2005年 06月 10日
主人公の男は、いくつもの種類の名刺を持つ。九段南事務所という自分のオフィスがあるのだが、そこの電話を連絡先にしていない。階下に住む女性を連絡取り次ぎ窓口にしている。実は何種類もの名刺には、それぞれ職種の違う会社名、それぞれ違う自分の偽名が書かれているからであり、オフィスに直接電話連絡されても、どの会社名で、どの偽名で名乗っていいかわからないからである。 だから、窓口の女性の伝言メモを見て、折り返し連絡して商売をするのである。あるときは、アダルトなビデオの訪問販売員だったり、あるときはチラシのポスティング業に携わる者であったり、そしてまたあるときは、、、などと、職業変幻自在、名前も定まらない男である。そんな男と、美しくもチョイト太め、でもくびれているべき所はくびれている、と、どうも想像するに難しい美女がコンビを組む。詐欺師ならぬ世間師として。そうそう、この小説を読みながら、評者はふたつの物語を思い出してしまった。 ひとつは京極夏彦「巷説百物語」。この物語の中では、又市を中心にした一行が、それぞれ役割を演じながら現実世界で芝居を打って、他人の悪行を暴いたり、信賞必罰の黒子になったりする。本書で言うところの世間師と、なんだか役割が似ているようで思い出したのである。本書の二人、男女のコンビは、結局それぞれの役割を演じながら、設計図通りの結果を導こうとする世間師なのである。痴漢を働く男がいれば、ギャフン(死語か?)と言わせるために芝居を打つ。知り合いの店への新規融資に、なかなか頷かない銀行員がいれば、頷くように仕向けるため芝居を打つ。勿論、金を騙し取ったりもするが、あくどいヤツの取られても警察に届けられないような金だけしか相手にせず、決してカヨワイお年よりなどを泣かせるようなことはしないコンビなのである。 もうひとつ思い出したのがモンキー・パンチ「ルパン3世」。主人公の男をルパンとすれば、相棒の女がフ~ジ子ちゅわ~ん♪なのである。主人公の男が、ベタ惚れしているというわけではない。相棒の女がフ~ジ子ちゅわ~ん♪並に、信用に値する人物なのかどうかわからないのである。例えば、二人の報酬として、そのお金が女の懐に入ったとしよう。それが100万だったとしよう。そしたらこの女、"経費が40万かかったから、はい、経費差し引いて半分、60万の半分30万ね♪"と、断りも相談もなく勝手に決めてしまうような女なのである。実際、経費が40万かかったのかどうかさえよくわからないまま、主人公の男は、渋々その金を受け取るはめになるのである。時には、敵か味方かもわからなくなるような女でもある、この相棒の女。評者だったら、フ~ジ子ちゅわ~ん♪とも組まないし、本書の相棒の女とも組まない。信用出来ない。一体、こんな女たちのどこがいいのやら、と思うけど、こんな押しの強い美人が傍にいたら、そうなるのかも知れないなあ(^^ゞ 本書は、連作短編集である。いろんな事に、世間師コンビが挑んでいくので飽きの来ない小説に仕上がっている。大感動もしないかわりに、読んで損したとも思わせない、コンパクトな仕上がりの騙し合い小説なのである。 ※鹿児島市立図書館で借りた本。半日で読み終わってしまったお手軽な本である。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-10 07:58
| 書評
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Comments(2)
Tracked
from いっちゃんの日々
at 2005-12-31 00:01
タイトル : [本の感想]相棒に気をつけろ/逢坂剛
ISBN:4101195161:image ハッタリと出任せには俺も自信があるが、相方は一枚も二枚も上手。ヤクザの香典はパクるわ、地上げ屋の眼前でストリップショウを企むわ、欲深い奴らを手玉にとって涼しい顔。「四面堂遥」この女、タダモノではない……。要領よし、逃げ足早し、正義感少しあり、腕力なし。世渡り上手の世間師コンビが大活躍するウィットたっぷりの痛快短編集。 まぁ。。。。。期待せずに読めばそれなりに時間つぶしとして楽しめる佳作、ということでしょう。 聖月さんは「大感動もしないかわりに...... more
聖月さん、マイドです(^^
またまたトラバさせていただきました~ またまたルパン3世ネタですか(笑)確かにヒロイン=不二子ちゃん説にはうなづけるものがありますね 今年はいろいろとお世話になりました。来年もよろしくお願いします~。
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いや、実は昨日もパチンコなんか行っちゃって、
ルパン3世という台に座ったら大当たり(^O^)/ なんか、今回の帰省は勝っちゃって・・・今日行くかなどうしようかなパチンコ。 ハリポタも読まなきゃだし。 という感じでヨロピクです。 |
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