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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 19日

△「第三の嘘」 アゴタ・クリストフ ハヤカワepi文庫 620円 2002/3

△「第三の嘘」 アゴタ・クリストフ ハヤカワepi文庫 620円 2002/3_b0037682_13424445.jpg あなたはカラオケスナック(古いか?)に行って、得意な藤山一郎の「丘を越えて」を頼んだつもりが、小泉今日子の「丘を越えて」を店の女給に入れられてしまい、ええい、それでも同じ曲なんだろう!歌っちまえ!と思ったけど、全然違った曲で歌えなかったという経験はないだろうか。えっ?ない?評者はある。

 あなたはお気に入りの島崎藤村の詩、まだあげ初めし前髪ので始まる「初恋」をそらんじることができるほど、心の中で大切にしていたのに、それに曲をつけて舟木一夫が"まあだ~あ~げそ~めしい~♪"と歌っているのを耳にして、ええい、こんな素敵な曲になんて変な節をつけて歌うんだ!台無しじゃないかと怒った経験はないだろうか。えっ?ない?「初恋」の詩は知ってても舟木一夫が歌っているのは知らない?評者は知っているし、そんな経験がある。

 じゃあ、もっと最近の話題で。えへん。あなたはカラオケボックス(少し新しいか?カラボと表現してもいいぞ)に行って、得意の泉谷しげるの「春夏秋冬」を自分で間違いなく入れたのはいいが、自分が知っている「春夏秋冬」の伴走ではなく、後にリメイクしたバージョンの「春夏秋冬」がかかってしまい、こんな感じの歌じゃないのになあ、と思いながら、興醒めしながら歌った経験はないだろうか。えっ?ない?まだ、話が古い?言いたいことがわからない?でも、評者はそんな経験がある。

 ええい。最新の話題で。あなたは昔好きだったグループサウンズの「亜麻色の髪の乙女」を、ちゃらちゃらした女歌うたいがテレビで歌っているのを見て、なんじゃ、こりゃ!俺の青春の歌をこんな歌い方しやがって!そこはかとなく甘酸っぱい歌を、そんな腰振り振り元気よく歌いやがって!もともと、そんな歌い方する歌じゃないんじゃ!ボケ!なにが亜麻色だ!このアマ、イロけ出しやがって!一発すけこますぞ!ストーカーしたろかい!と思った経験はないだろうか。えっ?ある!評者はない(笑)

 本書「第三の嘘」を読んで、そのまま"これこそが「悪童日記」三部作だ"と解釈してしまうと、第一作「悪童日記」の価値が台無しになってしまう、そういう物語である。「悪童日記」は名作であり、純文学である。読後、感じるものがある。評者は常々言っているが、純文学を読んで、これはどういう意味だろうとか、意味がわからないとか思ってはいけない。ただ、本を閉じて沁みてくるものを感じればいいのである。感じたものを言葉にすることは、読書という楽しい行為において必要ないと思っている。

 著者はインタビューに答えて、第一作「悪童日記」を書き終えたあとも、第二作「ふたりの証拠」を書き終えたあとも、その時点で続編を書くアイディアはなかったという。それなのに完成された名作「悪童日記」のあとに、続編、続々編とひねり出してしまったのである。二作目「ふたりの証拠」は、一作目の続編であり、評者は変奏曲、もしくは編曲された物語と感じた。本書「第三の嘘」は、一作目を曲解させる物語である。

 「悪童日記」では、二人の兄弟が主人公ながら、"僕たち"という一人称の呼称で物語が進んでいく。「ふたりの証拠」では、兄弟のうちの片方のその後の視点で物語が進む。そして本書「第三の嘘」では、もう片方の"僕たち"の視点で語られていく。そこまでは、作風の設定の上での工夫と呼べる。しかしながら、「ふたりの証拠」で「悪童日記」で描かれたことを替え歌風に謎めかし、本書「第三の嘘」で全然違った解釈を与えようとする著者の目論見が評者にはわからない。名作を否定してでも続編を書ければいいのかと問いたい。

 まあしかし、これは評者が「悪童日記」を読了後感じたことを大事にしたいだけで、著者や「悪童日記」三部作のファンは、また違った捉え方をしているのだろうとも思う。

 薦めもしないし、読むなとも言わない本である。でも「悪童日記」を読んだあとで、実は三部作なのだと知ると、つい読みたくなってしまう続編、続々編である。ひとつだけ言っておきたいのは、三部作全部を読んだときに、「悪童日記」を読んだときに感じたものを否定しないことである。「悪童日記」は完成された物語である。「悪童日記」三部作は、また別の作品だと思ってほしい。(20021206)


※評者の手元にあるのは、1992年初版の単行本で、古書店で300円で買ったものである。「悪童日記」をハヤカワepi文庫で買ったあと、すぐに古書店で揃えた続編、続々編である。評者もやはり、読みたかったのである。

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by kotodomo | 2005-06-19 10:36 | 書評 | Trackback(2) | Comments(2)
Tracked from Ciel Bleu at 2006-03-28 06:34
タイトル : 「ふたりの証拠」「第三の証拠」アゴタ・クリストフ
  「悪童日記」(感想)に始まる3部作の、2作目と3作目。早速買ってきて読んだんですが… いやあ、もうびっくり。もうすっかり振り回されてしまいました。でも、色々書きたいことはあるんですけど、下手なことを書いたらネタバレになりかねないので、ここにはあまり書けそうにないです… それでも今度の2冊は「悪童日記」とは、また雰囲気がまるで違っていて驚かされたし、途中何度「これまで読んできたものは一体…?!」となったことか。全部読み終えてみると、「悪童日記」の「ぼくら」が痛々しすぎる…。好き嫌い度で言えば「悪童...... more
Tracked from Ciel Bleu at 2006-04-02 07:21
タイトル : 「ふたりの証拠」「第三の証拠」アゴタ・クリストフ
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Commented by 四季 at 2006-03-28 06:40 x
無理矢理続編とまでは思わなかったんですけど(笑)、やっぱり「悪童日記」がダントツですね。それにこれを読んだら、絶対続きも読みたくなりますよぅ! そういう意味では、続編2作を刊行することに決めたepi文庫の責任は重大。(笑)

本家ブログからのTBは、もう少し待ってて下さいねー。
Commented by 聖月 at 2006-03-28 07:09 x
四季さん、なんかブログがトラブルのようで大変ですね。
『悪童日記』は嫁さんにも薦めました。嫁さんの言うには、最初子供たちを応援していたのに、悪がきで頭来たって(笑)

『悪童日記』は他の2作にくらべて、サクサクなのに味があるところが魅力ですね(^.^)


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