敵ですね。 まだまだ、新たな伊坂作品に出会えるわけで。 是非、刊行順に読み進められることをお薦めいたします。 前作の色んなことがさりげなく配置されているのが、いとおかしなので。
こんにちは。私も「オーデュボンの祈り」読みました。伊坂さんの作品は知的な遊びや、ひねくれの臭いがして、大好きです。あの島にたりないものが○○というのは、「死神の精度」を読んだ者にとってはニヤリとさせられましたw レビューを書いたのでトラックバックさせてください。
BIONさん こんにちは。
伊坂の企みいいですよね。特に島に足りないもの・・・なんじゃ、途中に答えが!みたいな企み好きでした。 この後『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読んで、またニヤリ(この作品があって、伊坂作品もあったのかなということで)の体験でした。 |
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||