2005年 06月 18日
メフィスト賞受賞作。前にも紹介したように、京極夏彦作品的な本を、出版者側が原稿持ち込みを前提に、どんどん出していこうと目論んだ賞である。大体、本格(推理)系に属するのだが、その本格性には独自なものが多い。例えば、この賞を産んだといってもいい京極堂シリーズなどは、本格系ではあるけど、独自の世界、スタイルをもって支持されている。本書も然り。この犀川助教授&萌絵シリーズは確実なファン層に支えられている作品である。文庫化されて、シリーズが箱入りで売っているほどである。(そのうち「ハリー・ポッター」シリーズが全巻出版されたら、その全巻がひとつの箱に収めらたやつも売り出されるかもしれない)。 評者は、本書がシリーズ初読、森博嗣(ひろし)初読なのだが、理数系本格派という印象を受けた。評者は、詰め込み教育の中で、数Ⅲ、化学Ⅱ、物理Ⅱまでかじって、大学は文系に入った文理両刀遣いなので、こんな本もそれなりに面白い。エヘン! 冒頭の、天才同士の問答で「1から10までの数字を二組にわけてごらんなさい。両方とも、グループの数字を全部かけ合わせるの。二つの積が等しくなることがありますか?」「ありません。なぜなら、片方のグループには7がありますから、積は7の倍数になりますけど、もう片方には7がないから、等しくはなりません。」この会話を聞いて、深く考えるようなら本書の楽しみがわからないかもしれない。理数的面白さが。深く考えなくても"よう、わからんが。なるほど、そうだ"と感覚で感じて読み進める懐のある読者のほうが、楽しく読めるかもしれない。 「165に3367をかけるといくつかしら?」と訊かれ「555,555ですね。5が6つ並びですね。」の問答に、あわてて電卓をたたきたくなる人、気になって因数分解まで始める人も、本書の向きとは言えないかも知れない。素直に、数字の美しさを感じる人の方が向きかと思う。 文学的な問いかけもある。「思い出と記憶って、どこが違うか知っている?」「思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ。」 本書は、天才コンビが挑む、密室犯罪である。すべてにコンピューターで支配された建物。その密室の謎に挑む素質があるかないかは、上の文中の三つの会話に、魅力を感じるかどうかであろう。評者にとっては、上の三つの会話のみが魅力的だったが(笑)。 ところで「すべてがFになる」のFってなんだろう?これが一番の疑問、一番の読みどころ、興味の的だと思う。物語のすべてが終わり、それでもFの意味がわからなかった人も、間違いなくいるはず。だがこれは、今一度小学算数から、高等学校算数までを勉強しても表面的には出てこない知識。わからなかった人は、要するに理屈を理解する力が自分にはないのだと、そのときは本をブン投げればいい。 評者も、京極作品はよく読むが、いっつも理屈が面倒臭くなり、一回本をブン投げてから、理屈は読まずに読み進めたりする(笑)。 今回は、粗筋なしの書評。だって、結局密室物なんだもの。それだけで充分の粗筋。(20021116) ※掲示板にもちょこちょこ顔を出す、沖縄の大先生に戴いた本である。沖縄の大先生の聖月いとおかし掲示板でのHNは、「み」だったり「聖子」だったりいろいろなのだが、理屈っぽい文章が多いのですぐわかる。さあ、あなたも聖月いとおかし掲示板の過去ログまで遡って大先生を捜せ!(笑)。ちなみに書評紹介済みの「クリシン(クリィティカル進化論)」の著者道田泰司と同一人物でもあるので、捜しあてた人は自分へのご褒美だと思って「クリシン」を買いなさい(笑)売ってってかなあ? 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-18 08:49
| 書評
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from 本を読む女。改訂版
at 2005-06-21 10:06
タイトル : 「すべてがFになる」森博嗣
すべてがFになるposted with 簡単リンクくん at 2005. 6.21森 博嗣講談社 (1998.12)通常24時間以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 森博嗣を一躍有名にしたデビュー作らしいですね。 いやあ、今更読みましたってな感じです。 面白かった。文句なしに面白い。 正直言ってしまうと、Vシリーズとやらを3作読んで、 なんかちょっと飽きてたところなのだった。この作家には。 でも、なんだか現実的で暗い本ばかり読んでた今日この頃、 久...... more
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from + ChiekoaLib..
at 2005-06-22 17:49
タイトル : すべてがFになる―The perfect insider..
すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER森 博嗣講談社 1998-12 王道のミステリー、でした。まさに。孤島で密室で…。すごいトリックで。 うーん。絶句。なぜ思いつくのか、そこがすごいです。 いちおう元理系でUNIXかじったことがあるので、中に出てくる用語くらいは全部わかったのですが、そういう問題じゃなくて頭がこんがらがりました。だって登場人物の名前が難しいんですもん…。 主人公が「犀川創平(さいかわそうへい)」と「西之園萌絵(にしのそのもえ)」。ほら、言...... more
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from ちょっくら読書1000冊..
at 2005-09-27 09:49
タイトル : すべてがFになる
すべてがFになる森 博嗣著講談社 (1996.4)通常2-3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 孤島のハイテク研究所で、完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀... more |
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