2005年 06月 19日
いわゆる時空を越えた物語である。時空を越えた物語は、これまでいろんな作品が数え切れないほど発表されてきたことだろう。タイムマシンで未来へ行く作品、逆に過去へ飛ぶ話、異次元へ迷い込む話などなど。なかでも評者が好きな作品に『リプレイ』ケン・グリムウッドがある。43歳で死んだ主人公が、瞬時に18歳の当時へ舞い戻り、自分の人生をもう一度やり直す。人間誰しも、人生をもう一度やり直せたらという局面があると思う。その人生を、もう一度やり直す主人公は43歳になったとき、またしても死んでしまい、まてしても18歳の自分へ戻ってしまう。そして…。なんとも味わい深い物語で、評価は◎◎であることも付け加えておこう。 本書『ファーニー』は時空を越えた物語であるのだが、現在の事象でしか物語は進行しない。輪廻転生を繰り返してきた男女二人の今の物語であり、時空を超えた部分は過去の記憶として語られるのみである。まだ若い歴史学者マイクとその妻ギャリーの夫婦は、新しく田舎に居を定める。その引っ越した先で出会った老人ファーニー(男性である、おじいさんである)が、不思議なことを少しずつギャリーに話し始める。自分とあなたは、前世から夫婦であったと。そして、老人が過去のことを話すにつれ、少しずつ記憶が甦るギャリー、そんな不思議なお話なのである。 話としては、1300年も過去に遡る年代記的要素も持ち合わすので、そこに出てくる実際の歴史に照らしあわせた衒学的記述も本書の魅力であろう。舞台はイギリス。イギリスの歴史に詳しい読者なら(って、詳しい人はそういないだろう。評者もぜ~んぜん詳しくない。耳新しい話ばかりであった)、本筋に加え楽しめるところだろう(要するに評者には少しかったるかった)。 結構、いろんなところで評価が高い本書なのだが、評者の評価が低くなったのは、別に歴史に疎くかったるかったからではない。実はイライラしながら本書を読んだからなのである。評者は、物語の中心に夫婦が出てくると、その妻には夫に対して誠実であることを勝手に願う。本書の主人公ギャリーは、次第に老ファーニーに共感を覚えるようになり、逆に夫マイクに対して不誠実ではないにしても、心のどこかで自分の老人に対する共感を悟られまいと、表面を繕う。そこがイライラしたのである。考えてもみなさい。自分の嫁さんが、近所のわけのわからん爺さんに共感を覚え、気にするのなんてイヤじゃないですか。たとえ爺さんが、もうヨボヨボで肝心なとこもフニャフニャであったとしてもだ。やはり、自分を拠り所にしてほしいと思うのである。だから、イライライライラしながら読んだのである。 たとえ死んでも、次の世で必ず出会い、惹かれあう男女。自分が、来世で嫁さんと出会ったらと想像する評者なのであった。多分、今の嫁さんと結婚するだろう。そして、悲しませたり心配させたりしてきたことを、極力排除しながら二人の幸せを…。(20030207) ※発売当時、少し話題になり気になって買ったままの積読本が本書である。次の積読本消化予定(会社の昼休み30分用、読めない日も多いが)は『夜の終わる場所』クレイグ・ホールデンである。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-19 17:35
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