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「本のことども」by聖月

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2005年 04月 13日

◎◎「草にすわる」 白石一文 第一回聖月賞受賞作品 光文社文庫 540円 2003/8

◎◎「草にすわる」 白石一文 第一回聖月賞受賞作品 光文社文庫 540円 2003/8_b0037682_7471767.jpg
 白石一文が作風をガラリと変えてきた。これまでの代表作『一瞬の光』や『僕のなかの壊れていない部分』では、主人公の内面の思考を借りて、人間の内側にあるものを描写してきていた。一種の自己哲学が展開され、その哲学観が、読む者と主人公の間に隔たりを生じさせ、そういった手法に慣れない、もしくは共感できない読者には不評を買ったようである。特に男性主人公の勝手な自己哲学に、この主人公が理解できん、男のエゴに我慢ならん、という女性読者も少なからずいたようである。

 ところが、本書『草にすわる』。表題作と、『砂の城』という二つの短篇が収められているのだが、二つともこれまでの作風と違っている。『砂の城』少しミステリーの手法も混ぜ、文体は慇懃無礼的な真面目文体を気取り、その奥にはユーモアを漂わせている。文壇の大家を皮肉りながら、その悲哀を軽妙に描いた作品となっている。評価としてはまあまあか。

 そして表題の『草にすわる』なのだが、読むべし、読むべし、べし、べし、べし。たとえ立ち読みでも読むべし。ここには読後の爽快感がある。多くの人が感じたい爽快感がここにある。表紙カバーの裏に"本書には、覚醒がテーマの中編2本を収録。今までにない読後感を誘う"と書いてあるが、この言葉に間違いはなかった。

 自堕落な青年が主人公。自堕落な生活を送り、自堕落な女性関係を続ける。こういう設定は、いつもの白石一文とちっとも変わらない。そしてとある事件が起こるのだが。その事件以降の処理の仕方が、これまでの白石一文と違うのである。これまでなら、ドロドロした内面を描いていったのだろうが、本書では事件で濁った水が、その後どんどん澄んでいくような気持ちの良さがある。そして、最後に待ち受けるのは、なんとも言えない爽快感。

 ところで、今これを読んでいるそこのあなた。爽快感という言葉はわかったが、その爽快感とは一体なんぞや!と、爽快どころか不快なものが胸に溜まってきたんじゃないかな。そこは、聖月大先生のこと、ちゃんと答えは準備してある。ただ、どうしても例を引き出すことになるので、その例知らないって人はゴメンチャイ。 爽快感とは、コーラ飲んでゲップしたときのあれでもないし、童貞を捨てたその日に、俺はもう童貞じゃないんだと胸を張って町を往来したときのあれでもないし、創価学会でもないし、太田胃散でもない。

 あなたは、武田鉄也、桃井かおり、そして高倉健、倍賞千恵子(だったっけ?人名漢字はこれでよかったっけ?まあいいか)が出演した映画「幸福の黄色いハンカチ」はご覧になっただろうか。テレビでも何回も放映されているので、大抵の方はご覧になっていて、その上何回も観て、何回もラストのあのシーンでググーッとググーッときているのではないだろうか。"う~ん、何度見てもこのシーン感動するなあ!"果たして、感動だけだろうか?あの素晴らしい光景の中にある気持ちよさが、一種の爽快感である。その爽快感が本書『草にすわる』の中にある。読むべし。(20030920)


※本書に第一回聖月賞を授与する。聖月版芥川賞だと思ってもらえばよい。条件は①なんの賞も受賞していない②短篇の③文藝作品である。二回目以降の日程は随時だが、この賞の存在自体、評者が覚えているかもわからない(笑)

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by kotodomo | 2005-04-13 07:49 | 書評 | Trackback(1) | Comments(2)
Tracked from "やぎっちょ"のベストブ.. at 2008-04-04 14:49
タイトル : 草にすわる 白石一文
草にすわる この本は「本のことども」by聖月の聖月さんにオススメいただきました。ありがとうございました。 ■やぎっちょ書評 くわーっ。くわーっ。きたよ、これ。来たよ〜!! やられました。完全に。 長編をがっつり書く白石さんとしては珍しく、 短編を読ん....... more
Commented by やぎっちょ at 2008-04-04 14:52 x
聖月さんこんにちは♪
読みました。読みました。読んでよかった!!紹介してくださってありがとうございました。確かに作風が全然違いますね。軽い。でも好き。
そしてそして、立ち読みでも読むべきなのでございます。読んだらほしくなると思いますが。
久々にやられた感があり充実しました★
Commented by 聖月 at 2008-04-05 08:09 x
やぎっちょさん こんにちは(^.^)
感想読みましたよ。凄く気に入ってくださって、なんだかとっても嬉しいです。
ここにある哲学は、これまでの白石フィロソフィーとは全く違ったもの。
現代版、幸福の黄色いハンカチでしたぁ。


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