2005年 06月 14日
以前までは、この「本のことども」は毎週水曜日2冊の書評を更新していた。ということは、当時、読んでも書評に挙げなかった作品がたくさんあるのである。特に、図書館で借りて返してしまった本で、殊更にお薦めしなくてもいいかなと思った作品は。 評者の東野圭吾初読は「白夜行」。評価は、既に挙げている通り、そのあざとい手法に唸り感心したのであった。次が「名探偵の掟」。こちらは、既存のミステリーをパロったもので、その切り口に大笑いして読ませていただいた。ところが、それからの東野作品、どうもこのふたつを超える作品に出逢えないでいる。書評に取り上げなかった作品に「秘密」と「片思い」がある。どちらもそれなりに評判になった作品なのだが、先の2作品と比較してしまい、それ以上の評価をできないでいるのだ。要するに、期待をもって読み始め、少しがっかりさせられてしまうのである。その後書評に取り上げた「超殺人事件」にしても、これはパロディ路線の作品なのだが、「名探偵の掟」よりやはり下の評価にならざるを得ないのであった。 それでも、新作が図書館の棚にあると借りてしまう病を持つ評者。今回も、借りてしまい、期待がはずれた本書「レイクサイド」。多分、何か面白い本が読みたいなと思っている程度の読者なら、そこそこ面白いと思われる方も多いとは思うのだが、この作品。評者が、いまひとつと思う点は二つの観点。 まず、登場人物を好きになれない。「秘密」にしろ「片思い」にしろ、本書「レイクサイド」にしろ、その浅薄な考えしかできない登場人物たちの判断に共感を覚えないのである。妻への愛と娘への愛を混同して戸惑う「秘密」の主人公、夫に信頼感を覚えない「片思い」の妻、今回の「レイクサイド」では、夫との関係より仲間との共感に重きを置く主人公の妻と、仲間でありオピニオンリーダーであるところの推理小説好き医師が大嫌いなのである、評者の場合。 次に、気に入らないのが作者のケレンと言うか、意図しようとするところの効果のいやらしさ。「秘密」では娘の肉体に妻の精神が宿るという不思議な設定で、夫婦愛、親子愛を考えさせようとし、「片思い」では性同一障碍を持ち出し、体と心の性の不一致という問題を考えさせようとする。今回は。。。 表紙に英語の題名「The Lakeside Murder Case」と書かれている本書は、「週刊小説」に「もう殺人の森へは行かない」の題名で掲載されていたことからも推察されるとおり、湖畔での殺人事件が題材であり、子供たちが登場する物語である。 受験を目前に控えた親子(夫婦と息子)たちが、進学塾の先生を伴なって湖畔の別荘で合宿をおこなう。子供たちにとっては、受験合宿。大人たちにとっては、少しのバカンスと受験対策の意見交換のための集いである。主人公の男も仕事が忙しい中、その集いに駆けつける。妻は普段から受験の問題で他の夫婦たちとは仲良くしているようなのだが、夫である主人公はその輪の外の存在。意見も噛みあわず、共感も持てないでいると、主人公の愛人であり会社の従業員でもある女性が、忘れ物を持って参りましたとの口実で不意に訪れる。無事追い返すことができたと思った主人公なのだが、結果的に自分の妻がその女性を殺害してしまう。親たちは、受験仲間から殺人者が出ると受験に影響があるとの判断で事件を隠蔽しようとするが、主人公は同意できない。そして。。。 実は、この物語、連載時からの題名からすると、子供たちの視点から物語が進行しそうな気もするが、実際には大人たちの視点からしか物語は語られない。子供たちの描写は、ほんの少し。それでいて、最後には親子愛とは?子供への慈しみとは?そんなことを考えさせようとする作者の意図が鼻につくのである。それに加え、たとえ親しい仲間と一緒であろうと、伴侶の方を大切にすべきだと昔気質の意見を持つ評者には、主人公の妻の所作が堪えられないのである。 先に読んだ友人は、結構面白かったと言っていた。多分、結構面白いのだろう。「白夜行」「名探偵の掟」の呪縛に苦しんでいなければ、この作品が東野圭吾との出逢いの作品であれば、多分評者にとってもそこそこの作品だったんだろうなあ。(20020928) ※鹿児島県立図書館で借りた本。薄めの本なので、3時間で読んでしまった。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-14 20:09
| 書評
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Comments(2)
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from 本を読む女。改訂版
at 2005-10-12 13:06
タイトル : 「レイクサイド」東野圭吾
レイクサイドposted with 簡単リンクくん at 2005.10.12東野 圭吾著実業之日本社 (2002.3)通常2-3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 図書館に行ったら珍しく東野作品が並んでいたので、 お、映画化、と何気に借りてきた本。 あまり期待もしてなかったし、なんか湖のそばで人が死ぬんだろう、 とタイトルどおりのことしか思ってなかった。 えらい実験的な小説だったと少しして気付いた。しまった、イロモノか? ... more
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from 仙丈亭日乘
at 2006-04-04 07:43
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from itchy1976の日記
at 2006-05-23 05:57
タイトル : 東野圭吾『レイクサイド』
レイクサイド文藝春秋このアイテムの詳細を見る 今回は、東野圭吾『レイクサイド』を紹介します。この作品もそれなりには楽しめましたが、何か考えさせる感じがすると同時に親子関係のあり方であり、夫婦関係のあり方であり、子供社会のあり方であり、教育のあり方であり何か釈然としないような感想を持ちました。 事件は、主人公並木俊介の愛人といわれる高階英里子が勉強合宿の最中に殺された。序盤は、死体をどうやって遺棄し、事件をどうやって隠蔽するかということについて、藤間夫妻の考えたシナリオに並木俊介はしぶしぶ従うことに...... more
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from "やぎっちょ"のベストブ..
at 2008-04-28 17:57
タイトル : レイクサイド 東野圭吾
レイクサイド) ■やぎっちょ読書感想文 いいのそんなに穴だらけで・・・と思った 中学受験を控えた子供の合宿、ということで親も一緒に山の中のレイクサイドに来るわけですが。そこで事件が起こります。そりゃ起こります。東野さんの小説だもん。 この死体、なかった...... more
私もこの作品、読みましたが、そこそこ楽しめました。確かに、白夜行などに比べると少し落ちるかもしれませんが。それでも、ちゃんと作者のメッセージが伝わってくるので、どちらかといえば好きな作品です。
この本のレビューも書きました。暇なときに読んでみてください。
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三毛ネコさん こんにちは
もうですね、内容を忘れてしまいました・・・ ただ、子供たちがそこまで、とか、夫婦の関係とか、なんか釈然としなかったことだけ憶えています。 はい、レビュー読みに行きますよ(^.^) |
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