「本のことども」by聖月

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2005年 09月 17日

◎◎「バースト・ゾーン -爆裂地区-」 吉村萬壱 早川書房 1785円 2005/5

バースト・ゾーン―爆裂地区
吉村 萬壱 / 早川書房
スコア選択: ★★★★★


 ダラダラの話を始める前に最初に言っておくが、本書は凄い、本書は傑作である、読むべしなのである・・・が、この作品に対する世評の盛り上がりのなさや、「WEB本の雑誌」の“今月の新刊採点の7月”なんかの評価を考えると、その力量の奥深さがわからない読者も多いのかも知れない。

 さて、ダラダラである。本日2005年9月17日(土)の讀賣新聞12面の「テロとの戦い」という解説記事を見ると、日本の防衛庁も我々国民の知らないところで、着実にテロ阻止行動を進めているようだ。現在、インド洋上で11カ国の海軍がアフガニスタンやその周辺に潜伏するテロリストの逃亡や武器の運搬阻止を目的として、海上阻止行動を艦船を中心に行っている。この11カ国には勿論日本は含まれていない。軍隊を持たない憲法9条を抱える国にできるのは、後方支援、つまり物資の補給、つまるところ“いつもお疲れ様あ♪何もできないけど、これ♪差し入れ♪”って役どころである。差し入れっていっても、艦艇用燃料だけで157億円相当というんだから大きな支援には間違いない。その結果、突撃銃535丁と弾丸数万発、大麻や覚醒剤など末端価格で280億円相当の押収というから、差し引き123億円のボロもうけである(売らんて!押収品。笑)。金額的にも相当な負担であるが、補給回数594回、派遣回数延べ47隻、派遣人員延べ9260人っていうんだから、海上自衛隊もテロ阻止のために大変頑張っている・・・。

 コラコラア!1面の記事もちゃんと読んでるぞ。「退職金17億かさ上げ-自衛官3割 退職日に昇進」なんてことだい、コラ。テロ対策とかに予算とってる裏で、お手盛りするんじゃないっつうの!ちゃんと、国内の災害対策も含め、活動に使いなさい!

 ってことで、本書『バースト・ゾーン』はテロを中心に据えた物語なのだが、9.11とか現実世界のものとはまた風景が違う。評者的に考えたとき、最初の文学上のテロは、あの丸善の店先に紡錘形の黄色い爆弾を置いた梶井基次郎である。その後、近年になって町田康作品のダメ主人公たちが“テロル”を夢想するが夢想に終り、本書に置いて爆裂するのだが、その名称は“テロ”でも“テロル”でもなく・・・“テロリン”・・・可愛い名前である。テロテロテロリン♪なんて口ずさみたくなるわさ。

 本書は820枚。第一章では、テロリンに混乱する架空なのか未来なのかわからない日本みたいな国で晴れ間のない生活を営む5人の人物たちの物語である。この章は◎『ハリガネムシ』にも似た暗くグロくエロくの描写もあるが、一方、紡がれる物語の行き先もわからないくらいに読ませる。なるほど、傑作とは聞いていたが・・・。

 ところが第二章。傑作度が100万倍である。多分、この章を途中まで読んでいるところで本書をとりあげられたとしたら、評者は悶絶死していたことだろう。そのくらいに話がどうなっていくのか気になって仕方のない読書体験だったのである。梅原克ちゃんの◎『二重螺旋の悪魔』を読んだときのような感じ。SF的で空想的で奇想的でありながら、その物語の中にグイグイなのである。“ふん、どんな映画やろ”な~んて思いながら「エイリアン」や「プレデター」や「遊星からの物体X」を観たときの、“ええっ!これからどうなるの!?”あんな感じである。なに?観たことない?見なさい。

