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「本のことども」by聖月

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2005年 07月 01日

▲「密やかな結晶」 小川洋子 講談社文庫 720円 1999/8


 独特の静かな箱庭設定の本書である。いしいしんじ『プラネタリウムのふたご』やアゴタ・クリストフ『悪童日記』がそうであったように、どこか無国籍、どこか不可思議な大人の童話なのである。

 主人公はある島に住む若い女性。仕事は小説家。この島は不思議な島で、ある日それまで普通にあったものが、自然に存在しなくなってしまう。ある朝目覚めると、鳥という存在がなくなってしまう。勿論、鳥かごやら鳥類図鑑などは残ってしまうのだが、人々はなくなってしまったものには認識が持てなくなり、そういうものはもう燃やしたり捨てたりしてしまう。だから、鳥の存在がなくなると、それにまつわるものもなくなり、最後には認識もまったくなくなってしまう。あとから、わずかに残されたものを見ても、これは何だろうみたいな感じになってしまうのである。そういう不思議な島のお話である。ある日、写真がなくなる。そしてある日、本というものがなくなってしまう。主人公の女性は小説の仕事もできなくなってしまう。なくなって、なくなって、なくなるだけのお話。それだけで400頁。300頁くらいなくなってもよかったのかな(笑)。非常に退屈さを感じた評者なのでした。しかし・・・。

 こういう現実はありまっせ。いつのまにかなくなったもの。今見ても、その使い方、存在意義さえわからなくなったもの。前にも書いたと思うけど、評者が鹿児島を離れる前まで乗っていた、安物の業務用アルト。その車に上の娘と乗ったとき"パパ、窓開けたいんだけどどうすればいいの?このなんか変なの動かすの?"これだけパワーウィンドウが普及すると、もう手動でクルクル窓を上げ下げするあの部分の使い方さえわからなくなってしまう世の中なのである。評者も呼称すら出てこない。取っ手かなあ?テレビからチャンンネルが消えて久しいし、昔の黒電話を娘たちの前に置いたら、はたしてダイヤルまわしてかけられるかな?レコードはまだその存在意義がありそうだけど、評者はLDを持っている。レーザーディスク。あのおっきい円盤。あれを娘たちに見せたら何だと思うかな?結局、世代交代で、新しいものにとって変わられている現在なのである。

 本書の島では、なくなってしまったものの変わりが出現しない。だから、どこか物悲しい島のお話なのである。(20040731)

※少し、小川洋子に飽きてきました。やっぱり『博士の愛した数式』がベストなのかな。

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by kotodomo | 2005-07-01 13:11 | 書評 | Trackback(2) | Comments(0)


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