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「本のことども」by聖月

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2005年 08月 15日

〇「ルパンの消息」 横山秀夫 光文社カッパノベルス 920円 2005/5

 評者は一度もカンニングというものをしたことがないのだが、ずっと疑問に思っていたことがあって、カンニングの方法論はわかるけど、カンニングペーパーに何を書けばいいの?ということ自体が皆目わからないのである。よく鉛筆が二つに割れるようになっていて、そこを割ると紙が出てくるとか、消しゴムのカバー裏面にビッチリ書き込みがあったりとか、眼鏡の縁の手前に文字が書いてあって・・・みたいなのが漫画なんかで見られるカンニングの風景なのだが、そこに何を書けばいいの?っていうのが、未だもって不明なのである。カンニングをする智恵もないのだよ、とほほ。

 いや、暗記物とか初歩というか基礎というかそういう出題ならわからんでもない。九九の初めての問題でまだ覚えていない人だったら、そういうペーパーは有効だろうし、歴史でも年号のみの出題というのであれば、年表を用意すればいいのだろう。しかし、評者が受けてきた多くのテストは、そういった類のものではなかったはず。もしどうしてもというのなら、教科書&辞書&参考書すべて持ち込む以外に方法はなかったと思うのだが。でも、持ち込めないから教科書は丸ごと暗記したり、数学的な問題は鍛錬を重ねるしかなかったと思うのだが。違うのか?世の中は?

 評者が納得するカンニングの方法というのは、できるやつができないやつにこっそり教えるとか、会場外から第三者がなんらかの手を使い問題を入手しリアルで携帯に解答を送信するとか、替え玉とか、そういうやつである。そういう意味で、本書『ルパンの消息』の試験問題を事前に入手という方法は、一応、形式としては、納得できる方法ではある。

 しかしながら、どこか違和感が・・・ルパン作戦と銘打って、試験前に問題を盗み出そうというのは、これは正しい。が、できの悪い生徒たちだけで、それを挙行するというのが、納得できない。問題を盗み出して一生懸命教科書などを見て解答を考えるなら、頭のいいやつを一人仲間にしろ!と言いたい。いや、盗み出すこと自体に美学があるのだというなら、一生懸命解くな!と言いたい。何かチグハグなのである。

 今はなきサントリーミステリー大賞の佳作に、今や大御所の著者が手を加えての晴れての出版と相成った本書であるが、やはり改稿・加筆を施しても、佳作作品のプロットを大きく変えずにというのは制約があったのだろう。どこか、チグハグな感は否めないのである。

 ミステリーとしては、色んな伏線、複雑なプロット、そういうものを考えうる限り押し込んだような贅沢な作品であり、逆にいうと力の入りすぎた作品である。タイムリミット(時効)、死体の移動、カットバック、不在証明、とにかく色んなものがテンコ盛りなのである。そのテンコ盛りを上手く繋ぎあわすために、チグハグと都合のよい設定が不可欠だったのかもしれない。

 都合のよい設定とは・・・例えば、ある人物がある体験をもとに人格が変わったという設定が出てくるのだが、普通そんな体験でそんな風には人格変わらんだろうと思うのは評者だけか。なぜ!なぜ!!なぜ!!!そいつにはそんなことがわかってしまったのか?という答えが、常日頃からそいつの趣味が盗聴で、現場に盗聴器をしかけていたからなのさ、ははは、という答えは、小説としては都合が良すぎるんじゃないかと思うのは評者だけか?だったら、評者でもミステリーは書けるぞ。色んな謎を提供するだけ提供して、みんなが迷宮に嵌まりこんでしまった物語の最後に、実は一部始終を目撃していた人物というのを登場させるだけでいい。

 と、ここまで批判的なことばかり挙げてきたが、それは、今は大御所の横山秀夫の過去の作品だからに他ならない。そんじょそこらの今の小説たちと比べても面白い作品といえよう。またサントリーミステリー大賞は逃したかもしれないが(第9回の佳作、大賞はあんたが知らん人、第13回の佳作が伊坂幸太郎なのでこの賞は佳作作家に注目か!)、今の加点方式を大事にするこのミス大賞なんかだと、大賞を受賞してもおかしくはないだろう。

 実は評者、“ルパンⅢ世”の面影を期待して読んだのだが・・・被害者の名前が峰舞子で“フ~ジ子ちゅわ~ん♪”を連想させたことのみだったことを報告して筆をおくことにしよう。(20050814)

※表紙カバーに鍵穴・・・その鍵穴の向こうに数字・・・図書館の本なのでカバーは外せないし帯もないし・・・一体なんぞ?と思っていたら、ネットで帯の内容が確認できて、ああなるほどね、と思ったこともあわせて報告して筆をおこう・・・って筆なんか握ってもいないのだが。本当はキーボードから手を離そうが正しいのか?(書評No552)

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by kotodomo | 2005-08-15 14:14 | 書評 | Trackback(8) | Comments(4)
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Commented by SNOOPYヾ(*^-^*) at 2005-08-15 22:21 x
おっ♪消化っちゃいましたね☆
そそっ、、、SNOOPYも「何でゅえぇ~?!(o`・ω・)oモヒョ!!」っの連発でしたよんっ…読みながらも(笑)
登場人物たちのっ無駄がっ多過ぎる…人生の。。。
っなのに、、、で?!どしてっそうなっちゃう訳?!ってね☆
で、後半はっ「改稿&加筆探し」にふけっちゃいました(笑)
そしてっっっ最終的には…
「SNOOPYもっそんな美人だったら人生変わってたかな?!」っなんて、あほな事までっ思っちまったぢゃないかっ!|ω<)プッ
Commented by 聖月 at 2005-08-15 22:36 x
はい(^^)/snoopyさんはどっちの美人なのでしょうか?
峰舞子?婦警?おじさんは婦警のほうが(^^ゞ

3億円の時効の当時はよく覚えているおじ様です。
中学一年。12月9日だったのもよく覚えています。
3億円、凄いですね。事件が起こったのはおじ様が幼き頃。
今でも3億円はたいした金額。なんか今でも凄いとこが凄いですね(^.^)
Commented by ざれこ at 2005-10-31 18:02 x
盗聴!思いましたよねえ。そりゃないだろうと。同感ですー。笑いました。
それにカンニングするなら、せっかく盗んだんだからテスト用紙くらい自分で書け、とか、せめて筆跡変えろとか叱ってやりたかった。私はカンニングはしませんでしたが代筆代返は山ほどやりましたから、そういう時はボールペンを人数分持って行って、筆跡変えて書くまでやりましたよ。(笑)ま、彼らは盗んですっきりしちゃったんですよね。いい奴らです。
Commented by 聖月 at 2005-11-01 08:08 x
ざれこさん おはござ(^.^)
自分が通っていた大学は、300人単位の大講義とかも多く、40人くらいの講義でも出欠を確認しないという在野の自由精神旺盛なとこだったため、代返の経験もなし。
ついでに言えば、学部の過去問なんてのも、近隣の書店では売られていて、それで傾向と対策が・・・この教授、ふたつの問題を毎年交互に出してんだ、一応ふたつとも勉強しとこみたいな。

しかし、本作は色んなものを詰め込みすぎの感ありですね。上手くなると何を削るかというのを考えると言いますが、そういうことを思い出した作品でした。


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