2005年 06月 30日
初吉本ばななである。村上春樹を「本当は読書人でないイケスカナイやつらがファッションで読む本」と頭から思い込み、最近になって読んでよかったと感動しているところへ、吉本ばななである。吉本ばななは「本当は読書人でない頭スッカラカンの女どもが、わかる、わかる、私わかるなあ、この気持ちってな程度の共感本」だと頭から思っていたのだが、いやあ読んでよかった。『インストール』の綿矢りさの才能がどうのこうのと褒めちぎっていた自分、俺、吉本ばななはどうよ?凄いね。上手いね。天賦の才だね。これが小説だね。 ところで、読もうと思ったきっかけは、リンク先の四季さんが、以前読んだ本書を再度読んで、"いや、この本はいい。とってもいい。枕の中に入れて眠りたい…"ウソウソ(笑)とにかく、しんみりと高い評価をしていたからである。しんみりと評価されると、実は評者、とっても読みたくなるのです。では、早速図書館へ、いざいざいざ! 図書館から借りてきたのは、単行本のほう。1988年の刊行。今からざっと15年前。当然、本自体は少しボロくなっている。いや、それより驚いたのは、後ろの扉に「図書貸し出しカード」が付いているのだ。今は、手持ちの個人図書カードと、本のバーコードで、ピッッピノピと借りれるのだが、当時は手書きで借りていたのね。なんて驚きながら、いつ読もうと思っていたら、他の本に手間取って返却期限到来。再度、借りてきて、書斎で読書していたら、トイレへ行きたくなる。長いほう。で、書斎に戻ってみると、嫁さんが無断侵入しているではないか。トイレに座っているとき、何か嫁さんの気配がしておったが…と嫁さんの手を見ると、何か持ってる。"何?それ?"な、な、な、なんと!それは!!!『哀しい予感』吉本ばななであった。それもボロくない綺麗な本。なんでも、妹が県外に出て行った際に置いていった本(嫁さんの実家は、我が家の隣。評者はマスオさんと呼ばれている)で、評者がトイレで哲学している間に机の上のボロい本を見て"なんだ、吉本ばなななら、妹が置いていった本がたくさんあるはず♪"と捜して持ってきてくれたのである。机の上に『哀しい予感』が二冊。はい、ここで問題です。あなたなら、読みかけのボロい図書館本を読み続けますか?それとも、気分一新、綺麗なほうの本を読みますか?あなたならドッチ?評者は、ボロい本を読み続けた。深い意味はないが、今まで読んでいた本がそれだったからである。普通、そうしないかな、人によって違うかな? ところで本書『哀しい予感』は、大きくふたつの意味で好きである。ひとつは題材に、世界最強の家族が描かれていることである。伊坂幸太郎の『重力ピエロ』の書評でも書いた表現だが、世界最強の家族とは、こういうことである。これが私の父です、これが私の娘です、これが私の弟です、と胸を張って家族全員がそれぞれを誇れる関係にあるということである。そして、会話を通り越したお互いの理解が、そこには存在する。家族ひとりひとりが、愛情に満ち溢れ、ハードボイルドな強さを持っているのである。本書内に登場する、私、母、父、弟、おばの関係はまさしくこの通り。本書は世界最強の家族の物語である。 好きな理由のもうひとつは、これはもう吉本ばななの筆致、筆の才。こんなに洗練された無駄なく美しい文章を書く人だとは知りませんでした、私。共感本なんて、頭から決めつけていて御免なさい。いや、しかしこれは才能ですね。今まで、こんなにひとつひとつの言葉を大事にしている小説は読んだことがない。四季さんが再度読んだというのも頷ける。多分、今すぐ評者が読み返しても、新たな言葉の響きが聴こえてきそうな、そんな無駄なく美しく大事な言葉が使われている本書である。 そんな本書を読んでいて、全然関係ないはずなのだけど、少し昔のことを思い出した評者である。まだ結婚して間もない頃、外で飲む機会があって、結婚して初めて夜タクシーで帰った晩、家の前を照らすタクシーのヘッドライトの中に、佇む姿は寝巻き姿の嫁さん。車から降りると"お帰りなさい♪"首にかかっているのは双眼鏡。"もう帰ってくるかなあと思って、やって来る車をずっと双眼鏡でみていたの。でも楽しかった♪""どのくらい待っていたの?""1時間くらい♪" 粗筋は書かない。吉本ばななは「本当は読書人でない頭スッカラカンの女どもが、わかる、わかる、私わかるなあ、この気持ちってな程度の共感本」だと頭から思っていて、読まず嫌いなそこのあなた。しんみりと言おう。読むべし。(20031123) ※嫁さんの妹の蔵書から、あら『キッチン』が。あら『白川夜船』が。家にあるとすぐ積読しちゃうから、無かったことにして、やっぱ借りてこようかなあ。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-30 14:34
| 書評
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Comments(2)
私も「しょせん流行モノ!」と馬鹿にして読まなかったクチなのですが、(それって「私は頭スッカラカンじゃないわよ!」って言いたかったってことで、今となっては恥ずかしい…。)、今では「ばななさんナシの人生なんてありえない!」というくらいのものです。
変れば変るものですね、人って…!
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そうそう、みんなが読んでいると、そんな簡単そうな本読んで面白い♪って共感してなんざんしょ?自分なんか、しっかりした読書してまんねん、とついわけわかんない方言でつぶやいて・・・しまわないか(笑)
しかし、この本は良かった(^.^) でも、それからあまりばななさん読んでないなあ。 |
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