「本のことども」by聖月

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2005年 07月 30日

◎◎「国家の罠」 佐藤優 新潮社 1680円 2005/3


 いやあ、実に面白かった。副題に「外務省のラスプーチンと呼ばれて」とあるようにノンフィクションの手記なのだが、ロジック小説もしくは異世界探訪教本としても秀逸。最初副題見たときは『「本のことども」by聖月-伝説のブログと呼ばれて』(笑)みたいに、嘯くような自己顕示の塊のような内容かと思っていたのだが、至って精緻、極めて丁寧というのが全体の印象である。著者は国会議員鈴木宗男が逮捕された事件に先んじて国家に絡め取られた元外務省主任分析官である。まあ、自分は逮捕されたけど、こういう言い分があるんだという主観的で一方的な手記と断じてしまえばそれでお終いなのだけど、読み進めるうちに“こいつ悪くないんじゃないの?運が悪かっただけなんじゃないの?”と思わせてくれるから、売文家としても中々のレベルの私小説に仕上がっているのである。

 ところで、評者はスーパーサラリーマンなので、政治の流れは時事わかっているつもりでも、その裏にあるもの、もしくは政局といわれるものまでは精通しているとはいえない。だから、本書に書かれているあの政治シーンは、なるほどそういうことだったのかあ、と何度も気付かされた政治、外交という異世界の覗き見体験は、中々に楽しいものであったぞ。田中真紀子対鈴木宗男の国会対決のシーンは、今も記憶に新しい。ワイドショーは見ない評者なので、その裏でどんな尾ひれがついた茶番解説があったのかまでは知らないが、当時の心象は評者なりにあった。

 まず、田中真紀子。小泉純一郎を男にして、カリスマ性のある発言で人気があることは認める。しかしながら“外務省は伏魔殿”という組織印象を述べたまでだったらまだしも、“事務方が・・・”と身内批判に終始したり、指輪を無くしただけで国会に影響を与えたり、部屋に籠もって出てこなかったりというような事実だけでも、単なる我儘なオバサンやないかと感じていた評者である。

 一方、鈴木宗男。なんで外務大臣がいるのに、こんな中年スケベオヤジの代表みたいな顔の男が外務省を代弁するの?なんでムネオハウスなんてあんの?すっげえ慇懃無礼の代表みたいな顔して(って、どうもこの人の顔にはイチャモンつけたくなるんだなあ)。ああ!外務官僚を恫喝。やっぱり!企業との収賄。やっぱり!やっぱり、悪いやつやんか。

 ところが本書を読むと、当時の二人の裏側にあったものが見えてきて、その構図も変わってくるので不思議。田中真紀子は本書を読んでもただの我儘なオバサンであることに変わりはなかったが、鈴木宗男は立派に見えてくるから、あら不思議。日本の外交政策の機微をうまく舵取り、北方領土というものの実現可能な返還に向けて尽力してきた政治姿勢は立派。その実現に向けて、搦手までを視野に入れた情報分析に尽力する著者も立派。そして、誰もがやってきたような力の政治、ワザの外交が、運悪く罪に問われる。罪に問うて時代を一新しようとする国家の罠に嵌まって。

 って、ここまで書くと悪いやつが自己正当化のために書いた文章?と思うかもしれないが、著者のスタンスは冷静である。冤罪ではないという。罪は犯しているという。そしてそれを罪に問おうというベクトルが働いたという。そういう、国家がその気になれば、誰でも逮捕されるという論調は一理ある。

 自分は捕まることはしていない。捕まったら、それは冤罪・・・そう思っているそこのあなた、果たしてそういう言い逃れることができるかな?例えば、評者は以前、グループ3社の経理を掌っていたことがある。決算期、プレーンな決算書を最初でトップにあげる。数字が間違いなければOKのはずなのに、なぜかトップのOKは端から出ることはない。3回くらいやりとりして最終の数字が決定する。これは、日本のある程度の大きさの企業ならばどこもそう。数字は正直だといっても、最終的な決算書には間違いなく誰かの恣意が入っていると言っていいだろう。ということは、組織トップの指示で何回か決算書に修正を加えた結果、経理に携わる多くのひとが粉飾の手助けをしていることになる。自分は悪くない、トップが・・・国家はトップを逮捕するために、まずあなたを逮捕するだろう。

