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「本のことども」by聖月

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2005年 04月 02日

〇「アヒルと鴨のコインロッカー」 伊坂幸太郎 創元推理文庫 680円 2003/11

〇「アヒルと鴨のコインロッカー」 伊坂幸太郎 創元推理文庫 680円 2003/11_b0037682_1184773.jpg そこはかと何気ない企みや、そこからくる爽快感が好きな伊坂ファンの評者にとって、本書は少しガッカシである。いや、巷では相当に評判がよく、評者も本書を読むまでは“はや、次年度のランキング1位作品決定か!”と思っていたほどであるのだが。好みとしてどこが合わないかというと、直截的でなく物足りないような伊坂作品が評者の好きなところであって、そういう意味で本書『アヒルと鴨のコインロッカー』は、全然物足りなくないので、評者にとっては逆にそこが物足りないのである(←何をいいたいのか?自分)。

 はっきり言って、ふたつの意味でベタなのである。そこはかとない笑いと比較すれば、吉本新喜劇の笑いはベタであるように、本書内におけるユーモアハードボイルド表現などは、これでもかというくらい詰め込まれ、誰が読んでもわかるくらいにベタなのである。これまでの伊坂作品のさりげなさと、ちょっと違うのである。

 もうひとつ、仕掛けがベタ。誰が読んでもわかる仕掛け。いかにもな少し手垢のついた仕掛け。そこんとこが評者にとってよろしくないのである。誰が読んでもわかる仕掛けじゃない仕掛けってあるのって?ある!同じ伊坂の『ラッシュライフ』。いろんなとこで感想を読んだが、仕掛けを読み間違っている人の多いこと。あの小説は、騙し絵的な構造がミソなのだが、そのミソの味がわかっていない読書人たちの感想のなんと多いことよ(嘆息)。そんな人たちの感想、いろんな登場人物のいろんな視点から書かれている小説で、片方から見た風景がもう片方から見ると違った風景に見え、まるで騙し絵…というのは間違っているとは言えなくても、少なくとも作者の仕掛け、企みに気付いていない。実際には、登場人物たちは例えば1個しかないはずの当たり宝くじを全員が持っているわけで、結局それはそれぞれの人物の間を通り過ぎていったアイテムであり、当然それぞれの登場人物たちにも接点がある。じゃあ、どこで誰がすれ違って、いつその宝くじが移動して…そういうのを並べてみると、始まりもなく終わりもない話の円環ができて、いわゆるメビウス構造にそこはかとない爽快感を感じろというのが作者の企みであって、それがわかりやすいように、いつまでたっても階段を昇りきらないエッシャーの騙し絵が表紙に飾られているのである。実は、評者自身それぞれの出来事を時間軸に並べてみたわけではないのだが、多分そういうこと。これって、なんか時間の軸がおかしいじゃん、と思いながら読んでおったぞ

 まあ、そういうわけで、本書の粗筋は紹介しないけど、伊坂ファンとしては外せない作品、読んでみてチョ。ストレートな作風に伊坂作品中最高と絶賛される向きも多いかもしれない。ただ評者にとってはっきり言えるのは『重力ピエロ』を読んだときのようなページを繰る期待感、そういうものが本書ではなかったことである。

 あっ、そうそう、実は今これ書いているのは大晦日の午前中。それでは、今年の聖月様の予言を振り返ってみよう。伊坂の『陽気なギャングが地球を回す』の感想の最後に、評者が予言しておる。見るのが面倒だという方のためにコピペパ“大予言、今年のランキングには10位以内に伊坂が2作入る。『重力ピエロ』が4位で、『陽気なギャングが地球を回す』が9位である。1位は勿論、森山直太郎『さくら(独唱)』である(笑)。”これは6月にこのミスのランキングについて早くも予言している話だが、案外当たっているから凄い。勿論森山云々はシャレだけど(笑)(20031229)


