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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 15日

〇「D.O.D」 沢井鯨 小学館 1100円 2002/9

〇「D.O.D」 沢井鯨 小学館 1100円 2002/9_b0037682_1413687.jpg デビュー作「P.I.P(プリズナー イン プノンペン)」を読んだのは、書評家北上次郎氏の書評を読む機会があったからに他ならない。今回、氏は「本の雑誌11月号」の短評で、前作が面白かったので本書「D.O.D(ダイス オア ダイ)」を手に取ったが、あまりにも乱暴である。故に、評価は憚られる的なことを述べている。それを読んだ評者は、何が乱暴なのだろうと首を捻った。それを確かめたくて、久々に新刊を購入した。安いということと、前作が面白かったので期待してという気持ちもあっての購入である。

 読み始めて、前作での賛否がわかれた意見を思い出した。題材としては面白いのだが、文章の未熟さが目立つ等々。前作でのそういう指摘も、評者には作者の持ち味としか映らなかったのだが、今回、本書の書き出し部分で、その文章のあり方が気になった。文体が乱暴なのである。自由過ぎるのである。北上次郎氏が言ったのはこのことか!と思ったが、最後まで読んでそうでないことがわかった。その件についてはのちほど。

 文章が乱暴だと言ったが、これは「本のことども」の書評自体もそうなので、批判できないし、逆に嫌いではない。文体を無視し、話し言葉と書き言葉を混交させ、文中では決して使わないような口語を平気で使い、あるときはシリアスに、またある場面ではオチャラケでと言った文章は、実は好きなのである。自分でも使っている表現方法なのである。他意はない。楽なのである。ただし、頻繁な主語の欠落とか、同じ修飾語を近い部分で使わない等の配慮は、ほんのチョッピリしているのだが。こういった文体が確立されれば芥川賞作家町田康みたいに、文章が売れたりもするのだが。

 前作で、カンボジアを題材に書いた著者だが、今回はフィリピンが舞台である。中国共産党やポル・ポト政権みたいに人を謀ることを奨励するような体制にはなかったフィリピンも、スペインに占領され、アメリカが解放して結局アメリカが自分で占領し、日本が解放して結局日本が自分で占領し、そこにアメリカが"アイ シャル リターン"で再び解放、占領したりしていく中で、おおらかに人を騙す風土が培われてきたようだ。そこへ前作と同じ主人公が潜入し物語りは前作のマニラ版的に進んでいく。

 評者は、前作のどこが面白かったかというと、今まで不勉強でよくわからなかった、ポル・ポトのやってきたことや、最近まで国連が監視に入らないと選挙もできなかったカンボジア事情が、よく理解できたことである。本書では、マルコスからアキノ、最近のエストラーダやアロヨなどへの大統領の流れがよく理解できる。

 1983年、新聞の第一面を飾った"アキノ氏暗殺"の報道に、評者は"アキノ氏って誰?"と思ったものである。マルコス大統領の名前は頭の中にあったのだが、エドサ革命で妻のアキノ大統領が誕生する経緯に触れるまでは、どういう政治をしてきたのか知らなかったのである。マルコス対アキノの選挙でも、広報ではマルコスが勝利をおさめた。しかし、アキノ側も民衆も、不正が行われたと主張し、マラカニアン宮殿への乱入へとつながっていく。事実はそうなのだが、本当に選挙で不正して、そんなに多くの票を偽装できるのか?と思っていた評者の疑問も、本書を読んで氷解した。また、元俳優のエストラーダ大統領の不正蓄財も凄まじいことも理解した。

 え?何が乱暴だと北上次郎氏が言ったのか教えてくれって?主人公たちが窮地に追い詰められる。もう駄目かというときに、空からスーパーマンがやってくる、そんな安易な設定が乱暴だと言っているのである。スーパーマンが出てくるなら、出てくるなりの段取りの書き込みが欠如していて乱暴と表しているのだと思う。ちなみに、このスーパーマンていうのは評者の例えである。

 北上氏は、本書は前作とは似て非なる小説だとも言い切っている。その通りなのだが、フィリピンのお勉強ができたので一応評価は○である。ほんとは、もっと一杯知識を得たかったのだが。少し、物足りなかったかな。(20021027)


※著者は、只今第三作執筆のため、タイ、ミャンマーなど長期潜伏中であるらしい。きっと、次回も、なぜ国名がビルマからミャンマーに変わったのか、アウンサン・スー・チーは民衆から何を求められているのか、今の軍事政権は何をしたいのか、そういったことを勉強できると思って評者は買うだろう。普通の海外案内ではわからない、裏事情が詰め込まれた作品を読んでこその理解のために。

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by kotodomo | 2005-06-15 07:21 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)


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