 自分は数字は扱わないしと安心しているそこのあなた。上司にプレゼン資料を作れと言われ、こんなんじゃダメだ!もっと如何にも成功を見込めるような、そんな風なのじゃないとダメだ!と何度も作り直させられて、最後にやっと承認。そのプレゼン先がどこかの行政組織で、引き出したお金が有効に生きず・・・そんなことになれば、あなたこそ行政を騙す資料を作った張本人。自分は悪くない、組織が、トップが、上司が・・・とりあえずは、あなたの罪を問うて上層部へ追求の手を伸ばそうというのが普通なのだよ。
 
 日本道路公団の談合も然り。今まで歴代やってきたのに、なんで自分が・・・。そりゃあ、時効にかかっていないのはあんただし、検挙しようと思ったのは今だし、そこにあんたが居たんだし、実際に罪だし・・・運が悪いのである。巨悪なんだから、運がどうのこうのじゃなくて、と思われるかもしれないが、組織の中で当たり前にやってきた、やらされてきたことが、ある日、罪に問われることはあるのだよ。他の人だってやってる!っていう話には耳は貸さないよ。今のその罪を問うてるわけだから。駐車違反で捕まって、自分だけじゃないのに、他のやつは、って言ってもだめなのと一緒。運が悪かった。ただそれだけなのである。

 と、噛み砕いて説明してみたが、どやろ?わかったかいな?実際には、著者の精緻な文章と構成で全体はまとまっており、外交、政治、検察、官僚、そういった今まで膚で感じていなかった世界を、論理的に垣間見せてくれる優れた教本の側面も持つ本書。ジャーナリズム的見地に興味のある方は是非読むべし。虚構の謀略小説に飽き飽きしている方も、本書は優れた権謀術小説である。読むべし。(20050730)

※断っておくが、出だしは乗り切れない。最初、読むのをやめたほうがいいかなあ?という考えがチラリと過ぎったぞ。(書評No543)

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by kotodomo | 2005-07-30 16:56 | 書評 | Trackback | Comments(6)
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Commented by 苗村屋 at 2005-07-30 19:25 x
こんにちは。苗村屋です。『国家の罠』は妻が購入し、ちょっと興味を持っていたものです。読んでみようかなと思いつつ積読状態だったのですが、聖月先生が◎◎であればよまねばなりませぬな。べしべし。
Commented by 聖月 at 2005-07-30 20:14 x
苗村屋さん こんばんび
中々内容のある一冊でした。
つまらん事実の羅列だけかなと期待もせず読み始めたのですが、色々興味深い事実が。
久々に先を追うようにして読んだノンフィクションでした。
明日のプチオフ会、楽しみにしております。5万円くらいあれば足ります? 
Commented by x_SNOOPY_x at 2005-07-30 21:59
★Dear 聖月スーパーサラリーマン♪
(o`・ω・)oモヒョ!!SNOOPYはっ[働きマン]らっけどぉぉぉぉ
この本はっ絶対手に取らない自信がありまふ☆
ウニュッ“o( ̄‐ ̄*) 絶対☆

!!!(-_☆;)キッパリ☆


∑(・ω・*)(・ω・*)(・ω・、)ρ(・ω・、)ρ(・ω・、)ρ(・ωゞ) エグエグ
Commented by 聖月 at 2005-07-30 22:43 x
snoopyさん用に、ハッキリ言いましょう。
本書はハードボイルドノンフィクションノベルです。
ハードボイルドなのです。ストイックなのです。男の矜持なのです。
その証拠に濡れ場シーンは皆無です・・・って関係ないか(^^ゞ
Commented by azami at 2005-08-03 21:12 x
はじめまして。
この本は政治の裏側、外交の駆け引きなどが詳しく書かれていて大変面白く読みました。
 私など、世の中のことがそれほどわかっているわけではないので、聖月さんの解説とあわせて読むと分かってくる気がしました。
Commented by 聖月 at 2005-08-03 23:32 x
azamiさん こんばんび(^.^)
この本、期待していなかったのですが、読んだら面白い。
ある書評、後で読んだのですが、ある意味ハードボイルド小説ですと(^.^)
なるほどストイックな主人公の描写ですんもんね(^.^)
聖月さんの解説は、いかに咀嚼して多くの人に読んで欲しいかと、そんな感じの解説なのです(^^)v


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