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「本のことども」by聖月

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2005年 05月 23日

◎◎「雪が降る」 藤原伊織 講談社文庫 620円 1998/6

◎◎「雪が降る」 藤原伊織 講談社文庫 620円 1998/6_b0037682_7455114.jpg 好きな作家は誰ですかと尋ねられれば、昔むさぼるように読んだ星新一や太宰治は別にして、評者の場合3人挙げるし、3人しか挙げられない。高村薫、佐藤正午、本書の著者藤原伊織である。
好きな作家と言える条件は、
(1)有名になる前から読み始めたので思い入れが深い
(2)近くの文化講演会で出演するような話でもあれば、是非行きたいと考える
(3)総て、もしくは、ほとんど総ての著作を読んでいる
(4)勿論、顔まで知っている。
この4条件が、評者の基準である。3人しか挙げられないと書いたのは、(3)の条件を満たす作家が、評者の場合、この3人くらいだからである。前にも述べたことがあるが、評者が講演会を聞きに行ったことがある作家が二人いて、その内の一人が藤原伊織。もう一人は辺見庸であるが、こちらは作家というよりもジャーナリストと言ったほうがいいのかもしれない。

はい、ここまで読んで"佐藤正午と辺見庸がわからない"と思ったかた手を挙げて(^o^)丿。わかりました。無駄話はここで終了します。この二人がわからないかたは、今すぐネットで調べるか、ずっとこのコーナーを今後とも読んでくださいな。まあ、200作品くらい紹介する頃には、この二人の作品にも触れるでしょうから。それまで、お待ちをm(__)m。


本書は、藤原伊織の短編集である。いや中編集か。どちらにしても、珠玉の作品がキラキラ光る名作集には変わりない。全部で6つの小説がこの中に収められ、元々はハードボイルドな文体も、この作品集の中では、それぞれの小説の透明度を高める手法に過ぎない。この小説を読み終わると、心の透明度まで高まってしまう、そんな小説集なのである。2作だけ、紹介しよう。


一番冒頭の作品「台風」。主人公は玉突き(ビリヤード)店の息子。少し学校からも足が遠のいており、店の手伝いの真似事をすることが多い。店にはちゃんとしたお手伝いの明子がいるのだが。ある日、ふらりと華奢で瀟洒な青年が店に迷い込む。とてもとても、上手に玉突きなどするタイプには見えない。それが、そう、ちょっと突かしてもらってもいいですか、などと言って、素晴らしい腕を見せるものだから、少年は興味をひかれる。言葉遣いからしても、いい環境で育ってきたことをうかがわせる雰囲気を持つ青年。その青年と少年の心の交流、憧れ、当然ながら店の明子と青年の寄せる思い、そんな風景が透明に描かれる。一番興味をひかれるのは、青年の素性なのだが。この小説の書き出しはこんな文句で始まる。"人を殺した人間には、かつて一度しか会ったことはない。"


表題作「雪が降る」。主人公の会社のパソコンに、全然知らない差出人からメールが届く。そのメールの件名が「雪が降る」。おっと、慌てて先走らないように。コンピューターウィルスが猛威をふるっている昨今、そういう方向に考えが行きそうだが、この小説の背景にはウィルスは関係ない。自分が会社に行く。自分のパソコンのメールをチェックしようとすると、心当たりのない差出人からのメールがある。件名が「雪が降る」。そしてメールを開くとパソコンの中に雪が降り出し、、、、それじゃ、ウィルスだ。もう一度。そしてメールを開くと、画面が表示されなくなり、、、、それもウィルスだ。深呼吸してもう一度。そしてメールを開くと、こう書いてある。"母を殺したのは、志村さん、あなたですね。なお、父は幸か不幸かこの事実を知りません。高橋道夫"。

是非、読んで欲しい短編集である。

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by kotodomo | 2005-05-23 07:45 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)


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