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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 19日

◎「狐罠」 北森鴻 講談社文庫 743円 2000/5


 評者はあまりテレビを観ないと以前より書いてはいるが、まったく観ないわけではない。たまにお茶の間で飲酒したりメシ食らったりしていて、娘たちが特にテレビやビデオを観ようとしなければ、自分でチャンネルを合わせたりもする。そして、そういう時間帯に放映していれば必ず合わせる番組がある。ひとつは『どっちの料理ショー』。ふたつの料理を競いあって作り、さてあなたはどっちを食べたいか?ってあの番組である。最終的に自分はゲスト参加者ではないので、「さぞや旨いことだろう。今回勝った究極のカツ丼。負けた天丼もうまそうだったが。」なんて思うだけで、けっして賞味できないのだが、それでも興味深く観ている。影響を受けることも多々あり、翌日の夕食にカツ丼を頼んだりもする。もうひとつの番組は『開運!なんでも鑑定団』である。あの骨董品とか古いおもちゃとか持ち寄って、専門家が鑑定してくれて、価値を教えてくれる番組である。ちょっとした古い焼き物などが1000万円なんて評価が下されると、評者の家にも何か骨董価値のありそうなものなかったかしら?と思うのだが、どう考えてみてもありそうにない。あっ!そうだ!確か実家に35年前くらいに買った、自動缶切りの機械があったはず!と思って先日捜してみたが処分されていた。残念。この珍妙なる機械、大きさは分厚い単行本といった感じで、機械のある部分に缶詰を装着してレバーを引けば、缶が自動的に開けられるという当時としては画期的な家庭用製品で、でも何で缶切りで開けないの?そっちの方が早いのに、といったあまり実用性のない珍品だったのだが。それに加え、缶詰を開けるために、その数倍も大きい機械で開けることに意味があるのか?という奇妙な機械だったのだが。

 ところで、この『開運!なんでも鑑定団』という番組には、様々なお宝が持ちこまれる。見ていて一番わかりやすいのが古いおもちゃ。ああ、確か自分もゴジラのこんな自動で歩いたり吼えたりするおもちゃ持ってたよ。おお、テレビに出てるやつは新品同様だ。さぞかしマニアが欲しがりそうなシロモノだ。50万くらいするかな?エッ!5万。なるほど、結構今でも現存しているのが多いのか、だからそんな高くないのだなあ、なんて思いながら見るわけである。逆に、パッと見て、わかりにくいのが壺やら絵皿やらの骨董品である。でも、プロの鑑定士のわかりやすい薀蓄を聞くと、なるほどと思って面白い。そう、普段は興味を持たずにいる骨董も、専門家のわかりやすい解説がつくと、面白いものだなあと感心しながら、自分が知らずにいる世界の知識が脳みそを刺激してくれて楽しいのである。刺激されたついでに、その手の趣味に入っていく人もけっして皆無ではないだろう。本書『狐罠』も、そういった骨董の世界に題材をとった作品である。普段、自分が知らない世界ながら、作者のほどよい薀蓄の披露や、くそ難しくない説明が知識欲を心地良く刺激してくれる作品である。一応ミステリーなのだが、ミステリーとしての完成度より、そういった部分が評者のツボにはまった一冊である。勿論、ミステリー風味の仕立ては人それぞれ好悪があるだろうが、謎解きミステリーとしての完成度も相当高い物語である。評者にとってもページを繰る手が止まらなかった物語なのである。

 主人公の陶子は、骨董の世界ではまだ若いながら、「籏師」としてその生計をたてている。籏師とは、店舗を持たず、一般客のみならず、業者間の品物流通を手掛けるバイヤー的存在を兼任する骨董商である。冒頭で、陶子は銀座の骨董商の橘薫(きくん)堂から、発掘物の硝子碗を買い受けるのだが、家に帰って包みを開けると「…?ヤ・ラ・レ・タ」と唸る。目利き殺しを仕掛けられたのである。陶子も若くにして相当の目利きなのだが、この業界にはその目利きを相手にして偽物をつかませる仕掛けが多々あるのである。払ったお金よりも、目利き殺しにまんまと引っ掛かったことで、陶子は橘薫堂への目利き殺しの仕返しを決心する。ここで、評者がいろいろな目利き殺しの方法や、業界の面白い部分を紹介してもいいのだが、それじゃあ読書の楽しみが半減するので、二点だけ紹介しよう。

 まずは、よく考えれば当たり前の話なのだが、骨董商の世界は保険会社と切っても切れない関係にある。当然、高価なお宝にはそれに見合った保険をかけるのだが、陳腐な品物にも高価な保険をかけて、その保険の金額を素人に見せて高いものだと錯覚させることができるのである。しかし、この手、プロ同士ではあまり通用しない。目利きでわかってしまうし、現代においては科学的な機械を使用すれば、真偽の部分が相当判明するからである。

 もうひとつ。古い建物、例えば室町時代よりあるような寺社仏閣を取り壊すようなことがあれば、その解体材を買い受ける業者がいる。室町時代の骨董を偽造するときに使用するためである。これなら科学的な方法を用いても、その材質においては年代に対する疑いが生じないからである。

 骨董を扱う話。主人公の名が陶子。なんか、陶器と結びつけたみたいでお洒落じゃないなと思った評者だが、そんなことはなかった。若手の美しい女性の籏師としての屋号は冬狐(とうこ)堂。題名は『狐罠』。どう?お洒落でしょ。違うかな?

 文体は、透明感があり秀逸。何か面白い本をお捜しのあなた。本書がそれである。北森鴻?聞いたことない。『狐罠』?聞いたことない。そうおっしゃらず、評者を信じなさい。(20030119)


※2002年本書の続編にあたる『狐闇』が結構評判をとったので、読んでみた作品である。評者は1997/5発行の単行本を鹿児島市立図書館で借りた。シリーズ続編が評判をとったら、シリーズ一作目を読む。ひとつの読書の方法である。

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by kotodomo | 2005-06-19 17:26 | 書評 | Trackback(2) | Comments(0)
Tracked from 本を読む女。改訂版 at 2005-06-20 08:35
タイトル : 「狐罠」北森鴻
狐罠posted with 簡単リンクくん at 2005. 6.16北森 鴻講談社 (2000.5)通常2〜3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 読み応えあるミステリーでした。これでこの作家にはまった私です。 なんでも鑑定団のおかげですっかり大衆化された「骨董」の世界、ですが プロの骨董屋の世界のどろどろしいこと。 特殊な世界の内幕もみれて、知識欲も満足、そしてミステリでも満足。 二度美味しいですわ。 ... more
Tracked from 仙丈亭日乘 at 2006-05-14 21:53
タイトル : 「狐罠」 北森鴻
「狐罠」 北森鴻 お薦め度:☆☆☆☆+α 2006年5月4日読了... more


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