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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 09日

◎◎「燃える地の果てに」 逢坂剛 藝春秋 2,095円 1998/8


 評者は通常2冊の本を併読している。夜や休みの日に普通に読む本と、会社の昼休みなど空いた時間に読み進める本とである。本書は後者。実はこの本の触れ込みが、驚愕のラスト、余程のミステリーの読み手でも看破できないということであったので、遅々と読書をしながら、あれこれ考えて結果を当ててみたいなという気持ちがあったのである。それと批判も聞いていた。描写がだらだらと長いという批判も。確かに720頁。ということで、2ヶ月かかって読んだ本である(読まない日も何日もあった)。

 物語は、ふたつのベクトルがひとつの地点時点に向かって進む。向かう地点時点は1996年のスペインの小さな村パロマレス。

 まずは、ひとつのベクトル。1995年、織部まさる(通称サンティ)は、演奏会で女性ギター奏者ファラオナのギターの音色に気付く。自分も持っているエル・ビエント作のギターであることに。そのギターにまつわる話を聞くうちに、ファラオナはエル・ビエントを探しに、スペインの小さな村パロマレス行くと言い出し、強引な彼女に押し切られサンティも同行することになる。日本発、ファラオナの住むイギリス経由で、二人は翌年、1996年のパロマレスの村に向かっていく。サンティにとっては、友人ホセリートの消息も知りたい事柄である。

 もうひとつのベクトル。1965年古城邦秋(通称ホセリート)は、パロマレスに住むギター製作者エル・ビエントのもとを訪ねる。自分のギターを作って欲しいと。ギター製作には相当の期間が費やされる。その間、トマト畑を営むトマスの家で、家族の一員のようなホセリートの生活が始まる。ところが、この村の上空は米空軍の訓練の場所であり、核弾頭を搭載した機体が給油訓練のミスでこの村に墜落する。4つの核爆弾が落ち(爆発はしない)、内1個がみつからない事態へと発展していく。ホセリートもそれらしき爆弾のそばで、火傷を負ってしまう。たいした火傷ではないのだが、放射能によるものかもしれない。村の作物は放射能汚染の心配も出てくるし、相変わらず1個の核爆弾は見つからない。ホセリートやエル・ビエントはよそ者なので、情報漏れ等のスパイの嫌疑もかけられる。核爆弾は見つかるのか、二人の運命はどうなるのかがこちらのベクトルであり、パロマレスの二人は1996年に向かって時空を進んでいく。

 実は2番目のベクトル、パロマレスで核爆弾が行方不明になるほうの物語で、ソ連のスパイ"ミラマル"が、本部へ米軍の情報漏れを通信したり、アジビラを撒いて村人を困惑させたりの描写が何度も出てくる。2ヶ月かけて読みながら、ミラマルの正体はあいつか、いやあいつもあるな、まさかホセリートが一緒に住んでるトマスではないだろうが一応疑ったことにして、なんていろいろ考えてみたが結局はずれてしまった。おおハズレだった。やられてしまった。

 そして、ミラマルの正体がわかっても、まだ相当数のページが残される。そうだ、そうだ、ホセリートとエル・ビエントは今でも生きているのかなと思いながら、サンティとファラオナの旅に引き戻される。なんせ、放射能で火傷したみたいだったからな、なんて読み進めていくと、驚愕のラスト。えっ、何々、ウソー、そんなあ、凄い、それぞれの読み手の悲鳴が聞こえてきそうである。驚愕のラスト、評者もやられてしまったのである。やられて怒った人もいたそうだが、そんなのないよって。でも、評者は気持ちよくやられましたよ。してやられたあ~って感じでね。

 ラストのどんでん返しのある本。みんな読みたいと思うタイプの本である。騙されんぞと思いながら、まあ、本書を読んで、してやられてくれれば幸いである。

 批判のあった物語の長さの問題であるが、パロマレスの爆弾騒ぎのほうは、確かに冗長さを感じる。話がなかなか展開しない。逆に、場面が切り替わって、ファラオナ、サンティのパロマレス探訪の話になると、こちらは展開にワクワクする。そのふたつのベクトルのバランスや、驚愕のラストのための冗長さを考えると、いたしかたないのかも知れない。だから評価◎◎は、冗長さを含めても◎◎なのである。

※図書館にあり。古書店で散見。評者は本屋で買ったが、表紙の絵が嫌いだったので、買うかどうか迷ってしまった。1999年このミス2位。

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by kotodomo | 2005-06-09 19:09 | 書評 | Trackback(2) | Comments(0)
Tracked from Zero to Hero.. at 2006-05-17 01:27
タイトル : 燃える地の果てに - 逢坂剛
燃える地の果てに〈上〉 逢坂 剛 / 文藝春秋  1960年代、スペインの小さな田舎町パロマレスに、核爆弾を載せた米軍機が墜落した。 落ちた核爆弾は全部で四つ。 最初の三つは発見されたが、残りの一つが見つからない。 事実をひた隠しに必死に捜索する米軍と、これを絶好のチャンスとするソビエトのスパイ。 この街に憧れのギターを手に入れるために訪れていたギタリスト古城は、この街の混乱に巻き込まれていく。   それから約30年後の現代では、古城の友人、織部まさるが、古城がスペインで出会ったギター製...... more
Tracked from 厳選書評ブログ at 2007-04-24 00:23
タイトル : 「燃える地の果てに」(逢坂剛)レビュー
上下巻に分かれていますが、上巻は退屈で読むのに時間がかかり、下巻は一気に読んでしまいました。これほど上・下で読むペースが変わった本も珍しいです。前半は、スペインの田舎町でののんびりとした雰囲気の中、ストーリーの展開も変化が小さく、何となく冗長で、この先どうなることやら…と読みながら心配になったほどでした。しかし、その前半の中に、後半の急展開への絶妙な布石が多く紛れ込んでいたようです。だから、前半退屈だった分、その反動で後半は面白く読めます。そして終盤のどんでん返しも驚愕でした。頭の中を整理するのに時間...... more


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