2005年 04月 28日
◎◎『ノルウェイの森』は村上春樹作品の中でも、賛否両論わかれた作品であったようだが、その中に記述されている主人公の学生寮生活、中でも同室の変わった学生“突撃隊”の箇所は面白く読んだという読者が多いのではないかな。 本書『蛍・納屋を焼く・その他の短編』には5つの短編が収められているが、表題にも入っている「蛍」を読み始めて、おやおやと眉を吊り上げて読み始めた評者なのである。主人公は学生寮に住み、同室には“突撃隊”とは呼ばれていないけど“突撃隊”君が!その二人のやりとりにニヤリとしていると、段々と既視感がぼーんにゃっと湧き上がってきて、そのわけは僕が既に死んでしまった友人のその彼女と東京の街を散歩するくだりであり、その彼女と寝た直後、彼女は目の前から居なくなり、京都の山中の療養所で暮らし始めたとの手紙が着く。なんにゃ?これって『ノルウェイの森』まんまやんか!『ノルウェイの森』の細部まで憶えていない評者なので、どれだけまんまなのか定かではないが、やはりまんまであることに変わりはない。こりゃあ、本日鹿児島に帰ったら、書斎に置いてある『ノルウェイの森』のページを捲ってみらなあきまへんと、変に関西弁風に決意を抱いた評者なのである。別の言い方をすれば、『ノルウェイの森』の内容は忘れたけど、なんか可笑しいやついたなあ、ああ“突撃隊”だった、なんて思い出した方には嬉しい再会の本書である。 まあ、2年前からの“遅れて来た村上春樹読み”の評者なので、出版年を考えると、当時は別の反応があったんだろうと思うけど。本書の単行本出版が1984年。一方『ノルウェイの森』が1987年なので、当時『ノルウェイの森』を読んだ読者は、あの「蛍」が下地になっての長編!“突撃隊”の青年と再会!そんな風に受け止めたんだろうけどさ。 他に収められている「納屋を焼く」「踊る小人」「めくらやなぎと眠る女」「三つのドイツ幻想」はどれも可もなく不可もなく、それでも世界は春樹ワールドってとこでしょう。 で、評者にしては珍しいことではあるが、引用などを。あとがきに書いてある著者の姿勢を書き留めておこうかとね。 「(前略)僕はときどき長編と短編のどちらが得意かと聞かれることがあるが、そういうことは本人としてはよくわからない。長編を書いてしまうとそのあとに漠然とした悔いが残って、それで短編をまとめて書き、短編を幾つかまとめて書くとそれはそれで切なくなって長編にとりかかる、というパターンである。そんな風に長編を書き短編を書き、また長編を書き短編を書くということになる。そういう繰りかえしもいつかはきっと終るのだろうけれど、今のところは細い糸にすがるような具合に少しずつ小説を書きつづけている。 理由はうまく言えないけれど、小説を書くことはとても好きです。 昭和59年4月25日・夕暮 村上春樹』(20050428) ※古書店で100円で買って積んであった村上春樹本である。(書評No512) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-04-28 13:16
| 書評
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Comments(2)
Commented
by
raisondetru70 at 2005-10-10 19:46
まったく同じ内容っていうのは、春樹さんの小説でいくつか
ありますょね。 ねじまき鳥と火曜日の女たちは、ねじまき鳥クロニクルとして、 かなりの長編で、書き上げられていましたし。
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