 醸しだされる雰囲気や場面、途方もなく多種性を持つ820枚である。深町秋生の世界や花村萬月の匂いもするし、阿部和重町田康の大作も思い浮かべるし、はたまた宮崎駿の「風の谷のナウシカ」までどこか彷彿させる820枚なのである。これだけ引き合いに出して、それでも読みたくない人は読まなくてよい。ただし、宮崎駿「風に谷のナウシカ」はあまりにも部分的なので、深町、萬月、阿部、町田が好きくないよ!という方は仕方ない。評者的には読むべし、読むべし、べし、べし、べし!である。今年の押さえ本である。こんな傑作、今読み逃したら、もう将来的に喚起され手にとることはないかもしれない。

 今年の押さえ本。多分、今年、町田康の◎◎『告白』と本書に加え、2003年の押さえ本であった阿部和重の◎◎『シンセミア』が間違って2005年に出版されたりしていたら、2005年という今年は凄い年になっていたことだろう。まあ、個人的に、評者的に。本書を含めたこの3冊の共通項、芥川賞作家が書いた力量ある紡がれる長篇物語である。3冊とも読むべし!!!(20050917)

※壮大な映像が頭に投影されたような読後感でした(^.^)(書評No565)

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by kotodomo | 2005-09-17 13:58 | 書評 | Trackback(5) | Comments(10)
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Commented by ざれこ at 2005-09-19 03:09 x
エントリありがとうございました。聖月さんはいつも意外な引き出しからエントリを下さいますよね。私にとってはってことですが。全く知らなかった本ですが、町田、阿部と言われたら私も読まないわけにはいかないのです。途中で奪われて悶死しないように頑張ります(笑)
Commented by 聖月 at 2005-09-19 07:13 x
結局ですね、私が投票したくなるやつっていうのは、自分でどんなことがあっても絶対こんな作品書けないや、みたいな力量持つ作家の力作になってしまいますね。
多分、飯島和一、古川日出男なんかが自分にフィットした作品出したら、迷わずでしょうね。
風の谷のナウシカもヨロピク(笑)
Commented by notaro_hinemojira at 2005-11-07 14:57
確か読んだのはわたしの方が先だったような記憶がありますが、今頃アップしました。文章は聖月さんより短いのに、何気に遅筆なわたしです。
Commented by 聖月 at 2005-11-07 19:52 x
しかし乃太郎さん、この本、面白かったですねえ。
頭を穴に突っ込んで虫と闘う男の描写なんて・・・・さすが作家。さすがプロって感じでしたね。
Commented by notaro_hinemojira at 2005-11-08 18:06
吉村萬壱の頭の中はすごいことになってそうですね。
でもこれだけ作風コロコロ変えたらファンが付きにくいかもしれませんね。わたしは迷わず次作もいきますけど。
Commented by 聖月 at 2005-11-08 20:47 x
はい(^^)/私も迷わず次行きます。
でも『クチュクチュバーン』はどうしようかと迷っています・・・なんか、今のとこその気なし・・・読もうかなあ。
Commented by notaro_hinemojira at 2005-11-09 20:18
『クチュクチュバーン』が楽しかった人は『バースト・ゾーン』も楽しめると思うのですが、逆は微妙です。でも薄っぺらくてすぐ読めますから是非!
Commented by 聖月 at 2005-11-10 07:30 x
これだけの力量のある作家ですからね、読んでみましょうかね。
なんだかんだ言って、文学作品っていうのは私の場合、大きくはずれませんから。ミステリーだと大外れなんてしょっちゅうなんですが。
時期をみてサラリと読みまする。
Commented by ざれこ at 2006-03-08 01:34 x
読んじゃいました。夢に見ました。実話です。怖かったです。
この本は面白かったですけど、吉村氏、他のも読むかというと、微妙かも。とりあえず自分の本を売る気なさそうですよね、この人(笑)そのスタンスはいいと思います。
Commented by 聖月 at 2006-03-08 08:11 x
ざれこさん おはござです。
近年、芥川賞受賞作家の長編大衆文芸にいいものが散見。
『告白』町田康に本書、あと受賞の前後はあっても、『シンセミア』阿部和重とか花村萬月とか。
吉村氏、花村氏の萬々コンビの本を、私もすべて読みたいのかというと、そんなことはない(^.^)


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