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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 26日

◎「砂楼に登りし者たち」 獅子宮敏彦 東京創元社 1575円 2005/4


 中学3年のときの担任が歴史の先生で、日本史を教えていく中、時の統治者が変わるたびに、天下を取るとかそういう表現を使わず、必ず、チャンピオンになったという表現を使っていたのを覚えている。このとき信長がチャンピオンになったわけでとか、光秀のチャンピオンの座は僅かにしてとか。例えばボクシングのチャンピオンとか考えたときも、歴史の武将たちと同じく、いつかそれはとって変わられる地位である。武将たちもボクサーも登りつめてチャンピオンになるも、その栄光、栄華は決して永遠に続かない。まるで、砂楼に登りつめ、チャンピオンフラッグを掴んだのも束の間、その砂楼が崩れだし、後から来た者にフラッグを奪われていくように。

 本書は室町幕府崩壊から、信長、光秀、秀吉が砂楼に登りつめていく時代を背景にして書かれたミステリーである。作者の言葉を借りれば、戦国伝記風のストーリーに真正面から不可能犯罪のトリックを絡ませるという余り馴染みのないスタイルということだ。4つの短編が収録されており、諸国を旅する大老人にして名医の残夢の怪事件解決の物語集である。この老人、笑うとき“ふぉっ!ふぉっ!ふぉっ!”と水戸黄門にでも出てきそうな御仁である。

 「諏訪堕天使宮」では、美しき武将である王姫が小屋の中から忽然と姿を消し、「美濃蛇念堂」では、雪の庭で他の足跡が残ることなく家老が殺害され、「大和幻争伝」では、首を断たれた死体が衆人環視の中で立ち上がり、最後の「織田瀆神譜」では、その主人公たる残夢まで消えてしまうという、まごうことなきミステリー連作短編集なのである。

 文体は、重すぎず軽すぎない、読みやすい時代小説の風情。トリックも人物たちの配置も違和感のない構成。ただし、この手の小説で、いつも評者が気にする部分が弱いのだなあ。それは、動機や必然性。そんな動機でそんなことするのかなあ?そこまでする必要性があったのかなあ?そういう部分である。だからして、評価は◎止まり。同じく東京創元社@ミステリ・フロンティアで出された○『消えた山高帽子』翔田寛と雰囲気が似ていなくもないと言えば、わかる人にはわかるかもしれないが。

 軽すぎる小説は好まない。でもミステリーは好きという読者には、好まれる良書であろう。(20050626)

※最後に主人公が消えてしまうという前代未聞の終り方に、シリーズ化はない!と断言しよう(笑)でも、外伝とか時を遡ってっていうのは可能だけど(^.^)(書評No535)

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by kotodomo | 2005-06-26 23:12 | 書評 | Trackback | Comments(0)


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