※小予言、来年のランキングに本書『アヒルと鴨のコインロッカー』は、20位以内ランクインしてくる。

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by kotodomo | 2005-04-02 11:10 | 書評 | Trackback(13) | Comments(4)
Tracked from 読んだモノの感想をわりと.. at 2005-04-03 15:27
タイトル : アヒルと鴨のコインロッカー (伊坂幸太郎)
内容は異なるけど、テイストは『重力ピエロ』(別掲)に近いものがあります。つまり、人物とか物語は作り物っぽいけど、場面場面の描写から醸し出される気分とか雰囲気はリアル、というアンバランスな味わいです。 ただし、『アヒルと鴨のコインロッカー』の方が人物とか物語の作り物っぽさはかなり抑えられているのでずいぶん好印象です。語り手の設定によるところが大きいと思います。『重力ピエロ』の語り手はかなり偏っていたので、それだけ歪が大きくなっていましたから。 そうは言っても、ペットショップの店長の人物造形とか、恋人...... more
Tracked from +ChiekoaLibr.. at 2005-05-11 13:08
タイトル : [伊坂幸太郎] アヒルと鴨のコインロッカー
ISBN:4488017002:detail 引っ越したばかりのアパートの隣人、河崎の口車にのせられ、書店強盗につきあうはめになった大学生、椎名。気が付けば河崎に言われたとおりに、書店の裏口にモデルガンを持って立っている自分。そしてそんなことまでして河崎が盗もうとしているのは「広辞苑」一冊だという。彼の真意はいったい…? 交互に描かれる「現在」と「2年前」の物語。刻々と進んでいく現在と2年前の「時」に、タイムリミットが近づいているような焦燥感を味わいながら、途中で読み止めることができず、一気に読み...... more
Tracked from 今日何読んだ?どうだった?? at 2005-08-07 22:41
タイトル : 「アヒルと鴨のコインロッカー」 伊坂幸太郎
アヒルと鴨のコインロッカー(ミステリ・フロンティア 1)伊坂幸太郎著出版社 東京創元社発売日 2003.11価格  ¥ 1,575(¥ 1,500)ISBN  4488017002bk1で詳しく見る ... more
Tracked from 時計仕掛けのオレ BY .. at 2005-12-04 22:56
タイトル : アヒルと鴨のコインロッカー
「一緒に本屋を襲わないか」引っ越してきた初日にいきなり隣人に誘われるこれからどう物語が発展してくんだろうなと胸を躍らせ最後まで読みきった伊坂氏の作品はいつもバラバラだこの作品も現在と2年前の話が別々に進んでいくこの二つの話が予期せぬところで交わったりと中盤くらいからドンデン返しを見せ始める今回はいつもよりも予想できなったことが多かったな隣人の秘密とかホントびっくりだった最後の方はなんかもうバラバラにちらばったパズルを組み立てていくような感覚だったなホントうまいなぁ「アヒルと鴨のコインロッカー」ってタイ...... more
Tracked from 羊の迷想 at 2005-12-07 20:03
タイトル : アヒルと鴨のコインロッカー
著者: 伊坂 幸太郎タイトル: アヒルと鴨のコインロッカー伊坂幸太郎の作品。伊坂作品に流れる軽妙なリズムは健在である。”洒脱”と言われる文章は、独特のリズム感で迫ってくる。話は、いきなり書店で広辞苑を盗む話から始まる。その出だしは、なんだか変な感... more
Tracked from "やぎっちょ"のベストブ.. at 2006-07-09 18:18
タイトル : アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎
アヒルと鴨のコインロッカー ■やぎっちょコメント これは、ミステリーと読んでいいのかな?? 伊坂さんの謎って、この本に限らず、 「一緒に物語を進んでいけばひとつひとつわかりますからね」 的なテンポがスキです。 「さあ、どうよ、君どこら辺でわかるよ」 みた....... more
Tracked from ぱんどら日記 at 2006-09-20 09:56
タイトル : 伊坂幸太郎【アヒルと鴨のコインロッカー】
「現在」の話と「二年前」の話が交互に語られて、ひとつの結末へとなだれこんでいく。 「現在」は「椎名」という大学生の男の子の視点で、「二年前」は「琴美」という女性の視点。 現在の話に琴美は出てこないし、二年前の話... more
Tracked from ぱんどら日記 at 2006-09-20 09:57
タイトル : 映画【アヒルと鴨のコインロッカー】最新情報。
先日このブログで「伊坂幸太郎【アヒルと鴨のコインロッカー】が映画化され、撮影はオール仙台ロケ」と書いたばかりで、9月18日の河北新報に映画の記事が出た。ジャストタイミングである。 撮影は東北学院大学、八木山... more
Tracked from アタシのアシタはココにあ.. at 2006-12-19 20:09
タイトル : アヒルと鴨のコインロッカー
『アヒルと鴨のコインロッカー』 来年の夏に公開される映画。 仙台オールロケらしいです。 撮影している瑛太とか大塚寧々にばったり会えないかな??? エニエニで宣伝したいぃ。 仙台、万歳\( ̄...... more
Tracked from たこの感想文 at 2007-01-28 04:03
タイトル : (書評)アヒルと鴨のコインロッカー
著者:伊坂幸太郎 アヒルと鴨のコインロッカー価格:¥ 680(税込)発売日:20... more
Tracked from ミステリー倶楽部 at 2007-02-22 08:15
タイトル : アヒルと鴨のコインロッカー |伊坂 幸太郎
他のレビューにもあるように、途中で結末が見えてしまうひねりのない構成。「ラッシュライフ」を読んだ時にはすごい才能が現われたものだと感嘆したものだが・・・。ここまでは快作の連発だったが正直行き詰っているのでは?「このミス」等の上位は首をかしげる。... more
Tracked from 本を読もう at 2007-03-28 18:25
タイトル : アヒルと鴨のコインロッカー
私はこの著者の中で一番初めに読んだ小説でした。 あるふと一件で書店屋を襲うというある意味村上春樹氏のパン屋襲撃とあまり変わらないと初めの方ではそう思っていましたが、読んでいくごとに凄くスピード感のある作家だなと思いました、 とてもじゃないですけど古い作家ではこの小説はかけないと思いました。 ディティールは凄く狭いですけどこの著者は凄い才能を持った作家だと思います。 決してブームだけ... more
Tracked from しんちゃんの買い物帳 at 2008-04-15 12:59
タイトル : 「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎
アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)(2006/12/21)伊坂 幸太郎商品詳細を見る 大学入学のため関東から東北に引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは尻尾の曲がった猫、次が全身黒ずくめの長身の青熱..... more
Commented by chiekoa at 2005-07-17 23:11 x
ここに聖月さんがこれだけ書いてくださったので、私はもう思い残すことはないですっ!!
Commented by 聖月 at 2005-07-17 23:53 x
こういう企みに気付かないのは、本当にもったいないのですがねえ。
Commented by ザ・ワールド at 2005-12-04 22:56 x
自分は結構好きだった(’’;)
単純だからなぁ(笑)
Commented by 聖月 at 2005-12-04 23:36 x
冗舌ハードボイルド&叙述ミステリーを意識して作られた作品でしたね。
自分は・・・『重力ピエロ』これで決まり!!!
だったんですが「魔王』もいいなあ。


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