2005年 06月 19日
いやあ、期せずして傑作を読んでしまった。読書中が楽しくてしょうがなかった。初めての樋口有介作品、本書『彼女はたぶん魔法を使う』の内容も全然知らずに読み始めた評者だったのである。買ったのは確か4年くらい前で、文庫本を古書店で100円で買ったまま積読だったのだが・・・。 4年くらい前に、このミスのそれまでの全年度版を揃えたときに、本書が91年版のベスト20位ランクイン作品だと把握し、多分そのときの投票者のコメントかなんかに影響されて買った記憶がある評者なのである。そのコメントというのが、『彼女はたぶん魔法を使う』という題名の“たぶん”というのは素敵だ、だから本の内容も素敵だ、みたいな説得性のないものだったのだが、やはり短評コメントはコピー性が勝負で、そのコピーに説得されたような感じで当時買った評者なのである。そして、最近、新刊読みを押さえ始めた評者の読書スタイルとしては、積読本消化の意味もあって、今回本書を手にした次第なのである・・・やはり自分がチョイスして買った本っていうのは面白いじゃないか!面白そうと思って買った本は、やはり面白いじゃないか!ははは!4年前の自分、エライ!!! とにかく本書は、読んでいて心地良い。ミステリーであり、ライトコミカルなハードボイルドである。それも巨悪や犯罪に対峙してのハードさではなく、女性に対してハードなのが中年評者には素敵なのである。 かくいう評者にも、ハードボイルドに女性と接しなければいけないシーンは多々ある。例えば飲み屋、キャバクラやスナックやクラブ・・・。なんかねえ、自分でいうのもなんですけどねえ、たまあにね、店の女給が評者にビビビッ!ときて、態度にもそういうのが現れるときがあって、そういうときは評者はハードボイルドに、それもボギーとかそういう路線ではなくて、もっと呆れられちゃうような路線かなあ、そういう感じで逃れちゃったりするのだなあ。なんか店の女給と話がノッテきて、こっちは連れと仕方なく来ているわけで、だから楽しく喋って、楽しく帰れればと思っていての所作なのだけれども、“なんか、あたし、今日ヘンです♪なんかいつもと違う感じがしちゃって・・・”なんて女の子が言い出した日には“あ、そろそろ帰らなきゃ。明日の朝早いからさ。悪いけど。陸の思い出は楽しかったよ。明日、海が待っているからさ。海の向こうでも待っている・・・”“まあ、船乗りなの♪ウットリ、リン、リン”“そうだよ。カツオ漁船の。あ、マグロの延縄漁のほうが好みだった?”みたいなチャランポランなハードボイルドで逃げまくるのである。 本書の主人公は勿論探偵。元警察、嫁さんと10歳の娘とは別居中(この娘との会話がまたタマラナイ。単身赴任中の評者としては、こういう小娘との会話が小説内に配置されているだけでツボなのである)。そういう彼のもとに、警察が死亡事故としてしか扱ってくれないことに業を煮やした被害者の姉から真相究明の依頼が舞い込む。いい女である。被害者の友人たちに訊き込みを開始する主人公。みんないい女である。むふふ。38歳主人公と、20歳過ぎの女子大生との綾も、むふふ。たまらん!評者もこういう若き女性と冒険をしてみたい!勿論、恋の冒険じゃなく、主人公と一緒で人生の冒険をだ。要するに、下心なんかなくても、登場人物が若く素敵な女性だったら、それはそれで素敵じゃん、っていうことである。東京駅から博多駅までの新幹線片道ドラマの中で、隣に座る登場人物は、そりゃあ男より世話好きな婆さんより、うら若き乙女に越したことはない。ああ、評者は浮気する気なんて毛頭ないけど、この単身赴任生活のどこかに、登場人物として、清楚な賢い23歳くらいの女性なんて現れないものかしら・・・。 なんていう妄想は置いといて、とにかく本書はミステリーとしても、ハードボイルドとしても、また単純に読み物としても、その娯楽性は非常に高く、完成されているといっても過言ではないだろう。10年以上前のこのミス20位ランクイン作品だが、多分今これが新刊として登場したならば、1位になる可能性すらある魅力的な作品なのである。 〇『アヒルと鴨のコインロッカー』伊坂幸太郎で初めてハードボイルドタッチの会話に触れて心地良かったあなた、村上春樹作品群のあの男女の会話の機微が好きだというあなた、大崎善生作品群のあの男女の距離感がよいというそこのあなた、読むべし、読むべし、べし、べし、べし!ですよ。(20050618) ※う~ん、この幸せな読後感・・・いいなあ(^.^)(書評No531) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-19 23:58
| 書評
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Comments(4)
Tracked
from 読んだモノの感想をわりと..
at 2005-06-19 15:26
タイトル : 彼女はたぶん魔法を使う (樋口有介)
柚木草平シリーズの第一弾です。 この作品はまごうかたなき“中年男にとって都合が良すぎる願望充足ファンタジー”です。元刑事でフリーライター兼私立探偵の主人公の柚木草平がハードボイルドに事件を解決しつつ、美女に惑うというお話。 この主人公はかなり女性にもてるのですが、ぜんぜん嫌味じゃありません。というのも、これってどう見てもモテる男を描いた小説ではなくて、作者がモテたい願望を主人公に託した作品だから。しかも、アダルトにもてたいというよりも、中学生の恋愛みたく美女にチャラチャラとときめきたいみた...... more
Tracked
from しんちゃんの買い物帳
at 2007-11-13 17:50
タイトル : 「彼女はたぶん魔法を使う」樋口有介
彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)樋口 有介 (2006/07/22)東京創元社 この商品の詳細を見る 何故今まで読まなかったのか、悔やまれる作品だ。自分のバカ、バカ、おバカーー。 10歳の娘・加奈子と、マスコミなどで... more
「期せずして読んでしまった」というところがぼくと同じですね。ミステリとしての部分に変なひねりがなくストレートで、主人公と女性たちの会話で読ませる。こういうのは好きです。
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ディックさん こんにちは
今更自分の感想読んで、なんですぐ2作目読まなかったんだろうと後悔しています。1作目の内容、ほとんど忘れちゃったし・・・ でも、これから樋口作品、なるべくたくさん読みまする。
同じような衝撃を受けました。こんなに面白い本を見逃していたなんて勿体無い。いやー、良かった!
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