2005年 06月 10日
今回の書評は、禁じ手を使わせていただく。他の書評の引用という禁じ手を。 当然のことながら、評者も新聞や雑誌の書評をよく読む。気になった本の紹介があれば、雑誌だったら丸ごと保存版にしたり、メモしておいたり、新聞であれば大抵切り抜いてビニールファイルの中に放り込んでいる。ここに本書の書評の記事がある。日経新聞日曜版の書評記事であり、多分2001年中に掲載された記事であると思う。書評執筆者は一橋大学教授米倉誠一郎氏。かなり長い書評の、コピー、書き出し、末文を引用紹介したいと思う。ちなみに本書の副題は「電力王・松永安左エ門の生涯」である。 "コピー:電力王の企業家精神を痛快に。書き出し:痛快!二十一世紀の幕開けに多くのビジネスマン、学生諸君に読んでほしい本である。本書はその副題が示すように、かつて電力王といわれた松永安左エ門の波乱に富んだ一生涯を描いた人物史である。末文:文体も司馬遼太郎氏を彷彿(ほうふつ)させるような温かさがあり、ノンフィクションというよりは水木史観による歴史小説誕生といった方がいいのかも知れない。※下線は評者による" これは面白そうだなあと思っていた評者は、先日ビニールファイルから引っ張りだして、図書館に借りに出かけたのである。鹿児島県立、市立ともに置いてあったので、2冊同時に同じ本を借りてみるのも酔狂かなと思ったのだが、意味がないことに気付きやめた。読後、評価は×にしようかとも思ったが、読んで時間の無駄になるような本でもなく、偉い人が若い人に薦めている本でもあるし、多分面白い人には面白いのだろうななんて思い直し、とりあえず評者の独断偏見の△にとどまったのである。 壱岐に生まれ、慶応義塾で学問し、福沢諭吉に学び、後に諭吉の養子の福沢桃介とつかず離れずとなる起業者精神旺盛な松永安左エ門は、炭の商いを皮切りに、ある時は銀行マンになってみたり、あるときは路面電車の敷設に努力を傾けてみたりしながらも、最終的には日本の電力王となっていく人物である。そして、本書は間違いなく人物史である。そして、ノンフィクションというよりは歴史小説という紹介記事で評者が手にした本書であるが、それに異を唱えたく、上記紹介記事を引用した。評者は、決して歴史小説だとは思わないのである。それを期待して読んだ評者は、歴史小説ではなくガッカリしたのである。 本書は、間違いなくノンフィクションである。著者は、巻末からもわかるように、いろんな文献を参考にして、史実に忠実であるように書いている。そこには、虚構が存在しない。作り話が存在しない。だから、主人公と桃介が大喧嘩したのにまた仲良くなった経緯については、"その理由は詳しくはわからないが"程度の表現しか使っていないので本当にわからない。ノンフィクションだから、それでよい。歴史小説だったら、それではいけない。そこに虚構を、作り話を挿入しないと読者は納得しない。司馬遼太郎を引き合いに出しているが、司馬作品は史実を元にした虚構だから歴史小説なのである。 実在しなかった人物も出てくるし、主人公の境遇をわかりやすくデフォルメして伝えるために、わざわざ敵役を拵(こしら)えたりするのである。そういうのをして歴史小説と呼ぶべきであり、事実だけを並べ、事実と事実が連綿としない部分については資料が存在しないことを伝えるにとどまるのであれば、小説とは呼び難いと評者は思うのだが。 主人公は、戦時下における電力業の官営化に異を唱え、一旦は業界から身をひき、戦後一転、電力業の再編に尽力する。なるほど、評者の住む地は鹿児島。ここは九州電力の管轄地域である。そういえば、関西電力ってえのもあるな。ふむふむ。おお、中部電力ってえのもあるな。なるほど。ということは、関東は関東電力?いえいえ、東京電力。なぜだろう?なぜかしら?という疑問に夜も眠れなくなりそうなそこのあなた、本書を読めばわかりますよ。 ※鹿児島県立図書館で借りた本。市立にもあったのに、なぜ県立から借りたのだろう?なぜだろう?なぜかしら?という疑問に夜も眠れなくなりそうなそこのあなた、県立は貸し出し期間3週間、市立は2週間、期間の長いほうで借りただけなのである。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-10 08:03
| 書評
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Comments(2)
Tracked
from たっくんのすなお日記
at 2005-12-19 06:40
聖月さん、はじめまして。
わざわざトラックバックをありがとうございます。 600冊を超える書評をブログに載せられているのはすごいですね。 松永安左エ門の書評も大変参考になりました。まさに人物論ですね。 今の日本にいてほしい人物だと思いました。 また、寄らせていただきます。 よろしくお願いします。
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たっくんさん おはござです&初めまして(^.^)
いや、こういうマイナーなノンフィクション作品を書評の中から探していただいてTBまでもらえて、なんか嬉しかったですよ。 本書、豪気な感じの人物の物語のようで、イマイチ、ノンフィクションに過ぎて、その辺が伝わってこなかったような印象でした。 関東の電力会社が関東電力ではなく東京電力なる名・・・なるほどなあの一冊でしたね。 |
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